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レビュー

オーナーが語る「フロンクス」とスズキ車の魅力とは? 長距離試乗で実際に体感

スズキのコンパクトモデル、「フロンクス」の売れ行きが好調だ。その魅力を探るため、気仙沼に住む「フロンクス」ユーザーを訪ねてみた。実は、その氏はシトロエンファンであるとともに、スズキ「バレーノ」も所有する人物だった。

スズキ「フロンクス」を購入したユーザーへインタビューするとともに、筆者自身も東京〜宮城間を「フロンクス」で長距離試乗して、その実力を試してみた

スズキ「フロンクス」を購入したユーザーへインタビューするとともに、筆者自身も東京〜宮城間を「フロンクス」で長距離試乗して、その実力を試してみた

愛車遍歴と「バレーノ」選択の理由

気仙沼に住む菅原恭さんは歯科医師で、シトロエンをこよなく愛するクルマ好きだ。2011年3月11日、気仙沼にも大きな津波が押し寄せ、菅原さんのクルマや奥さまの敦子さんのクルマも流されてしまった。そこから仕事も含めて徐々に復興し、ここ数年は再び複数台のシトロエンとともに、7年前には奥さまの足として「バレーノ」を購入し現在にいたっている。

菅原さんご夫婦と、愛車の「フロンクス」(左)、「バレーノ」(右)

菅原さんご夫婦と、愛車の「フロンクス」(左)、「バレーノ」(右)

菅原さんの“癖”として、実際に自分で所有して体験しないと納得しないという信念がある。最近では、9代目のトヨタ「マークII」を所有し、その耐久性の高さや空調性能のすばらしさとともに、直進安定性やシートの弱さも体験。そして現在は、ポルシェ「ボクスター」を所有し、ポルシェというメーカーが本当にすばらしいのか、またネット上で話されている弱点は本当なのかなどを自身で経験しようとしている。「経験したからこそ、悪口も言えるのです」という思いがあるからだ。そして、そのようなクルマたちは1〜2年ほどで菅原さんの手から離れていく。

しかし、「バレーノ」に関してはそれらのクルマたちとは異なるようだ。何せ7年も、しかも愛する奥さまの足として活躍しているからだ。なぜ、菅原さんは「バレーノ」の購入にいたったのだろうか。

「実は、その前の家族のクルマはプジョー『5008』でした。これも長く乗ったのですが、そろそろ代替えをと考えた結果、『バレーノ』にしました。妻は、これまでも欧州車のコンパクトハッチなどを乗っていましたし、そういったクルマたちが好きだったので、まさに『バレーノ』はぴったりだと思ったのです」と菅原さん。

それであれば、シトロエンやプジョーがよいはずだ。しかし、「ディーラーは盛岡にありますので、ここからは往復で300km走らなければいけません。これまでは時間をやりくりしていましたが、仕事が忙しくなってきましたので、点検や修理などでそうそう行くことはできないのです」とのこと。そこで、往復300kmではなく片道20歩の(仕事場の向かいにある)スズキのディーラーにしたというわけだ。

欧州仕込みの「バレーノ」は、走りが機敏でシートも満足でき、何よりも菅原家全員が快適に乗れることから、愛されて7年が経過したという。

「フロンクス」購入の決め手も「バレーノ」

そして、そろそろ買い替えの話題が持ち上がる。いくつかの候補車があがったが、菅原さんとしてはいまひとつピンとこなかったようだ。そんな中で、「フロンクス」が日本でもデビューするという噂が聞こえてきた。「『ジムニー』の5ドアが海外でデビューしたときに、横に『フロンクス』が映っていたのですよね。ベースは『バレーノ』の新型ですし、妻はSUVタイプが好きなので気になっていました」と言う。

そこで、さっそく“向かい”のスズキディーラーへ話を聞きに行ったところ、販売が確定しているとの情報を仕入れ、さっそく注文した。

ここで、菅原家では家族会議が開かれた。それは、「バレーノ」を下取りに出すかどうかだった。いま、菅原家にあるラインアップで、上のお嬢さんがクルマ酔いをしない唯一のクルマが「バレーノ」だったのだ。同時に、家族全員が気に入っていることもあったため、増車として「フロンクス」を迎え入れることにしたのだ。

お気に入りの「バレーノ」を残して、「フロンクス」を増車することになった

お気に入りの「バレーノ」を残して、「フロンクス」を増車することになった

菅原さんは、「震災で流された妻のクルマが、スズキ『SX4』だったのです。ですから、カラーも同じオレンジ系にすることで、やっと『SX4』の部分でも復興できたかなと思っています」と語る。

同乗者が爆睡するほどの乗り心地のよさ

納車されて数ヶ月。菅原家の印象はどうなのだろう。敦子さんは、さっそくお嬢さんと盛岡まで往復したり、日常の足として使い倒したりしているようだ。

まず、気になるところを聞いてみると、「高速道路で頑張っているのに、スピードが出ていないのですね。『バレーノ』だと、何も頑張っていないのにスイーッと、踏んだだけで速度が出てくれるのです」とコメントする。特に、アップダウンがあるとエンジンが高回転域でまわりがちになり、エンジン音の割には速度が追い付いてくれない印象のようだ。

