軽自動車の中で、最も多く販売されている人気のボディタイプが「スーパーハイトワゴン」だ。全高が1,700mmを超えるミニバン風のボディなので車内は広く快適で、スライドドアが装備されているので後席もラクに乗り降りできる。定員の4名全員が乗車しても、快適に過ごせる。さらに、後席をたためば荷室が拡大するので、大きな荷物も積みやすい。そのため、スーパーハイトワゴンは子育て世代のファミリーを中心に、幅広いユーザーから支持されている。
今回は、そんなスーパーハイトワゴンの中でも、販売台数1位のホンダ「N-BOX」と、2位のスズキ「スペーシア」の2台を比較してみよう。なお、「N-BOX」は2023年10月6日、「スペーシア」は2023年11月26日と、どちらも同時期にフルモデルチェンジされている。
今回の比較については、以下の動画でも詳しく紹介しているので、ぜひご覧いただければ幸いだ。
ちなみに、今回試乗したグレードは、「N-BOX」は外観がドレスアップされている「ファッションスタイル」(174万7,900円)で、「スペーシア」は標準ボディの「HYBRID X」(170万5,000円)。どちらも、NAエンジンが搭載されている売れ筋グレードだ。
昨今の軽自動車は、規格枠いっぱいにデザインされている。そのため、「N-BOX」と「スペーシア」はどちらも全長は3,395mm、全幅は1,475mmと共通だ。さらに、この2台は全高も「N-BOX」が1,790mm、「スペーシア」が1,785mmとほぼ同じ値となっている。
上がホンダ「N-BOX」(グレードは「ファッションスタイル」)で、下がスズキ「スペーシア」(グレードは「HYBRID X」)
だが、ホイールベースについては異なる。「N-BOX」は軽自動車で最長の2,520mmで、「スペーシア」の2,460mmよりも60mm長い。そのため、「N-BOX」は4輪がボディの四隅に配置されており、安定感のある外観となっている。
エクステリアは両車とも水平基調で、ボディの先端や車幅などがわかりやすく、運転しやすい。
最小回転半径は、「N-BOX」が4.5m、「スペーシア」は4.4mと、小回りのききは後者のほうが少しすぐれている。
「N-BOX」は、新型ではフロントマスクのメッキが無くなってヘッドライトが丸みを帯びるなど、よりやさしい印象になりました。いっぽうの「スペーシア」は、存在感のあるメッキグリルやコンテナをイメージしたガッシリとしたボディなど、力強いイメージです。両車、それぞれのタイプの違いが、外観からも感じられます
「N-BOX」のインパネは、先代に比べてスッキリとシンプルにデザインされた。インパネの上端が平らになり、内装がスッキリとしたので前方がより見やすくなった。また、メーターがデジタル化されることで、表示できる情報量を増やしている。エアコンスイッチは、直感的に操作できるような高い位置に装着されている。
ホンダ「N-BOX」のインテリア。グレージュを基調とした明るいカラーが採用されており、自宅のリビングのような室内空間へと仕上げられている
いっぽう、「スペーシア」はインパネの上下方向に厚みを持たせて立体的に仕上げられている。その代わり、インパネの上端は「N-BOX」ほどスッキリはしていない。前方視界よりも、質感を強調したデザインだ。操作性に不満はなく、ハザードランプのスイッチなども使い勝手を向上させている。先代では、低い位置に装着されて使いにくかったが、現行型では高い位置に移された。
スズキ「スペーシア」のインテリア。ブラウンを基調に、サイドルーバーガーニッシュやドアアッパー部分にマットな質感のカフェラテ色を採用するなどによって、居心地のよい室内空間を演出している
『N-BOX』のインテリアは、新型になってインパネ周りがスッキリとしたので、視界が広くて前方が明るく感じられます。『スペーシア』は、助手席前の広いトレイが使いやすそうで、トレイの近くにはUSBのType-AとType-Cのポートが両方備えられているのも便利ですね
まず、両車の前席から比べてみると、「N-BOX」の座り心地は「スペーシア」よりも少し硬い。ゆったりとリラックスできるのは「スペーシア」のほうだ。
スズキ「スペーシア」のフロントシート
だが、荒れた路面では印象が変わってくる。路上の細かな凹凸による振動は、「スペーシア」よりも「N-BOX」のほうが乗員に伝わりにくい。また、座面の造りも異なる。「N-BOX」のシートは、「スペーシア」に比べて腰をしっかりと支えてくれる。肩まわりのサポート性はいまひとつだが、「N-BOX」は長距離を移動するときにも疲れにくい。
ホンダ「N-BOX」のフロントシート
