野球とは、「相手チームが投げるボールをバットで打って走る」という事を主題とした球技の一種である。
概要
野球とは球技の一種であり、日本では競技人口のトップを争う人気スポーツの一つである。英語ではBaseballといい、野球とは中馬庚によって和訳された言葉である(よく間違われるが、正岡子規ではない)。ほかにも、他のスポーツと違い、和訳され、一般化した言葉が多いのが野球の特色である。
野球の正確な起源は定かでは無いが、ヨーロッパの球技の一種がアメリカに伝わりルールが大幅に変えられ、発展した物と考えられている。なお、ヨーロッパではクリケットという野球に類似した競技があり、人口の多いインド、パキスタンなどで絶大な人気を誇るほか、世界的にはクリケットの方がメジャーな競技である。
日本に野球が伝わったのは、第一番中学(現:東京大学)の教師だったホーレス・ウィルソンというアメリカ人とされる。(ちなみにホーレスが日本人に野球を教えたのは明治5年であり、江戸時代と呼ばれる時代とそんなに変わらない)
ちなみに日本最古の本格的な野球チームは1878年(明治11年)の「新橋アスレチック倶楽部」である。設立の中心人物だったのがアメリカ留学経験のある工部省鉄道局の技師の平岡凞(ひろし)だった。アメリカのスポルディング社から野球道具を提供を受けたりしていたが、1888年(明治21年)に平岡が鉄道局を退職すると共に、チームはあえなく解散となった。
ルール
まず、野球とは投げる、打つ、捕る、走るという4つのプレーを基本に、攻撃の時に塁を攻めていく競技である。そこには絶えず攻防が繰り広げられており、緩急のある動き、超人的な美技、駆け引きなどを伴った頭脳戦、息詰まる心理戦などは野球の醍醐味といえるだろう。
その野球のルールだが、細かく説明すると非常に長くなり、最もルールが複雑なスポーツ競技ともいわれている。だが、国内で最も愛好者、視聴者が多いスポーツの一つでもあり、観戦する程度ならだいたいのルールを把握するだけで問題ない。だが、ある程度のルールは知っておいた方がより競技を楽しめるのは言うまでもない。
基本は9人からなる二つのチームが表、裏の間に得点を取り合い、最終的に得点が多いほうが勝ちになる。このように攻撃、守備が交代制で行われるスポーツは珍しい方であり、他にはアメリカンフットボールぐらい(ただし、アメフトと違い、守備側で得点することはない)である。
審判によって「プレイボール」と審判に合図されてから試合が始まる。守備側の投手がマウンドと呼ばれる場所からボールをストライクゾーンと言われる場所に、味方の捕手に向けて球(判定のボールと区別するため、本項では球と記述)を投げる。攻撃側は1番から9番まで打順に従い、順番に打撃を行う。打撃はバットを使って行われ、フィールドに向かって球を打ち、逆時計回りに走りながら、4つの塁(ベース)を順番に攻めていく。1人の走者が4つめの塁(本塁)を踏むごとに1点入る。攻撃は3回アウトになるまで続けられ、3アウトになると攻守を交代する。これを9回まで繰り返し、同点の場合は延長戦が行われる(延長の上限は、団体によってまちまち)。試合終了は「ゲームセット」といい、審判の合図とともに終了する。
なお、先攻側の攻撃を表、後攻側の攻撃を裏という。よって、9回表に後攻側がリードしている場合、9回裏には先攻側に得点がチャンスがないため、9回表の先攻の攻撃が終わり、後攻側に追いつけなかった場合はそこでゲームセットとなる。また、9回裏に先攻側がリードしている、あるいは同点の場合、後攻側の攻撃によって、得点が先攻側をリードした時点で3アウトにならなくてもそこで試合が終了する(これを俗にサヨナラゲーム《単純にサヨナラ》という)。