「フロンクス」は、1.5L直4ガソリンエンジンにモーターが組み合わせられているマイルドハイブリッド車だ

「フロンクス」は、1.5L直4ガソリンエンジンにモーターが組み合わせられているマイルドハイブリッド車だ

その結果として、燃費も悪化。「『バレーノ』だと20km/Lくらい出るのですが、『フロンクス』だと17km/Lくらいかな」とのことで、これは菅原さんも同意見だった。「三陸道で、ACCを使っていて上り坂になると暫く粘った後、いきなり6速から4速にシフトダウンしてエンジンが唸るのはちょっとびっくりしました」と話していた。

だが、不満はそのくらいで、それ以外はとても気に入っている様子だ。長距離はもとより、近所のお使いでも不満はないとのこと。そして、何よりも家族みんなが爆睡するのだとか。菅原さんは、「後ろで子どもたちが爆睡したのです。これでもう、このクルマはOKだなと思いました」とうれしそうだった。

その理由は、乗り心地のよさとともに、むだな修正舵がないことによる高速安定性の高さを示唆している。つまり、直進安定性が高いということだ。また、シートのよさもそこに加わるので、シトロエン好きからも認められる乗り味の高さということで、「フロンクス」も「バレーノ」と同様に長く菅原家に住み着くことになりそうだ。

「フロンクス」はシートのよさにも定評のあるクルマだ

「フロンクス」はシートのよさにも定評のあるクルマだ

東京から仙台までノンストップでも疲れないほどに快適

実は、筆者が気仙沼まで往復する1,300kmほどの道中を、菅原家と同じ「フロンクス」の4WDモデルで走行したので、筆者の印象も記しておきたい。

基本的には、菅原さんがコメントしていた内容と同じである。高速道路での直進安定性の高さはもちろんのこと、シートの出来のよさは特筆ものだ。東京から仙台まで、疲れなくノンストップで行くことができたと言えば、そのよさが伝わるだろうか。

同時に、高速道路での非力さも同じ意見だ。東北道や第二東名などの120km/h走行区間でACCを使っていると、ちょっとした上り坂でもすぐにシフトダウンして3,000rpmあたりをキープしようとする。これは、エンジンのトルク不足と同時に、ギヤ比のマッチングがいまひとつだからだろう。したがって、そのようなシーンの後も、5速で走りがちでなかなか6速にシフトアップしない傾向が見られた。このあたりは、ギヤ比を見直すことでより快適な高速走行が可能になると思われる。ちなみに、6速100km/hで2,100rpmくらい。5速だと2,800rpmくらいの回転数となる。

高速道路でACCを使っていると、その精度や動作はドライバーの意識に近く、メーカーが説明する「上手なドライバーが運転しているかのように」という言葉どおりに感じられた。たとえば、渋滞時に先行車が発進した際には、急にスタートすることもなくゆるりと出るし、先行車がいなくなってもその先にもう1台いれば急に加速して減速するような真似はせず、これもまたゆるりと車間を縮めるという細やかさで、安心して乗ることができた。

短時間ながら「フロンクス」のFFモデルに試乗する機会があったのだが、FFは直進安定性が若干落ち、乗り心地もかなり硬い突き上げ感を感じたので、購入するなら4WDのほうがよさそうだ

短時間ながら「フロンクス」のFFモデルに試乗する機会があったのだが、FFは直進安定性が若干落ち、乗り心地もかなり硬い突き上げ感を感じたので、購入するなら4WDのほうがよさそうだ

アップダウンでは燃費が悪化

最後に、燃費について触れておこう。

市街地:14.4km/L(14.4km/L)
郊外路:15.9km/L(17.8km/L)
高速道路:16.0km/L(19.8km/L)
※()内は4WDのWLTCモード燃費

上記のような結果となった。特に、高回転域を使うシーンで燃費が悪化傾向にあるようで、今回は高速道路や郊外路でアップダウンの多いところが多かったこともWLTCモードより数値が落ちた要因と思われる。

また、高速道路で80km/hあたりで平たんな道を淡々と走らせると、20km/Lあたりの数値を記録することもあったことを付け加えておく。いずれにしても、もう少し日本の使用シーンに合わせたセッティングを望んでおきたい。

スズキ車の魅力とは

菅原家で活躍する、2台のインド製スズキ車。シトロエン好きにとって、何が魅力なのかはもうすでにご理解いただけたことだろう。

最後に、菅原さんが「結局のところ、ひとに媚びていないクルマが好きなのでしょうね」と言ったことで腑に落ちた。まさに、どのクルマもメーカーがこういうクルマがつくりたいという信念のもとに作られた印象があるからだ。「フロンクス」にしても、もちろんユーザーの声やマーケティングをベースにはしていても、それを前面に出すことはなく、まずはスズキが考えるコンパクトカーはこれだという印象が与えられている。そのうえで、そこに共感できるかどうかを問うているように感じられるのだ。

したがって、すべての人におすすめできるクルマではなく、酸いも甘いもわかったクルマ好きにあえて乗ってもらいたい、そんなクルマが「フロンクス」だと感じた。

(撮影:内田俊一)

内田俊一
Writer
内田俊一
1966年生まれ。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を生かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。長距離試乗も行いあらゆるシーンでの試乗記執筆を心掛けている。クラシックカーの分野も得意で、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員でもある。
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桜庭智之(編集部)
Editor
桜庭智之(編集部)
自動車専門メディアで編集者として10年間勤務した後「価格.comマガジン」へ。これまで、国産を中心とした数百の新型車に試乗しており、自動車のほかカーナビやドラレコ、タイヤなどのカー用品関連も担当する。
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