タムロン「28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD(Model A071)」は、2020年6月に発売された、ソニーEマウント用のフルサイズ対応・高倍率ズームレンズ。発売当初から「使いやすいサイズ感で、しかも明るく高画質」なことから好評を博していましたが、発売から約4年が経った今でも多くの人から選ばれています。いまだに価格.com「レンズ」カテゴリーの人気売れ筋ランキングで1位を獲得するほどの人気ぶりなのです。
実際に、このレンズは、ほどよいサイズ感の高倍率ズームとは思えないほどの高画質を実現していることは間違いありません。そして、それほど無理をしなくても手に入る、うれしい価格を保っているところも見逃せません。価格.com最安価格(2024年10月21日時点)は82,000円程度です。
ロングセラーとしてユーザーを納得させる秘密は何か? 約4年の時を経て改めて確認してみたいと思います。
価格.comでロングセラーのタムロン「28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD」。今回は、ソニー「α7C II」との組み合わせでの実写結果をお届けします(※この画像の「α7C II」は「グリップエクステンション GP-X2」を装着しています)
「28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD」の人気売れ筋ランキングの推移(週間、2023年10月16日〜2024年10月13日)。直近1年間は多くの期間でランキング1位を獲得しています
タムロンは、「高倍率ズームのパイオニア」と言われるくらい、これまでに多くの良質な高倍率ズームを手掛けてきました。今回取り上げる「28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD」は、そんなタムロンがミラーレスカメラ用として初めて商品化した高倍率ズーム。かなり力を入れて開発された1本です。
それを物語っているのが本レンズのモデルナンバー。タムロンはレンズの各製品に対してモデルナンバーを付与していますが、「28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD」に与えられたモデルナンバーは「Model A071」です。この「71」の称号は、1992年に発売されたタムロン初の高倍率ズーム「AF28-200mm F/3.8-5.6 Aspherical(Model 71D)」を継承したものです。
記念すべき往年の「Model 71D」は、「大きくて重くて画質もそれなり」といったそれまでの高倍率ズームの常識を覆すレンズでした。その「71」の称号を与えられたという点で、本レンズが、いかに熱い意気込みのうえで開発されたのかが想像できるというものです。
「28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD」の特徴として押さえておきたいのが、そのコンパクトなサイズ感です。
焦点距離28〜200mmの幅広い焦点距離をカバーし、かつ広角端の開放絞り値がF2.8の明るさながら、サイズは74(最大径)×117(全長)mmで、重量は575gに収まっています。カメラと組み合わせてみると想像以上にスリムで軽く、持ち重りを感じるようなこともありません。
ソニーのフルサイズミラーレスのなかでは、センターファインダー式の「α7シリーズ」の各モデルはもちろん、小型・軽量な「α7Cシリーズ」との組み合わせでも違和感を覚えることなく撮影できます。
小型・軽量な「α7C II」と組み合わせてもコンパクトなサイズ感をキープできます
そうはいっても高倍率ズームは高倍率ズームですので、望遠端までズーミングすれば鏡筒はそれなりに伸長します。しかし、重量バランスが大きく崩れるようなことはありませんので、28mmから200mmまでをカバーする便利さに比べれば、ほとんど問題を感じることはないと思います。
広角端28mm時の状態。レンズの全長は117mm
望遠端200mm時の状態。広角端時から55mmほど繰り出し、全長は172mm程度になります
操作性は大変にシンプルでわかりやすい構成です。レンズの先端付近にズームリング、手前にフォーカスリング、鏡筒右側に「ズームロックスイッチ」が備えられているだけで、そのほかに機能を設定するためのボタンやスイッチは搭載されていません。最新のタムロンレンズであれば「フォーカスセットボタン」やUSB Type-C端子などが装備されることが多いのですが、本レンズが登場した2020年当時は、それらはまだ採用されていませんでした。
レンズ先端側にズームリング、手前側にフォーカスリングを搭載
広角端でズームをロックできる「ズームロックスイッチ」。移動時などに不用意な鏡筒の伸長を防いでくれます
花型のレンズフード「HA036」が付属。広角になるほどレンズフードの効果は重要になるため、高倍率ズームである本レンズでも、ぜひ正しく装着したいです
2020年6月の発売以来、「28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD」が長く人気を保っている理由のひとつが、高倍率ズームながらズーム全域で絞り開放から高画質を実現していることでしょう。
広角端28mmの絞り開放F2.8で撮影したのが以下の写真です。像の乱れや色収差はほとんど見られず、画面全体で高い解像感を見せてくれています。四隅はさすがに多少の甘さが見られますが、それも拡大して見て気づく程度ですので、実用上、気になるほどのものではありません。
α7C II、28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD、28mm、F2.8、1/1000秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、31.1MB)
望遠端200mmの絞り開放F5.6で撮影したのが以下の写真です。こちらもシャープネスは十分で、画面全体で高い解像感が得られています。開放絞り値に余裕があるためかどうかはわかりませんが、周辺の画質もむしろ広角端より向上しているようです。ただ若干ですが、周辺光量の低下が見られますので(カメラボディの「周辺光量補正」は「オート」)、少し絞り込むなどの対策をとるか、あるいは作画に生かすようにするとよいと思います。
α7C II、28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD、200mm、F5.6、1/320秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、30.5MB)
実写結果でも、すばらしい描写性能を見せてくれた本レンズ。まさに高倍率ズームの常識を覆す高画質だと思います。それでいて、一般的な高倍率ズームよりも明るい開放絞り値なのですから、人気なのもうなずけるというものです。
「28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD」が長く人気を集めているのは、ただ高画質なだけでなく、使い勝手にすぐれるのも大きいと思います。その使い勝手のよさを象徴しているのが、近接影性能の高さです。
