
米国の態度豹変にEUは驚愕と困惑
米大統領・D.トランプは就任から1か月を経た2月20日に、「他の政権が4年間かけてもできなかったことを、4週間でやり遂げた」と豪語した。
選挙公約を猛烈な速度で次から次へと実施に移していくそのさまには、確かに凄まじいものがある。
その凄まじさに、勃発から丸3年を経たロシア・ウクライナ紛争も否応なく巻き込まれた。
これまでのペースなら1年分に当たるとも思える出来事や変化が、過去1か月弱の間に凝縮されてどっと詰め込まれたかのようだ。
いささか長くなるが、まずはこの紛争に関わる2月の主な動きを概観しておきたい。
直近で大いに騒がれた米国・ウクライナ関係の軋み(トランプ以下とウクライナ大統領・V.ゼレンスキーの喧嘩の一幕)も、紛争が今通過しつつある一大転換点でのエピソードの一つだからだ。
皮切りは2月12日のトランプとロシア大統領・V.プーチンとの米露首脳電話会談だった。
いつかはこの会談が行われるだろうと予想されていながら、いざそれが現実になると、ついに紛争解決と米露関係改善への動きが公然と始まってしまったなどと、まるで突発事故に遭ったかのように皆が騒ぎ出す。
米露双方で公表された限りではこの会談で、戦争終結に向けた交渉の開始や2国間関係改善への実務者協議、両首脳の相互訪問が合意されている。
これに続いて2月10日の週には欧州で、ウクライナ支援国会議、NATO(北大西洋条約機構)国防相会議、ミュンヘン安全保障会議(MSC)、G7外相会議が立て続けに開かれた。
従来通りなら、これらの西側諸国の集まりは、対露批判とウクライナ支援の大合唱が演じられる舞台になるはずだった。
だが、参加した米副大統領J.D.バンスや新任の米国防長官・P.ヘグセス、同国務長官・M.ルビオは、その舞台で従来とは全く異なる米国の新たな顔を見せつけることになる。
米国はウクライナ支援の輪から今後は距離を置く、欧州は自分の問題を自分で片付けろ、という最後通牒にも似た宣告が、ヘグセスやルビオから欧州側に下知される。
そのタイミングを計算に入れて米露首脳電話会談も直前の12日に設定されたのか、と一連の流れから勘繰りたくなるほどだ。
とは言え、この宣告の内容はこれまでトランプ自身が折々に触れてきた。
さらにウクライナに関しては、2月10日放映の米メディアからのインタビューで、「ウクライナがロシア領になるかもしれない」とまで彼は述べ、12日のプーチンとの会談後には、ウクライナのNATO加盟や領土奪還は困難だと断じている。
従って、米国の新たな姿勢とはいえ、それは欧州側にとって青天の霹靂とまでは・・・だったはずだ。
しかし、MSCで14日に行われたバンスの演説となると、その場に居合わせた欧州幹部連への大衝撃だったことは隠しようもなくなる。
ウクライナ支援と反右派で固めた今の欧州の指導層が唱える基本思想や姿勢を、彼があからさまに批判するところまで踏み込んできたからだ。
しかもこの演説の後にバンスは、議会選を10日後に控えたドイツの右派政党・AfD(ドイツの選択)の党首との会談にまで臨んでいる。
こともあろうに、反移民や対露融和を主張して票を伸ばすことが予想されていた(そして後日その通りになった)AfDを相手に、である。
欧州のお歴々の頭に血が上りっ放しになるのも無理はない。