光エネルギーによって駆動するソーラー発電ウォッチは、ゼンマイ残量や定期的な電池交換を気にせずに使い続けられるのが大きなメリット。しかし、光の届かない場所に長期間放置すれば、パワー切れで停止するのはこの種の時計の宿命です。
そんななか、シチズン時計(1918年、東京で創業)が2023年10月19日に発売した「エコ・ドライブ 365(Eco-Drive 365)」なら、モデル名からわかるとおり、1度のフル充電で365日間(つまり1年間!)、止まることなく動き続けてくれるのです。
超絶の高発電効率ムーブメントを搭載した「エコ・ドライブ 365」。ラメ調合が施された文字板は、星空の美を表現しています。写真はオールブラックモデルの「BN1015-52E」。公式サイト価格63,800円(税込)
シチズンの核心的技術とも言える「エコ・ドライブ」は、太陽光はもちろんのこと、室内のかすかな光さえも電気に変換し、余剰電気は2次電池に蓄電しつつ、それらのエネルギーで時計を長期間駆動させる同社独自の光発電技術です。その原点は、1976年に世に送り出した世界初の光発電式アナログウォッチ「クリストロン ソーラーセル」であり、それ以来、同社はたゆまずその技術力に磨きをかけ、この分野において揺ぎなく、リーディングカンパニーであり続けています。
そうした不断な努力による成果のひとつが、今回ご紹介する「エコ・ドライブ 365」だと言えましょう。このモデルに搭載されている「Cal.E365」は、低消費電力と長時間駆動を徹底追求することで、「エコ・ドライブ」の特性がさらに強化された新開発ムーブメント。発電効率が大幅に高められ、運針パルスなどにも工夫を凝らすことで低消費電力を進化させたもので、本モデルはパワーセーブ機能(※1)が備わっていないにもかかわらず、前述のとおり、フル充電で約1年間も動き続けるという、すこぶるタフなソーラー発電ウォッチへと結実したのです。
※1:一定期間、ソーラーセルに光が当たらずに発電されないと、運針が停止するなど自動的に節電状態になる機能
ちなみに、パワーセーブせずに1年以上駆動できるソーラー発電モデルは実はこれが初ではなく、同社の「エコ・ドライブ ワン」などがあげられます。とはいえ、本モデルの場合、中価格帯でこのスペックだというのがうれしいポイントなのです。しかも、それを実現せしめた「Cal.E365」がさまざまなデザインに対応可能なうえ、径27mm&厚さ3.18mmのコンパクトな高汎用性ムーブメントである点も革新的と言えましょう。
「エコ・ドライブ365」のレギュラーモデル。左はオールブラックの「BN1015-52E」、右はシルバー×ブラックの「BN1014-55E」。公式サイト価格58,300円(税込)
「エコ・ドライブ 365」で注目したいのは、ムーブメントだけではありません。ということで、上の写真をご覧ください。こちらが現在、レギュラー展開されている2モデルで、ひとつは漆黒文字板×ジェットブラックカラーのベゼルやケース、ブレスレットの組み合わせが精悍なオールブラックモデル「BN1015-52E」。もうひとつはステンレス無垢のケース&ブレスレットにブラック文字板&ベゼルが明瞭に映える、ちょっとカジュアルなたたずまいの「BN1014-55E」です。
いずれもラグ(※2)のない変形トノー(樽型)ケースが何ともレトロで、どこか懐かしさがあり、それが一見印象的です。それもそのはず。このデザインは実は、およそ半世紀前にシチズンが発売したモデルにインスパイアされたものだからです。
※2:ベルトやブレスレットをケースに固定するためのケース突き出し部
1973年9月、シチズンは、同社初のクォーツウォッチ「シチズン クオーツ」(後の「クリストロン」)を発表しました。それは水晶振動子の16,384Hz(ヘルツ)という安定した高振動により、平均月差±10秒以内を実現した高精度モデルでした。そして、その翌月には±5秒以内に進化させた特別調整品「シチズン クオーツ E・F・A」(以下、「クオーツ E・F・A」と記します)をリリース。これが「エコ・ドライブ 365」のデザインルーツです。
1973年10月発売の「クオーツE・F・A」。「EF(エキストラ・ファイン)ダイヤル」と称された文字板はブルーゴールドストーン製でした
