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新宿歌舞伎町でぼったくられたひろぽんと「真の漢」

 昔も今も歓楽街ではぼったくられただのぼったくってやっただのという話が絶えません。私がふらふら夜の街を渉猟していた時はどこも驚く位明朗会計で時間と料金はきっちりしていたような。

 そんな私がつまらない理由でぼったくりに遭い、どうやって逃げ出したかとかそこで漢の真価を発見したとかそんな話です。

 新宿歌舞伎町が悪い訳ではありません。

(初稿2009年12月4日
 改稿2024年9月20日)

目次

京名阪を行ったり来たり

こればかりは羨ましいというか妬ましいというか

 1998年の事である。

 ロンドン留学から帰ってきて余韻に浸っている暇もなく、三月あたりから就職活動が始まった。

 私は一年留学していた為、大学の同期は殆ど就職を決めて卒業してしまっており、卒業できなかったのかしなかったのかは分からないがロクでもない事には間違いない留年組や後輩たちと肩を並べて就活の世界に飛び込んだ。

 時代は就職氷河期真っただ中。

 飛び込んだはいいが氷河期の荒波の中、泳ぎ方を知らない事に気が付いた。

 飛び込む前に泳ぎ方をきちんと学んでおくべきだったと後悔している。

 入社試験であるが、一次試験や二次試験くらいまでは東京本社の企業も大阪でやってくれる。そこをパスするといよいよ本格的な選考に入るのだが、さすがに三次試験は東京でやるのでお前が来いという話になる。

 三次試験以降となると選考も厳しいのか私の付け焼刃がバレるのか「お祈り(貴殿のご活躍をお祈り申し上げます、で括る落選通知から生まれたスラング)」を食らう事も増え、東京に行って面接を受けては大阪に戻ってお祈りの通知を食らうのが定番になっていた。

 一番酷かったのは

「ここの内定が取れたら就職活動は終えていい」

と思っていた企業の6次面接まで呼び出されてお祈りされた事である。

 落とされる為だけに大阪から東京まで夜行バスで往復するのも楽しいものではない。

 この時ばかりは就職活動の為に遠征しなくて済む関東の学生が非常に羨ましかった。

満喫という発想が無かったの

 当時、大阪を深夜出発する夜行バスで東京に向かうと朝七時前の新宿大久保町あたりに放り出される事になる。

 土地勘なぞある訳もなく、カラスがゴミ集積場を漁ってるのを見ながらどうしたものかと途方に暮れた。

 受験する企業だって朝七時はまだ出社してさえいない。指定された試験予定は午前中どころか午後という所もおかしくなく、いったい何処で時間を潰せというのか。

 少し近辺を探索して答らしきものが目に入った。

 カラオケ店である。

 ヒトカラも珍しくない上に、新宿というロケーションもあって24時間営業している店もごろごろしていた。

 そして横になれるくらい大きなソファーである。さすがにその日の予定を考えると酒は飲めなかったが、空調がきかせ放題でソファーに体を横たえると夜行バスで溜まった疲れがほぐれる気がした。

たまには就活だけでなく息抜きも

「抜くもん違うがな!」

 就活での息抜きが無かった訳ではない。

 集団面接だったり、選考が進んで志望者同士が顔見知りになると試験の後ファストフードでもつまみながら雑談をして昂った神経を落ち着かせたりする事もある。

 ある企業の面接を受けた後、非常にリクルートスーツの似合う可愛い子と、別にどうでもいい男子学生の三人で男同士は牽制しあいながら話し込み、男同士の牽制は見事に私が勝利をおさめた事があった。

 その可愛い子は私と同じ関西の大学なので同じ新幹線の中でもきゃあきゃあやっており、周囲の働くおじさん達に白い目で見られていたのを覚えている。

 その後どうなったかは置いておいて、他にも息抜きの機会はあった。

 私より一年早く就職して卒業していった大学の同期には関東に居を移したものも多く、ひさしぶりに私が東京に来たら飲もうではないかという話になったのだ。

 新宿のよく分からない街並みを眺めながら友人と待ち合わせ、とりあえずどの店に入るか決めようとしたら

「俺、今日凄く風俗に行ってみたい」

 などと発情している。どちらかというと下ネタは好きだが草食系で大学在学の間も風俗のふの字も関係ないタチの男だったので驚いた。

 どちらかというとそうやって清く正しい路から外れようとするのは私の役割である。

 風俗なんかよりビールと焼き鳥な気分だった私は

「抜くもん違うし息抜きにならんがな・・・」

 といささかうんざりしつつ友人の風俗初体験に手を貸す事になった。

適当に済ませたい気持ち

 自分が遊ぶ気分の時は案内所を覗いてみたり、店頭に立ってるおじさんと交渉してみたりと役に立ったかどうかは分からないけど能動的に動いていたものだが、自分がその気じゃなくてさっさと済ませたい時はどうしてあんなにガードがゆるくなってしまうのだろう。

 入るのも初めてという新宿歌舞伎町で、メインストリートに面した安全牌というべき店に入ればいいものを

「メインストリートで客引きやってるって事はそれなりの店なんじゃないか」

 と価格交渉(上限の事である。決めておかないととんでもない事になる可能性はあるが、決めたからといって守られるものでもない)を済ませた客引きのおじさんについていく事にしてしまったのだ。

