【映画を早送りで観る理由 #1 説明過多の時代 前編】
先日、映画やドラマやアニメを倍速視聴、もしくは10秒飛ばしで観る習慣に対する違和感を、記事「『映画を早送りで観る人たち』の出現が示す、恐ろしい未来」に書いたところ、予想を遥かに上回る反響があった。「よく言ってくれた」と溜飲を下げる人、「どう観ようが勝手」と怒りだす人、記事に触発されて持論を熱っぽく展開する人など、反応は様々にして百家争鳴。その後、記事は地上波TV番組で取り上げられ、倍速視聴を特集したネット番組に筆者がZoom出演する事態にまで発展した。
記事で指摘した倍速視聴・10秒飛ばしの背景は、大きく3つ。「無料もしくは安価で観られる作品が増えた結果、時間が足りない」「時間コスパを求める人が増えた」「セリフですべてを説明する作品が増えた」。
中でも、もっとも多くの議論を呼んだのが、3つめの「説明セリフの増加傾向」である。なぜこのような傾向が生まれたのか。そして、こうした流れについて作り手はどう感じているのだろうか。
「嫌い」と言ってるけど本当は好き、が通じない
状況やその人物の感情を1から10までセリフで説明する作品が、近年増えてきた。そうした作品に慣れた視聴者は、セリフとして与えられる情報だけが物語の進行に関わっている、と思い込むようになる。
それゆえに、彼らの理屈はこうだ。「倍速でもセリフは聞こえている(もしくは字幕で読めている)んだから、ストーリーはわかる。問題ない」。なんなら、人物が登場しなかったり、沈黙が続いたりするようなシーンは、1クリックで10秒ずつ、どんどん飛ばす。
本来、10秒間の沈黙という演出には、視聴者に無音の10秒間を体験させるという演出意図がある(はずだ)が、そんな作り手側の意図はお構いなしだ。
『ドラえもん』などのファミリーアニメ、『交響詩篇エウレカセブン』などのSFアニメほか、実写映画やドラマの脚本、ゲームシナリオなども手掛ける脚本家の佐藤大氏は、こう嘆く。
「口では相手のことを『嫌い』と言っているけど本当は好き、みたいな描写が、今は通じないんですよ」