なお、野球は基本的に時間制限はない(投球間隔など細かい時間制限はある)。そのため、野球は9回3アウトを取るまで何が起こるか分からないため、ドラマチックな逆転劇も起こりやすい。それゆえ、しばし野球は筋書きのないドラマともいわれる。かの、野球漫画家の第一人者でもあるあだち充も自著『H2』の中で、「タイムアウトのない試合のおもしろさを教えてあげますよ」と主人公に喋らせているほど。
投手の投球と捕手
投手は打者に対し投球(ピッチング)を行う。投げた球はストライクゾーンと言われる場所に投げると審判によってストライクと宣告される。このストライクを3つ取ると1アウトとなる(投手にとっては奪三振、打者にとっては三振という)。ストライクとなるのは打者が球を打たずに見逃す(見逃し)、相手がバットを振ったが、球に触れなかった(空振り)場合である。または打者のバットにより球がファウルゾーンと呼ばれるラインより外側に飛び、かつ落下前に守備側の選手が球を取れなかった場合はファウルボールとなり、これも一種のストライクに分類され、2ストライクまではカウントされる。ただ、見逃し、空振りと異なり、ファウルによってアウトになることはなく、2ストライクからファウルを何発打っても2ストライクのままである。ただし、二つ例外があり、2ストライクの後にバント(後述)によるファウルはアウトとなり、これをスリーバント失敗という。もう一つの例外はファウルチップという打者がかすったボールを捕手が捕球した場合である。これは後述する飛球ではなく、通常のストライクにカウントされ、2ストライクの場合は3ストライク目が適用される。ファウルチップの条件は第一に捕手のミットに触れ、かつ捕手が捕球することである。よって、先に捕手のミット以外に触れ、次にミットに触れた場合は捕球してもファウルチップにはならず、ただのファウルとしてカウントされる。
一方、ストライクゾーンから外れた球はボールと言われる。これはアンフェアボールと言われた不正球のことで、今日ではアンフェアという言葉は省略されて、単純にボールという。このボールは4つ与えるとフォアボール(四球)といって、打者に一つだけ進塁の権利が与えられる(進塁については後述)。但し、ボール球であっても、打者が空振りした場合はストライクである。また、ストライクゾーン以外に投げられた球が打者に当たるとデッドボール(死球)といって、これも同様に進塁の権利が与えられる(ただし、バットを振ってしまった場合は、ただのストライクである)。また、打者の首以上の一部(顔面や頭部)などに当てた場合は危険球といって、即退場処分になる。強打者などとの勝負を避けるためにわざとフォアボールを与える行為を敬遠という。また、満塁(後述)の時に四死球による進塁によって、塁上の走者が本塁に帰還してしまう場合を俗に押し出しという。
捕手は投手が投げた球を捕球する義務がある。逆に捕球せず後ろに逸らしてしまった場合は、走者(後述)に走塁の権利を与えてしまう。捕球できずに走者を進めてしまった場合、投手に責任がある場合はワイルドピッチ(暴投)、捕手に責任がある場合はパスボール(捕逸)と言い分けている。尚、3つ目のストライク直後に、この捕逸(打者の空振りなら暴投でも起こる)が発生した場合は、1塁に走者がいない場合、または2アウトの時に限り、1つだけ走塁の権利が与えられる。これを三振振り逃げ(または単純に振り逃げ)という。但し、安全に進塁できる権利ではなく、フェア(後述)と同様に走塁の権利が与えられるだけであり、先に捕逸した球を捕手によって一塁野手に返球された場合はアウトとなる。
また、ピッチング以外に投手は牽制球というものも投げられる(カウントには数えない)。これは後述する塁上の走者に対し行われるもので、走者のいる塁上を守る野手(フィールド上で守備を行う人)に向かって投げる。走者は普通、次の塁を狙うためにリード(今の塁を離れること)を取るが、その隙を衝いて野手に球を投げ、走者が塁に戻る前に野手が走者にタッチ(タッチは後述)すればアウトにできる。
