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自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

チャーリー 2022年

長い旅路の果てにたどり着いた小さな命

インド、キランラージ・K監督、164分

2022年、南インドで暮らすダルマは職場でも自宅の近所でも偏屈者として知られ、楽しみといえば酒と煙草とチャップリンの映画だけという孤独な男だった。

そんな彼の家に、悪徳ブリーダーのもとから逃げ出してきた一匹のラブラドールの子犬が住み着くようになる。

犬嫌いのダルマは何度も追い払おうとするが、やがて少しずつ心を通わせ、チャーリーと名付け自分の家に迎え入れる。やんちゃでイタズラ好きのチャーリーに振り回されながらも楽しい日々を送っていた。職場でも近所でも彼は生まれ変わったようだった。

 

ある日、医者に見せるとチャーリーが末期がんで余命わずかであることが判明。ダルマは雪が好きなチャーリーに本物の雪景色を見せるため、サイドカーにチャーリーを乗せてヒマラヤを目指す旅に出る。

インド各地の風景が見られるロードムービーだった。

旅は変化に富んでいた。悪徳ブリーダーを懲らしめ、チャーリーと一緒にハングライダーで空に舞い、動物愛護協会の女性と旅をし、愛犬家の男と出会い、雑誌社の取材を受け、ドッグショーに出演する。

インド映画らしい踊りはないが、全編に歌が流れてダルマの心の内を語り、ストーリーの説明をする。

 

長尺のインド映画が苦手でも犬好きの人なら気に入る作品だった。

生きる 1952年

いのち短し、恋せよ少女(おとめ)

日本、黒澤明監督 143分

市役所の市民課長・渡辺は30年間無欠勤、毎日、ハンコを押すだけの小役人で真に生きているというものがなかった。あだ名はミイラだった。

ある日、渡辺は自分が胃癌で余命幾ばくもないと知る。絶望に陥った渡辺は、飲み屋で知り合った男と歓楽街をさまよい飲み慣れない酒を飲み、ギャンブルをして、女たちと戯れるが死の恐怖から逃れることはできず、ただ虚しさだけが残った。

そして同居する息子夫婦にも胃癌だということを話すことができなかった。自分の人生とは一体何だったのかと考えると殺伐とした気持ちになってきた。誰も自分の苦しみを分かってくれない。

ただ役所の元職員だった小田切とよ、と再会し、その溌剌さに癒されてゆく。この娘から何かを作ることの大切さを教えられる。そして彼は死ぬまでに何かをやり遂げようと思い立つ。「まだ遅くない」

そこで彼の目に留まったのが市民から出されていた下水溜まりの埋め立てと公園建設に関する陳情書だった。彼は公園を作ろうとする。5か月後に渡辺は亡くなったが、通夜の席で役所の同僚たちが彼の噂話をする。

そして自分たちも渡辺さんのように事なかれ主義をすてて市民のために何かしようと決意するが・・・。

 

死を前にした恐怖と逃れようのない運命が描かれる。そして何よりも官僚主義への批判が痛烈だった。生きる意味を求めての志村喬の鬼気迫る演技は見どころの一つだろう。重厚な戦国絵巻の作品より、このささやかな物語の方が黒澤監督には合っているように思う。

ターゲット 出品者は殺人鬼 2023年

コミカルなタッチで始まりながら緊張感あふれたスリラー

韓国、パク・ヒゴン監督 101分

新居に引っ越した30代の女性スヒョンはネットの中古品売買のサイトで洗濯機を購入する。しかし、壊れた洗濯機が届き、スヒョンは詐欺にあったことに気づく。

警察に届けるが捜査に時間がかかると告げられたスヒョンは、四苦八苦して売り主のアカウントを捜し出し直接連絡をとり、返金を要求するが相手に「勉強代だと思って諦めろ」と言われる。

そのことで感情的になったスヒョンは、相手に怒りに満ちたメッセージを送りつけてしまうが、それ以来、注文していない食品が配達されたり、夜中に見知らぬ男が訪ねてきたり、母親を装った電話と、彼女の身に奇怪なことが次々と起こり始める。

 

犯人の嫌がらせにスヒョンは神経的にまいってしまう。スヒョンはどこまでも執拗に追いかけてくる殺人鬼の恐怖にさらされる。捜査に動き出した警察は出品者の家を訪れるが、そこには一人の男が殺されており、殺人鬼がその男を殺したことが分かる。

この映画では簡単に他人を信じるネット社会の危険性がいわれていた。シンプルな物語だが、怖さは半端じゃなかった。

殺人鬼はスヒョンの個人情報の何もかもを知っているのだ。これでもか、これでもかと一気に見せるスピード感。韓国映画はこのような低予算映画でも面白く見せるコツを心得ている。