上の写真は、その「クオーツ E・F・A」です。1970年代に人気を博したラグレスデザインのトノー型ステンレススチールケースは、上下計6か所に山なり状のエッジが設けられた直線的面構成を成しており、この個性的なケースシルエットを干渉せぬように、リューズはケースに埋め込まれたかのごとく、控えめに取り付けられています。
また、メタルインデックスは文字板ではなく、文字板外周の見返しリングに設けられており、そのうちの12時、6時、9時位置にはルビーをセット。アヴェンチュリン効果(※3)を表す文字板は、ブルーゴールドストーン(紫金石とも言う)と呼ばれる、銅粉末を含有する人工ガラス製でした。ちなみに、この素材はルネサンス時代のイタリアで、天然鉱物から偶然にできあがったとされる歴史ある人工石。古くからジュエリーとして愛用されており、近年ではパワーストーンとしても人気です。
※3:内包された金属片や鉱物片がきらめく作用のこと
12時位置から6時位置に至る稜線を中心軸にした山なり形状と、直線を巧みに取り込んだ多面構成のケースデザインは、このモデルをいっそう個性的なものに見せています。写真は「BN1015-52E」
「エコ・ドライブ 365」では、上記で述べた「クオーツ E・F・A」の個性がほぼ忠実に再現されています。たとえば、山なり形状と直線的な面構成から成る、大変印象的な変形トノー型ケース、ラグレス仕様、存在が控えめな小振りのリューズなどは「クオーツ E・F・A」そのものと言うべきものです。しかも、そこにシチズンが今日までに培ってきたステンレス加工技術や研磨技術などを十二分に生かし、1970年代テイストのレトロロマンな味わいはそのままに、現代の感性にかなった新解釈が加味されています。
では、文字板はどうでしょうか?
「クオーツ E・F・A」のそれはブルーゴールドストーン製であることは先述しました。いっぽう、「エコ・ドライブ 365」はソーラー発電モデルであり、そのため裏側にソーラーセルを備えた文字板は受光部の役も担っていることから、ブルーゴールドストーンを使用できません。そこで、これに代わる素材として、透過性のあるポリカーボネートを採用。しかも、サイズや色の異なる4種類のラメを調合したうえで、それらをこのポリカーボネートに練り込ませてあるのです。結果、「クオーツ E・F・A」のようなアヴェンチュリン効果を持つ文字板の美しい質感が再現されたことで、キラキラとさんざめく星々が交響する夜空を文字板上で表現することに成功しているのです。
ラメがきらめく漆黒文字板とインデックスの張り出しの組み合わせで、大宇宙のパノラマを仰ぎ見るかのような美しさが実感できます。写真は「BN1015-52E」
メタルインデックスもまた、元祖モデルのそれにならって見返しリングにセットされており、それらが文字板の中心に向かって大胆に張り出した様が大変に個性的です。そしてこのデザインが、文字板に描かれている澄みわたって美しい星空を無限のもののようにイメージさせる、そんな奥行きと立体感を付与しているようにも感じます。
さらに、真鍮製の時分針は山なりのケース形状に呼応するかのように、左右に面カットが施されています。ブレスレットに目を転じれば、ケースとブレスレットを連結し、かつ着用時のブレを防ぐ役も担っている弓カン(※4)にも同様に、その直線的面構成による山なりデザインが取り入れられていることがおわかりでしょう。
※4:エンドピース、フラッシュフィットなどとも呼ばれる
裏ブタに、天空を回遊する星々の光跡を思わせるヘアライン仕上げが見て取れます。写真は「BN1015-52E」のサンプル版。製品版では、この裏ブタにリファレンスナンバーなどが刻印されています
ところで、ケースを転じて、裏ブタに施された同心円状のヘアライン仕上げを目にした筆者は、北極星を自転軸にして天空を周回する無数の星々の光跡を思わずイメージしてしまいました。実際はそのように意図して採用された仕上げではないのかもしれません。が、夜空を表す文字板で飾られた、このモデルにふさわしいケースバックだと、そんな感想を持った次第です。
以上、「エコ・ドライブ 365」レギュラーモデルの見どころをひととおり確認してきました。ということで、最後に、腕に装着した際の印象について少し触れたいと思います。ここではセミカジュアルなギンガムチェックのシャツに、オールブラックの「BN1015-52E」を組み合わせてみました。
ビジネススタイルにも、カジュアルスタイルにも無理なく自然にマッチしそうです。写真は「BN1015-52E」