なお、投手に対する違反行為にボークというものがある。これはマウンドのプレートを踏まずにボールを投げた、走者に投げるふりだけして投げなかった、走者のいない塁に牽制球を投げたなど様々な規定に反した投球や牽制球を行った場合に適用され、塁上の走者(後述)をそれぞれ一つだけ進塁させることができる。走者がいない場合はボールとなる。また、打者はボークの球を打っても問題ない。ヒット以上ならそれが認められる上、ファウルや凡打となっても塁上に走者がいるなら走者を一つずつ進塁させた上で、カウントに数えられず打ち直しになるだけである。
補足1:ストライクゾーンのコース
ストライクゾーンは9つのコースに分けられ、高め(ハイ)、中央(ミドル)、低め(ロー)という上下区分とバッター寄りの内角(イン)、真ん中(センター)、外角(アウト)の左右区分に分けられ、たとえば内角低めならばインローと表現する(真ん中、中央を伴う場合は日本語で表現されることが多い)。打者によってそれぞれ得意なコースや苦手なコースがあるため、これらは捕手が後述する球種と合わせてコースを要求する。これを投手側においてサインの確認という。
ストライクゾーンは打者の肩の上部とユニフォームのズボンの上部との中間点に引いた水平ラインを上限として、 膝頭の下部のラインを下限とする本塁上の空間とルールブックに定められているため、打者によって変化する(背の低い選手の方が狭くなる)が、球審がそれをストライクとコールした場合のみ適用される。よって、球審によってストライクゾーンが変化することも少なくなく、これが良くも悪くも野球の不確定要素となっている。
補足2:球種
投手はストレートと呼ばれる直球を投げるだけではなく、変化球を駆使する。主な変化球には以下のものがあるが、定義は国によって異なったり、呼び方が変わったりしている。
- カーブ:投手の利き腕から反対方向、または下へ曲がって落ちていく変化球。球速は遅くなる傾向にあり、100㎞を切るようなスローカーブを投げる投手も珍しくない。大きく下に曲がるカーブをドロップカーブという。
- シュート:投手の利き腕方向へ曲がっていく変化球。
- フォーク:ストレートの弾道から急に真下に変化し、落ちていく変化球。打者にとっては消えるような錯覚を覚え、古くは魔球と呼ばれた。
- スライダー:投手の利き腕から反対側や低めへ逸れていく変化球。カーブより変化は緩やかだが、球速があまり落ちないので、今日では最も主流となっている変化球の一つ。
- シンカー:投手の利き腕から利き腕方向低めに曲がって落ちていく変化球。左投手が投げるシンカーはスクリューと呼ばれそれが一般化していたが、厳密には違うらしい(詳細はシンカーを参照)。
- スプリット:ストレートの弾道から真下に小刻みに変化する変化球。フォークの一種だが、球速はあまり落ちない。スプリットフィンガーファーストボール(SFF)ともいわれる。
- チェンジアップ:ストレートと同じフォームだが、球速が急に落ちていく(結果、弾道も変わる)球。アメリカでは変化球とは捉えられていない。
- ナックル:現在の魔球。不規則な変化を遂げ、投げた本人すらどこへ行くか予想できない。そのため、捕球が難しくナックルボーラーのいるチームには、専用の捕手もいる。
- ジャイロボール:研究者やプロの間でも存在の有無を繞って、評価が二分されている球。球の回転の向きが他の球と異なるために通常とは異なる変化をする。初速と球速があまり変化しないフォーシームジャイロ、逆に初速と球速が極端に変化するツーシームジャイロがよく知られる。
打撃と守備