本レンズの広角端28oでの最短撮影距離は19cmで、このときの最大撮影倍率は約0.32倍。個人的に、最大撮影倍率が0.25倍あれば十分に寄れるレンズだと認識していますので、高倍率ズームで約0.32倍というのは近接撮影性能が高いと思います。実際に撮影していても、思いのままに被写体を大きく写せる感触がありました。花などのネイチャー撮影のほか、テーブルフォトでも大いに活躍してくれるはずです。
α7C II、28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD、28mm、F4.0、1/200秒、ISO400、+0.7EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、17.7MB)
望遠端200oでの最短撮影距離は0.8mで、このときの最大撮影倍率は約0.26倍。広角端に比べると最大撮影倍率こそ低下していますが、それでも被写体を大きく写せます。被写体からレンズ先端までの距離(ワーキングディスタンス)を長く取れるため、近づきにくい被写体を撮りたい場合や、望遠の圧縮効果を生かした写真を撮りたい場合などに便利です。
α7C II、28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD、200mm、F5.6、1/125秒、ISO400、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、17.7MB)
タムロンのレンズは全般的に近接撮影性能の高いものが多いのですが、ご多分に漏れず本レンズの近接撮影性能も大変に優秀です。ズーム域が広いのが高倍率ズームのよいところですが、被写体に寄れないとなると、何とも物足りなさを感じてしまうもの。本レンズを実際に使ってみて、そうした物足りなさはなく、「寄って撮れる高倍率ズーム」はとても便利だと感じました。
「28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD」は、AF駆動にタムロン独自のRXDを搭載しています。RXDはいわゆるステッピングモーターのことで、モーターの回転角度を精密に制御できるため、良好なAF精度が得られます。AF速度、静寂性ともにすぐれていますので、静止画撮影だけでなく動画撮影にも向いています。
α7C II、28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD、181mm、F8.0、1/400秒、ISO2500、+0.7EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(4672×7008、19.4MB)
複雑な機構を備える高倍率ズームであるにもかかわらず、逆光耐性が高いのもタムロンレンズの特徴だと感じています。太陽のように強い光源が画面内に入っても、効果的にゴーストやフレアを抑えてくれるので撮りやすいですね。シビアなシーンでは小さなゴーストが発生することもありますが、コントロールしやすいタイプのゴーストですので、作画をじゃますることはほとんどないと思います。
α7C II、28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD、28mm、F5.6、1/8000秒、ISO400、−2.6EV、ホワイトバランス:日陰、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、19.6MB)
広角端と望遠端だけでなく、途中の焦点距離でもしっかり高画質なのが、本レンズを使っていてうれしくなるところ。スナップ撮影では使用頻度が高い焦点距離35mmでも、ピント面の解像感はキリリと高く、そこから続くボケ味はあくまでやわらかく、自然な写りの味を醸し出してくれています。
α7C II、28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD、35mm、F3.2、1/320秒、ISO100、−1.3EV、ホワイトバランス:日陰、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、22.3MB)
以下の写真は、途中のズーム域である焦点距離47mmで撮影したものです。いわゆる標準域での画質も高く、特にピント面の解像感は驚くほどにキリリと切れ込んでいて、思わず心地よさすら覚えてしまいます。ソニー製ミラーレスの「動物瞳AF」にも対応していますので、ピント合わせに苦労しないところもよいです。
α7C II、28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD、47mm、F5.6、1/125秒、ISO800、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、18.8MB)
いろいろと特徴を見てきましたが、本レンズの醍醐味は、妥当に小型・軽量なサイズ感で、広いズーム域において納得できるだけの明るさと高画質を実現しているところでしょう。フルサイズミラーレスとこのレンズの組み合わせで撮っていると、大げさかもしれませんがレンズ交換の必要性を感じなくなってしまいます。しいて言うなら、レンズ交換の楽しみを奪ってしまうのが“唯一の欠点”なのかもしれません。
α7C II、28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD、200mm、F8.0、1/800秒、ISO400、−0.3EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、26.5MB)
「28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD」は、2020年6月の発売当初から高い評判を得ていました。白状してしまうと、筆者も使い勝手と画質のよさに魅かれてだいぶ前に購入しています。そして、その性能のよさに、日常使いはもちろん、仕事においてもずいぶん多用してきたものです。価格.com最安価格(2024年10月21日時点)は82,000円程度と、それほど高価でもないレンズなのに、これは本当にすごいことではないでしょうか。
一見すると、ボタンやスイッチがなく、何の変哲もない平凡なデザインではありますが、使ってみると「高倍率ズームもここまで来たのか!」と素直に感心できる良レンズなのは間違いありません。高倍率ズームのパイオニアであるタムロンが、本レンズに「71」の称号を与えた本気度を推し量れば、ミラーレス時代の高倍率はかくあるべしと思えるところです。
本レンズは、これまで高倍率ズームを敬遠してきた人だけでなく、初めて交換レンズを購入しようとしている人に選んでほしい1本です。あまりにも便利なこのレンズのよさを味わってから、さらに明るい大口径・単焦点レンズに進むというのは、写真撮影の順序として正しくも楽しい世界だと思います。レンズ交換式カメラの意味を感じ取れることでしょう。