ケース径42.5mmは大きすぎず、小さすぎることもない、オトコの腕には中庸のサイズ。それでいて三針式の簡素なフェイス構成、ラグレスのデザイン、ケースのツヤ感を抑えたヘアライン仕上げによるものなのか、一見して存在感はやや控えめな印象です。それゆえにカジュアル全般にはもちろんのこと、ビジネスの着こなしにも違和感なく溶け込むはずです。
いっぽう、光の調子や入射角の変化が文字板のラメをきらめかせ、ケースでは多面で濃淡を移ろわせていくさまには華やぎがあり、それが手元にほどよい色気をもたらしてくれるのも本モデルの魅力。要は、コーディネートにおいて高い汎用性を備えつつも、ありきたりに陥ることなく、若々しさやあでやかさものぞかせる、この塩梅が絶妙な時計であるなと実感した次第です。
ところで、本稿では「エコ・ドライブ 365」のレギュラーモデルについて、その魅力を検証しているわけですが、実は、同じ2023年10月19日に発売された限定モデルも存在しており、こちらも注目すべきポイントがありますので、簡単ではありますが以下で触れておこうと思います。
「エコ・ドライブ 365」の「BN1010-05E」は世界限定1200本。公式サイト価格110,000円(税込)
上の写真を見れば、レギュラーモデル以上に、1973年発売の「クオーツ E・F・A」に迫ったデザインであることは明らかです。とりわけ、文字板外周の見返しリングと、そこに設けられたメタルインデックス、各針にゴールドカラーを取り入れ、人造ルビーを添えたフェイスは、元祖モデルを想起せずにはいられない個性と言えましょう。ちなみに、この限定モデルに採用されている人造ルビーは、「クレサンベール」と称された京セラが独自開発した素材で、ルビーの持つ深紅色と高い透明感が見事に再現されています。
機能面のスペックはもちろんのこと、多面構成の山なり形ケース、ラメ配合の漆黒文字板などの基本デザインはレギュラーモデルと変わりないいっぽうで、ベゼル&ケースを鏡面仕上げにしたことで、これが華やぎあるフェイスと相まって、優美でセクシーな時計に結実しています。ちなみに、バンドはLWG認証(※5)のブラウンカーフレザーで、これも本モデルの姿に秀逸にマッチしております。
※5:皮革産業関連の国際的団体による、厳格な環境対策を実施する皮革関連会社に付与される認証
シチズン「エコ・ドライブ 365」のレギュラーモデルに話を戻しましょう。
この時計にはさまざまな魅力が備わっているわけですが、最も注目すべき点に絞れば、以下に大別できるかと思います。
(1)1回のフル充電で約1年間、駆動し続ける超タフな「エコ・ドライブ」を備えていること
(2)1973年に発売された「クオーツ E・F・A」のデザインを再現していること
(3)ラメが配合された文字板で星々がさんざめく夜空を表現していること
以上を踏まえたうえで、このモデルをどのような人たちにおすすめできるのかを考えますと、まず電池切れを回避したい人に、ということになるでしょう。ソーラーウォッチの場合、使用していない時期が続くと運針が止まってしまうことがあるので、フル充電で約1年間動いている、というのは頼もしく思えるはずです。
また、この数年、ファッショントレンドのひとつに1970年代スタイルの再評価が上げられますが、「クオーツ E・F・A」を範とし、直線的な面構成などの当時最先端と目されたレトロフューチャーのデザインを再現しつつ、モダナイズが図られた本モデルなら、時計に“イマの気分”を求めたいファッション好きに直球で刺さること間違いありません。
そして、時計のデザインにロマンを所望したいという人にもぜひ。たとえば、慌ただしい日常生活の折々に、文字板からのぞく小宇宙に見入ってみれば、束の間にも思いは悠遠の時空へと飛翔して、ささやかながら、そのイメージが安らぎをもたらしてくれることでしょう。
●写真/篠田麦也(篠田写真事務所)
【SPEC】
シチズン「エコ・ドライブ 365」レギュラーモデル2型
●ムーブメント:「Cal.E365」
●動力:光発電「エコ・ドライブ」
●駆動持続時間:フル充電状態から約1年
●防水性能:10気圧
●ケース素材:ステンレススチール
●ガラス:サファイアガラス(無反射コーティング)
●バンド素材:ステンレススチール
●ケース径:42.5mm
●ケース厚:11.1mm
●主な機能:充電警告、過充電防止、クイックスタート、日付表示、日付早修正など