後席については、両車ともに広い。頭上には十分な空間があり、後席のスライド位置を後端まで寄せれば足元空間は大幅に広がる。身長170cmの大人4名が乗車したとき、後席に座る乗員の膝先空間は、両車ともに握りコブシ4つ分に達する。
ただし、実用的には後席の足元空間をここまで広げる必要はないだろう。後席を最後端までスライドさせると、リアウィンドウと後席に座る乗員の頭部が接近してしまうため、万が一追突されたときのリスクが高まるからだ。
そこで、実際に後席へ座るときには、後席の膝先空間を握りコブシ2つ半程度になるように、前側へスライドしてみよう。このくらいなら、乗員とリヤゲートの間に相応の空間が確保されるので安心感も高まる。
後席の座り心地を比べてみると、「N-BOX」は座面の作りが柔軟で、体が少し沈んだところでしっかりと支えてくれる。そして、座面の前端に丸みを持たせているので、小柄な乗員が座るときには膝の裏側が押されにくくて快適だろう。だが、長身の乗員には座面が少々短く感じられるかもしれない。大腿部のサポート性も甘くなるので、少し注意が必要だ。それでも、腰の支え方などはよいほうだ。
ホンダ「N-BOX」のリアシート。座面をチップアップさせることができ、後席を荷室として広く使うこともできる
いっぽうの「スペーシア」は、売れ筋グレードの後席に「マルチユースフラップ」が装着されている。ミニバンのオットマンに似た機能で、角度を調節するとふくらはぎが支えられて足の収まりがよい。さらに、「マルチユースフラップ」を座面の上側まで持ち上げると、座面上に置いた荷物が床に倒れにくいという使い方もできる。ただし、「マルチユースフラップ」を組み込んだために、座面の前端は少し硬めだ。
「スペーシア」のリアシートには、新たに「マルチユースフラップ」が採用されている(「スペーシア HYBRID G」「スペーシアカスタム HYBRID GS」を除くグレードに装備)。フラップの位置や角度を調整することで、くつろぎ感を得られる「オットマンモード」や走行中の姿勢安定をサポートする「レッグサポートモード」(上)、荷物の落下を予防する「荷物ストッパーモード」(下)の3つのモードが備わっている
『N-BOX』のリアシートは座面を跳ね上げられるので、お子さんが立って着替えたり大きな荷物を後席に載せたりなど、さまざまな使い方ができて便利そうです。『スペーシア』は、スズキ初の『マルチユースフラップ』を使って、くつろぎながら快適に移動出来るのがいいですね
両車ともに、後席の背もたれを前側に倒すと座面も連動して下がり、広い荷室になる。路面からリヤゲート開口下端部までの高さは、「N-BOX」が470mmで、「スペーシア」は510mmだ。重い荷物は、荷室の床が低い「N-BOX」のほうが積みやすい。
「スペーシア」(上)と「N-BOX」(下)のラゲッジルーム(どちらも後席を倒した状態)
両車ともに、インパネの左側(助手席前)にトレイが設けられているが、「スペーシア」は特にサイズが大きく、コンビニ弁当なども置けるように配慮されているなど、使い勝手がよい。
そのほかの収納設備については、「N-BOX」でも不足はないが「スペーシア」のほうが豊富だ。助手席の前側には、さきほどのトレイの下にボックスティッシュが収まる引き出し式の収納も備わり、そのさらに下にグローブボックスが配置されている。
「N-BOX」の助手席前インパネには、ぬくもりのあるコルクのような質感のインパネトレーが備えられている
「スペーシア」の助手席前インパネには、ホワイトの大きなオープントレーが採用されている。さらに、オープントレーの下には、ボックスティッシュが入るインパネボックスも備えられている
さらに、「スペーシア」では助手席の下側にスズキ車の特徴のひとつでもある「助手席シートアンダーボックス」が備わっている。「助手席シートアンダーボックス」は車外にも持ち出せるので、濡れたものや汚れたものを入れるのにも役立つ。
「スペーシア」の助手席シート下には、取り外し可能な「助手席シートアンダーボックス」が採用されている(「G」グレードを除く)
安全装備と運転支援機能は、両車ともに充実している。衝突被害軽減ブレーキは、前後両方向に作動する低速用も採用されている。また、「スペーシア」の衝突被害軽減ブレーキは、右左折時にも直進車両や歩行者を検知して作動する。
このように、「N-BOX」と「スペーシア」は新型モデルとなって、内外装や使い勝手の面でライバル車との違いがより顕著になり、わかりやすく差別化されていると言えそうだ。次回は「走り」について、両車を乗り比べながらチェックしていきたい。
(写真:島村栄二、価格.comマガジン編集部)