フォルクスワーゲンジャパンは、2024年度後半から続々と新型車を発売する(詳しくは以下の記事を参照)。
その第1弾が、今回レビューする新型「T-Cross」だ。当記事では、マイナーチェンジされた「T-Cross」へ試乗した印象についてレポートしよう。
コンパクトカーのフォルクスワーゲン「ポロ」をベースとしたSUV、「T-Cross」。今回は、2024年7月3日にマイナーチェンジされた「T-Cross」に試乗した
2019年に欧州でデビューした「T-Cross」は、わずか5年で世界累計販売台数が120万台を超えるヒット車となった。日本においても、2020年から2022年まで3年連続で輸入SUVカテゴリーにおいてトップを誇り、そのシェアは25%から30%弱を占めるほどだ。ちなみに、2023年においては1位が「T-Rock」で2位が「T-Cross」だった。
グローバルのみならず、日本市場においてもヒットした最大の理由は、扱いやすいボディサイズにある。全長4,140mm(R-Lineは4,135mm)、全幅1,760mm(R-Lineは1,785mm)、全高1,580mm、ホイールベースは2,550mmで、全長は先代(改良前)の4,115mmよりも長くなったが、それ以外は同じディメンションを保っている。
「T-Cross」のフロント、リアエクステリア。フロントグリルやテールランプを中心に変更が施されている
エンジンは、先代と同様に直列3気筒ターボエンジンを搭載し、最高出力116ps/5,500rpm(改良前は116ps/5000-5500rpm)、最大トルク200Nm/2,000-3,500rpmを発揮。先代と比べて、スペック上での変更点はほとんどない。
「T-Cross」のマイナーチェンジにおける大きな改良ポイントとしては、内外装の改良にある。特に、フロント周りはLEDマトリックスヘッドライトの「IQ LIGHT」を「TSI Style」グレード以上に標準装備としたほか、バンパー周りの形状を変更して新色を追加した。
インテリアは、質感向上を目的にインパネ周りにソフトパッドを採用したほか、フロントシートヒーターを「TSI Style」グレード以上に標準装備することで快適性を向上。
「T-Cross」のインテリアは、マイナーチェンジ前と比べてデザインが変更され、ソフトパッドの採用などによって上質感が高められている
今回、試乗したのは「TSI Style」。先代よりもわずかに値上げされているが、前述の「IQ.LIGHT」などの装備面が充実しているので、実質的には値下げというグレードだ。ただし、駐車支援システムの「Park Assist」とレーンチェンジアシストシステムの「Side Assist Plus」については、オプション設定に切り替えられていることに注意してほしい。
輸入車の傾向として、発表などがなされていない改良が年次ごとに行われることが多い。それは、今回の「T-Cross」でもそうだ。乗り始めて、すぐに気づいたのは乗り心地がしなやかになったことだ。
マイチェン前のモデルは若干突っ張り傾向で、乗り心地としては少々硬めで突き上げ感が気になることが多かったのだが、今回試乗した新型ではその傾向が少なく感じられたのだ。さらに、先代と比較して3気筒独特のエンジン音があまり気にならなくなり、ロードノイズも減少しているなど、静粛性が高くなっているように感じられた。
また、7速DSGも改良されているようで、元々シフトアップ、ダウンのショックは気にはならなかったのだが、よりスムーズになったようだ。さらに、高速道路においてはコースティングせず、きちんとエンジンブレーキで減速できるので運転しやすい。近年、燃費を稼ぐために積極的にコースティングした結果、ひんぱんにブレーキを踏まなければならないというジレンマに陥るクルマが多いのだが、「T-Cross」ではそのようなことはなく、高速道路を快適にクルージングできる。
乗り心地については、高速道路などで継ぎ目を超えたときにクルマ自体は上下動するのだが、そのショックをしっかりとサスペンションが吸収してくれて快適だ。フロントシートは、若干座面が長いものの座り心地がよいので、長距離の運転もさほど疲れなく走りきれそうだ。
