厄介なのは、そういうことを考える人たちの多くが「コンプライアンス体制強化のため」という善意や使命感を強調すること。セクハラ相談が過去3年間ゼロだったという中堅食品メーカーでは、総務担当者が社外の相談窓口を設置、なおかつこれまで男性しかいなかったセクハラ相談窓口とは別に、女性が対応する相談窓口を社内に設けた。その結果、セクハラ相談が増えたという。企業にとってセクハラ問題などないに越したことはないのだが、この総務担当者は「窓口を増やしたことで、女性が相談しやすくなった。風通しのよい会社になったということ」と胸を張る。
要はヒマなんです
さて、ここまではセクハラ・パワハラ対策を中心に紹介してきたが、実はそれ以上に各企業が神経質になっているのが個人情報保護法や情報漏洩についての対策である。これは'04年に、ソフトバンクが運営する「ヤフーBB」の登録者約450万人分の個人情報漏洩が発覚したことで一気に対策が広がった。このときは不正アクセスが原因だったが、それ以降、顧客データが入ったパソコンを紛失したり、メール操作を誤って個人情報を不特定多数に送ってしまうといったケースがあれば、メディアに大々的に取り上げられるようになった。
たしかに個人情報や企業にとっての機密情報の漏洩は防ぐべきだが、これから紹介するのは、それがエスカレートして「ほとんどビョーキ」という対策である。
「我が社では、ファックスを送る際に、間違って別のところに送るのを防ぐため、必ず近くにいる社員に声を掛けるルールになっています。自分が相手先の番号を打ち込み、それが間違っていないか第三者に確認の判子を押してもらってから、送信ボタンを押すわけです。声を掛けるほうも、掛けられるほうも時間の無駄なんですが・・・・・・」(中堅ゼネコンの30代社員)
「個人の携帯電話に取引先の電話番号を登録する際は、万一、携帯を落としても誰の番号かわからないよう、相手の社名、フルネームは入力しないことになっています。これを指示した上司は『昔は客の電話番号なんか100人くらい覚えたもんだ』と言っていますが、いざ電話しようと思ったら、同じ名字が何件もあって、同姓の別の会社の人に電話してしまい、意味のない世間話をしてごまかすことも少なくありません」(大手電機メーカーの40代社員)
以下、あまりに多いので箇条書きで紹介しよう。
●社外に送るメールは、すべて上司も受取人に加えなければならない。まさか、そんなもの読んでいないと思っていたが、暇な上司ほど内容をチェックしている
●パソコンに新しいソフトをダウンロードするときは、ウイルス対策のため、上司の許可を得たうえで、情報処理会社の社員を呼ぶ
●コピーをする際は社員情報が入ったセキュリティカードがいる。しかも、コピー機によってカードが違うため、常に5枚のカードを首から下げている