打者は投手によって投げられた球を打つ。打った球は飛んだ場所によってフェアかファウルとなる。フェアとはファウルラインと呼ばれるラインより内側のフィールドに飛んだ場合を指し、ここに球が飛んできた場合、打者は走塁の権利が与えられるので、守備側(野手)は捕球を試みる。ここで捕球できればアウトとなる(上に飛び上がった球を捕球した場合は飛球《フライ》、直線上に来た球を捕球した場合はライナーと呼ばれる)。一方、球が地面に落ちた場合、野手は打者に塁を踏まれる(打者が塁を踏むことを占塁という)までに返球しなければいけない。打者の占塁前に守備側が球を持って塁を踏む、あるいは踏むまでにボールを持った状態で走者にタッチすればアウトとなる(打者にとっては、これをゴロという)。一方、打者が守備側より先に塁を踏んだ場合はセーフとなり、これを安打(ヒット)という。なお、打者は続けて進塁する権利があり、返球が返ってくるまでに塁を順番に踏むことによってそれぞれ安打、二塁打(ツーベース《ヒット》)、三塁打(スリーベース《ヒット》)と呼ぶ(ただし、一塁を踏んだ後に次の塁に進もうとして、守備側によって塁を守られてタッチされた場合はアウトとなり、走塁の権利を失う)。これらの二塁打や三塁打を総称して長打という。なお、本塁まで走った場合はランニングホームランといい、1点が入る(滅多に起こらないが)。
本塁打(ホームラン)はこの安打の延長であり、ファウルを除き、相手が守備できない場所(専ら観客席、バックスクリーン、あるいはファウルゾーンを示すポール)にボールが飛んだ場合である。ホームランはその豪快な打球もさながら、最も盛り上がるシーンでもあり、野球の華と言われる。返した走者(後述)によってツーラン、スリーラン、満塁本塁打(グランドスラム)という。本塁打は一切守備側に機会は与えられず、打った相手をただ見守るしかない。
犠打は自分がアウトになっても、味方走者の塁を進めたい場合に行う捨て身の打撃であり、そこではバントを選択することが多い。バントとはバットを軽く当てて前に転がすことであり、前述した通り、転がしている間は走塁権利が与えられるので、味方を次の塁に進めやすい。これを送りバントといい、自身の進塁も見計らったバントをセーフティバントという。なお、三塁にいる走者を本塁に帰す目的でバントを行うことをスクイズバント(スクイズ)といい、高校野球ではよく見られる攻撃である。犠打には犠牲フライ(犠飛)も含まれるが、犠飛については走塁の項で後述する。なお、バントの素振りだけ見せておいて、投手の投球後すぐヒッティングに切り換えることをバスターという。
ヒットエンドランとは、打者が打った直後に走塁を仕掛け、1塁にいる打者が3塁を狙いつつも、打者も安打を狙った作戦であり、また併殺打回避にも有効である(ただし、ライナーとなった場合は併殺打になりやすい)。このヒットエンドランは前述した送りバントと合わせ、ケースによって使い分けることで相手を攪乱することができる。前述したバスターでヒットエンドランをかけることをバスターエンドランという。
これまではフェアのケースであるが、フェアに対してファウルボールは、走塁の権利は一切与えられない。また、ファウルボールは守備側に捕球の権利があり、球が地面に落下する前に捕球した場合はファウルフライ(邪飛)となり、アウトが宣告される(但し、外野へのファウルフライなら後述のタッチアップは可能)。ファウルボールとなる条件にも決まりがあり、外野のファウルゾーンで最初にバウンドした球、最終的に1塁ないし3塁の間のファウルゾーンで静止した球のほかに、1塁や3塁手前の内野で一旦バウンドしたが、1塁や3塁を超えてそのまま外野のファウルゾーン上で一度でもバウンドした球、ファウルゾーン上に障害物(人物含む)に一度でも触れた場合やバッターボックス内にいる打者に当たった場合(自打球)も適用される。一方、外野で一度でも通過してからファウルゾーンに逸れていった場合はフェアとなる。また、1塁3塁手前のファウルゾーンでバウンドしてから、1塁3塁手前の内野フェアゾーンを通過した場合はそのまま外野に抜けてもフェアとなる。地面に落ちる前にベースに当たってから、そのままファウルゾーンに逸れた場合もフェアである。