ただし、7速DSGの積極的なシフトアップは今回も同様で、「ここでパワーがほしい」と思ったときにアクセルを踏んでも、想像以上に高いギヤに入っているため一瞬もたつき、そこから2段くらいシフトダウンして改めて加速する。そして、加速してからはターボが効き始めて思った以上にパワーが出るという状況が試乗中に何度かあった。このあたりは、小排気量エンジンなので致し方ないところかもしれないが、特に市街地などでは少々気になる点かもしれない。
また、1〜2名乗車時のパワーは必要にして十分なのだが、フル乗車したときには若干パワー不足を感じるかもしれない。そのため、もし後席にも人を乗せる機会が多い方は、一度多人数で試乗してみてパワー感を確認してみるとよいだろう。
ちなみに、わずかな時間だが後席にも座ることができたので、その印象をまとめておこう。後席の座面は、若干硬いものの座り心地はよい。また、写真では平坦に見えるが、意外とホールド性があるシートだ。また、頭上空間がしっかりと確保されており、かつフロントシート背面がわずかにえぐれていることもあって圧迫感も非常に少なく、とても快適だ。このセグメントとしては十分に広く、かつ静粛性も良好で高く評価できる後席だ。
インテリアは、冒頭で記したとおり質感の向上に重きが置かれている。ソフトパッドなどが、インパネ周りに採用されているのは、確かに質感の高さが感じられた。だが、ドアのアシストグリップやその周辺は固い樹脂のままなので、少し物足りない。ひんぱんに手が触れる部分こそ質感が向上したと感じられるはずなので、次回の改良ではぜひそのあたりにも配慮してほしい。
助手席前のインパネにはソフトパッドが採用されているなど、上質感の向上が図られている
もうひとつ、残念なことにエアコン周りのレイアウトが変更されて使いにくくなっていた。これまでは、ダイヤル式による温度調整やボタン式で風量調整ができたのだが、今回は指をスライドさせてコントロールする「ゴルフ」と同じようなタイプに変更されている。エアコンのような操作は、クルマが止まっているときだけでなく、走行中にもひんぱんに使われる。その際に、振動などで指を一定に保つのは難しいものだ。安全かつ適切な操作をするためには、改良前のほうがふさわしいので、ぜひ改善を望みたい。
エアコンスイッチは、近年のVW車が採用するタイプに変更されている
また、これは先代から引き続きなのだが、ドアミラーがドアマウントではないので、特に右前方の死角が大きく、またCピラーによって左後方に大きな死角ができてしまっているのが少々残念な点だった。
いっぽう、しっかりとしたシフトレバーが先代から引き続き採用されているのは好ましい点だ。スイッチタイプのシフトと比較して、しっかりと操作していると感じさせるもので、ドライバーの「運転する」意識を高めるのに一役買うことにつながるからだ。
シフトは従来と同様のタイプなので扱いやすい
グレードについてだが、大きく3つにわかれており、中でも今回試乗した「Style」は装備面も含めて買い得感があるグレードだ。いっぽう、上級の「R-Line」はタイヤサイズがアップされるなど、デザイン的な要素がふんだんに盛り込まれている。だが、筆者としては「R-Line」の215/45R18タイヤによる乗り心地の悪化は大きいと感じられるので、内外装デザインをどうしても優先させたいというユーザーでなければ、乗り心地がよい「Style」をおすすめしたい。
コンパクトカーの「ポロ」をベースに、SUV化したのが「T-Cross」だが、それについてネガな部分は感じられなかった。車高が上がっていても走行安定性は損なわれていないし、妙な腰高感がないことなどは高く評価できるものだ。いっぽう、これまでのドイツ車ならではの質実剛健さから、より質感を高くするために室内にソフトパッドを使うなどの変化が見られるのも興味深い点だ。
今回の「T-Cross」の試乗では、内外装だけでなく機能面などもしっかりと進化していることが見て取れたので、そのうえで車両価格に納得すれば、きっとよい買い物になることだろう。