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なぜ「クソどうでもいい仕事」は増え続けるのか?

日本人のためのブルシット・ジョブ入門
会議、押印、官僚的儀式、なんとかコンサルタントになんとかエグゼクティヴ……私たちはなぜ「無意味な仕事」に苦しみ、「いい感じ」で働く自由を阻害されなければならないのか? 話題沸騰のデヴィッド・グレーバー『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』(岩波書店)の訳者・酒井隆史氏による、日本人のための「ブルシット・ジョブ」入門。

クソどうでもいい仕事!

「ブルシット・ジョブ」って、なんだろう?

おそらく初耳というひとが大半かもしれない。が、最近はそうでもないかもしれない。というのも、他でもない『ブルシット・ジョブ』の訳者のわたしも、ひとからこの話題を出されることがよくあるからだ。

少しずつ紹介されているからだろうが、それがたぶん、たくさんのひとの心の、多少なりとも琴線にふれなければ、それほど話題にもならないだろう。

それでは、まず「ブルシット・ジョブ」(以下、BSJ)とはなにか。筆者であり、この言葉の作者でもある、人類学者のデヴィッド・グレーバーは、だいたいいつもこういうふうに説明している。

「BSJとは、あまりに意味を欠いたものであるために、もしくは、有害でさえあるために、その仕事にあたる当人でさえ、そんな仕事は存在しないほうがマシだと、ひそかに考えてしまうような仕事を指している。もっとも、当人は表面上、その仕事が存在するもっともらしい理屈があるようなふりをしなければならず、さらにそのようなふりをすることが雇用上、必要な条件である」。

押さえておくべきポイントは、BSJとは、当人もそう感じているぐらい、まったく意味がなく、有害ですらある仕事であること。しかし、そうでないふりをすることが必要で、しかもそれが雇用継続の条件であることである。

BSJにはすでにいくつか日本語があてられている(実は訳者もあてたことがある)。

たとえば「クソどうでもいい仕事」である。今回公刊した訳書でも、一応、日本語としては「クソどうでもいい仕事」としてはいるが、基本的に、無理に日本語にするのをあきらめた。というのも「ブルシット」には、たんに「どうでもいい」という意味だけでなく、ふりをしてごまかすといった「欺瞞」のニュアンスがあるからである。

たとえば、『ランダムハウス英和辞典』では、bullshitはつぎのように定義されている。「1 ((俗/卑×)) 嫌なもの,不必要なもの 2 ((俗/卑×)) うそ,ほら,でたらめ,たわ言;ほら吹き,うそをつくのがうまい人」。

このように、うそ、でたらめ、といった語義があって、それが、ブルシット・ジョブを考えるときには重要なのである。

少しくだいていうと、こんな仕事なんて意味がないと、それをやっている人間も多かれ少なかれ感じているが、しかし、それはいわないことがお約束になっているといった、そんな状況がBSJにはつきまとうのである。