また、打撃にもルールがあり、違反するとアウトになる。主なものにバッターボックスをはみ出て打った、両打ちの選手が一度どちらかのバッターボックスに立ったあとに、投手のサイン確認中あるいは投球モーションに入った際に別のバッターボックスに移ったりした、などがアウトの適用となる。
野手が悪送球や捕球の失敗などで相手の走塁や得点を許した場合は過失(エラー)と呼ばれる。とりわけ、打者をアウトにできるタイミングなのに、他の走者をアウトにしようとして別の塁に投げてセーフにしてしまうことをフィルダースチョイス(野手選択、略して野選)という。
補足:打撃の用語
打撃(ヒッティング)には大きく分けて、打球の方向に従い、三つの表現がある。それが流す、引っ張る、返すである。
- 流す:打者が利き腕方向に(右打ちならライト方向、左打ちならレフト方向)ボールを打ち返すこと。流し打ちと呼ばれる。
- 引っ張る:打者が利き腕の逆方向に(右打ちならレフト方向、左打ちならライト方向)ボールを打ち返すこと。引っ張りと呼ばれる。
- 返す:打者が真正面にボールを打ち返すこと。投手に対してはピッチャー返し、中堅手(後述)に対してはセンター返しという。
尚、ミートとは、打者がバットの真芯でボールを捉えることである。
走塁
野球で最も複雑なルールが走塁に関するものである。特にリタッチ、フォース、タッチ、フォースアウトとタッチアウトの違いなどは初心者にとって最もハードルが高い部分である。
進塁した打者は打者走者(以下、走者と表記)として扱われ、それぞれ塁上に1人ずつ、最大3人まで占塁させることができる。走者は現在の打者が球を打った直後、また野手による飛球の捕球後に走塁の権利が与えられる。
フェアと判定され、球がフィールドに落ちた場合は打者が球を打った直後から打者には走塁の義務が発生し、塁上の走者には進塁の権利が与えられる。この打者の打撃でヒット以上を打ち、走者を本塁に帰した場合は適時打(タイムリー)といい、本塁に返した走者数によって最大3点が入る。ただし、フェアの球がゴロになったり、ライナーになったりすると二箇所の塁で走者がアウトとなることがあり、これを併殺打(ダブルプレーまたはゲッツー)という。ごくまれに三重殺(トリプルプレー)もある。なお、走者は前の走者を追い越してはいけない。また塁を踏み忘れてもいけない。これを違反した場合、その走者はアウトとなる(この2つのルールはホームランにも適用され、ホームランの場合は踏んだ塁までの塁打《本塁ベースを踏んでいない場合は三塁打、一塁ベースを踏み忘れた場合はアウト》となる)。
ただし、打者が打った後、走塁による進塁が認められるのはフェアと判定された上で、かつ捕球されなかった場合である。そして、塁上の走者は、打者が打った後に、次の塁を踏んだとしても、打者が打った球が捕球された場合、走者は元いた塁に、順番に塁を踏んで帰らないといけない。これを帰塁義務(リタッチ)という。走者が元に戻るまでに、野手が塁を踏んだ場合はアウトとなる。なお、このリタッチによるアウトは補足にて後述するアピールアウトによって適用される。(また、一塁走者で二塁を踏んでから、打者の打球が捕球された場合は、二塁→一塁と逆順に塁を踏む必要がある。先の塁を踏み忘れて次の塁を踏んでしまった場合は、同じくアピールアウト適用対象となる)。
飛球の捕球後は打者に走塁の権利は失われるものの、塁上の走者には走塁の権利は与えられる。これをタッチアップという。そのため、野手が飛球を捕球した後はすぐに塁上の野手に向けて球を返球して、走者にタッチしないといけない。なお、飛球が遠かった場合は返球まで時間が掛かるため、その間に進塁し、本塁に帰還しやすい。このように得点を狙って外野に飛球を打つことを犠飛(犠牲フライ)という。犠飛は前述した犠打の一種である。
フォースプレイ・タッチ
