「われわれのようなテレビ局というのは、一般のメーカーさんなどと比べて、男女関係には比較的鷹揚だったのですが、最近はまったく違います。特に人事部が気を遣っているのが派遣の女性社員です。住所や年齢、結婚歴を聞いてはならないというのはまだ理解できるのですが、携帯電話の番号、学歴や職歴を聞くことも禁止。これらは人事部通達で社内に徹底されています。
だから、急ぎの連絡を取ることもできず、以前の職歴によって、どの程度の仕事を任せていいのか判断することもできない。人事部から事前に知らされるのは名前と性別だけ。それ以上のことを聞くとセクハラになりかねないという判断なんです。実際、人事部通達に反して携帯番号を聞き、それを派遣社員が社内の相談窓口に通報したことで人事部から呼び出された社員もいます」
一緒の職場で働きながら、相手の素性がほとんどわからない。この幹部は「派遣社員の女性に仕事の指示以外に話しかけるのは挨拶だけ。挨拶しないと、今度は『無視された、パワハラだ』と騒がれますから」と呆れ気味に語った。
思わぬことからセクハラとパワハラを指摘され、厳重注意のうえ始末書を提出させられたという40代の地方公務員はこう嘆く。
「部署の懇親会で、部下の女性を褒める意味で『○○ちゃんみたいに気遣いのできる人と結婚する人は幸せだね』と言ったのが、彼女の気に障ったようです。後で上司から呼び出され、『ちゃん付けで呼び、結婚の話をふるのは、セクハラ+パワハラにあたる』と注意されました。
この上司曰く『そういう言動が女性職員のポテンシャルを損なうんだ』とのことです。それ以来、部署では女性職員を含めた会合は中止、私自身も部の行事はすべて欠席することにしました。結局、上司は何かトラブルが起きたときのことを考えて保身に走っているだけ。仕事を円滑に回すために、飲み会をやろうと考えた私がバカだったんですよ」
セクハラやパワハラは、相手がどう受け取ったかが重要なポイントになる。極端な話をすれば、上司から同じ言葉を掛けられても、それをセクハラやパワハラと取るか、コミュニケーションや叱咤激励と取るかは人によって異なる。
年賀状も出せません
企業コンプライアンスに詳しい偏西風事務所主幹の久新大四郎氏が言う。
「セクハラであれ、パワハラであれ、大事なのはハラスメントの本質が1.人権を尊重しない 2.強者が弱者に対して圧力を加える 3.職業的な地位を悪用する 4.職場環境を悪くする、といったものだと認識することです。この4つくらいの規定があれば、細かいことまで決める必要はないと思います。たとえば、会議で言いづらいことを個別に呼び出して後で本人に伝えるというのは日本人的知恵です。それすら、パワハラやセクハラに結びつくといって否定するようでは、組織がうまく回らなくなってしまいます」