 おじさんは、メインストリートから路地を曲がり段々細く灯りも少なくなってくる道をずんずん進んでいく。

 私は、これはなんかマズいと嗅覚が訴え始めたのに気づいていたが、連れの友人と息を合わせてルパン一味のごとくとんずらできる状況でもない為にメインストリートのキラキラしたパネルに飾られた店ではなく路地裏の雑居ビルにたどり着いてしまった。

歓楽街からスラム街へご案内

 雑居ビルの階段を上り、三階にある店内に案内される。

 テンプレでもあるのか店内は地元や大阪のものと変わらず、見慣れたという程入り浸ってはいないがどこか来た道に安心感を覚えた。

 新宿歌舞伎町とくれば店賃だけでも相当だろうし、場所がスラム街だろうとキラキラ大通りであろうとやるこた変わりないんじゃねーの。

 友人と別々に案内されてあてがわれていたブースで待っていると、カーテンが開いた。

お姉さん登場

それからそれから?

 「こんにちはー」

 ちょっと顔がキツい印象だけど綺麗なお姉さんだ。ひょっとして当たりなの?

 「んーとねー、服はここに入れてね」

 よろこんでー! 

 心の中のワクワクさんがフィーバーしまくっているその時、お姉さんは

 「ここからねー、キスしたら三千円でー、胸触ったら五千円、口だとー くわせあjふぇあえw(驚いたので理解が追い付かない

 と、とんでもない事をいいだした。

聞いてないよー!

 最初に客引きのおじさんと価格については話がついている筈である。

 その後得た知識によると、こうやって最初に〇〇円ぽっきり!という触れ込みで連れ込んだ客に、オプションとして全てのサービスで金を請求しかっぱぐやり方の事を

 「タケノコ詐欺」

 というらしい。

 どんどん裸に剥かれていく有様から来たらしいが、そんな知識は当時の私には何の役にも立たなかった。

 今も役に立ってはいない。

 必死で頭を回転させていた中で唯一役に立ったのは、日刊スポーツ新聞「大阪スポーツ(通称大スポ)」の風俗欄で読んだあるコラムだった。

 バイトの夜勤が暇だったので読んでいたのだが、人間なんでも読んでみるもんではある。

大阪スポーツの風俗欄を蔑むことなかれ

 そのコラムでは、ぼったくりの手口をいくつか紹介した後で

「このような時は、有り金全部を女の子に渡して女の子を味方にしてしまい逃がしてもらうべきである」

 と述べてあった。

 私も今は本当に怖い顔になっているお姉さんに財布の中身を見せ、

「今こんだけしかないけどこれあげるから逃がして」

 ともちかけたのだが、財布の中に現金が三千円しかなかったのが悪かったのか、銀行のキャッシュカードを目ざとく見つけられ

「このカードでお金おろしてきたらどうなん?」

 なんか更に恐ろしい事に。

解放

お姉さんのひとこと

 財布の中身が三千円の人間の銀行口座に大金が入っているとは考えにくかったのか、不可思議な事に財布の中身も無事なまま(最初に払ったお金はさすがに返ってこなかった)私は

「帰っていいよ」

と解放された。お姉さんには

「学生がこんなとこ来ちゃ駄目だよ」

と説教までされてしまった。

連れを待つ事30分

 這う這うの体でメインストリートまでたどり着いたが、友人とはいっかな連絡がつかない。

 近くのマックでシェイクをすすりながら、路地が見える場所で時間を潰す。

 私が抜けだしてから約30分後、友人から連絡が入り合流する事ができた。

 ぼったくられたのは私だけではないようで、暗い面持ちである。

連れの中に漢を見た

 ぼそぼそと連れの経験した悪夢の風俗初体験について耳を傾けたところでは、服を脱いだ後追加料金を要求された所までは一緒だった。

 が、財布の中身の数万円を強奪された挙句

 「何故か携帯電話の番号を控えられてしまい」(25年ぶりに思い返してみると、口封じの為個人情報を押さえてみせたのではないかと思う)

 「結局、手でナニされて解放された」との事。

 それを聞いた私は、金をふんだくられ脅され携帯番号まで控えられるという恐ろしいシチュエーションの中にありながらきっちりやる事だけは済ませたという彼の中に

 「真の漢とはかくあるべし」

という姿を見出し、すっかり嬉しくなってしまった。

 別にぼったくられたのが私ひとりでなかったからではない。

 すっかり嬉しくなってしまった私は、

「お前は男の中の男だよ!飲みにいこうぜ!」

と誘ったのだが、すっかり落ち込んでしまった彼は

「いや、今日はもう家に帰りたい」

と言い出し、そこで解散となった。

 この、「ぼったくられながら本懐を遂げた友人の話」にすっかり感じ入ってしまった私

「やつは漢だよ、凄いね!」

と周囲にこの話を吹聴して回った。

 そしてその事を知った友人から背中に蹴りを一発食らう事となったのだった。

悪いのは誰でしょう

 ではここで問題です。

 このお話の中で一番悪いのは誰でしょう。

  • ぼったくり風俗店
  • 適当な店を選んだ私
  • いきなり風俗行きを希望した友人

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