ここからフォースプレイとタッチの説明に入る。その前におさらいしておくが、ルール上各塁には1人ずつしか占有することができない。そして前述した通り、走者は進塁の権利が与えられ、打者は必ず走塁が義務づけられている。これを踏まえておく必要がある。
もし、打者がフェアを打った後、一塁に走者がいる場合は、一塁走者は今いる塁の占有権(これを占塁権という)を失い、必ず二塁に走らなければいけない。この時に二塁にも走者がいたら、二塁走者は同様に必ず三塁に走らなければいけない。三塁にも走者がいる場合は、本塁に走らなければいけない。このような、打者の進塁によって必ず誰かが走塁しなければいけないところてん状態をフォース(フォースとは強制の意)といい、これによって起こるプレイのことをフォースプレイという。
だが、一塁と三塁に走者がおり、打者が飛球以外のフェアを打った場合、一塁走者は二塁に走らなければいけないが、三塁走者は二塁からの走者がいないので、今いる塁の占塁権を失わないため進塁の義務はない。また、二塁と三塁に走者がいる場合でも、打者の走塁義務によって二塁走者が押し出されないため、進塁の義務はない。特に走塁を試みても本塁でアウトになる可能性が高い場合は、走らず塁上に待機させることが多い(これを俗に、塁を埋めるという)。また、このフォース状態では、野手は球を持った状態で、各走者の占塁先を踏むだけでアウトにできる(これを封殺《フォースアウト》という)。そしてフォースプレイの状態で、打者が一塁到達までにアウトになることで3アウトとなった場合、打者の打撃によって得られた得点は全て取り消しとなる。ただし、後述するタッチアウト(厳密にはアピールアウトも)ではその限りではない。
更にフォース状態が解除される場合があり、これはフォースプレイの時に直後の塁にいる走者がアウトになって走塁の権利を失った時である。具体的には1塁と2塁に走者がいて、打者が打ったことでフォースプレイとなった際、先に1塁走者がアウトとなった場合が該当する。この時点で2塁走者は進塁の義務はなくなり、2塁の占塁権が復活することで、2塁に帰塁することもできれば次の塁に進むこともできる。また、野手はフォースアウトにすることができなくなるため、後述するタッチアウトが必要となる。
前述したように、占塁権を喪失しない状態で走った場合は、野手は必ずボールを持った状態で走者にタッチしないとアウトにならない(後述する盗塁もこれに含まれる)。これをフォースアウトに対し、タッチアウト(タッグアウト、または触球)といって、ボールを持った手で走者に触る必要がある(ボールを持っていない手でタッチしても無効)。そして、このタッチアウトによって3アウトになっても、先に本塁に生還していれば、打撃による得点は認められる。尚、タッチアウトの場合は二人の野手に挟まれることが多々ある。だが、走者はあっさり降参してタッチアウトになるのではなく、盛んに逃げ回るように牽制することが多い。その間に別の走者を進塁させるほかに、挟撃の野手のエラーを誘って自分自身も進塁を狙えるからである。
インフィールドフライというルールもある。これはノーアウト、または1アウトの時で打者が一、二塁か満塁(つまりフォース状態)の時に、打者が内野に向けてボールを大きく打ち上げた場合である。このインフィールドフライが宣告されると飛球の有無を問わず、打者はアウトになる(そのままファウルになった場合は無効で、捕球すればファウルフライ、捕球を怠ればただファウル判定となる)。ただ、捕球義務がないからと言って球を捕球せずに放置するのは得策ではない。なぜなら、捕球した場合に限り、塁を離れた走者に対し、リタッチの義務が発生するからである(ただし、フォース状態ではなく後述のアピールアウトであるために、フォースアウトは成立しない)。捕球できなかった場合は走塁義務は全くなく、打者がアウトになるだけである。だが、既に離塁している走者はタッチアウトされなければ、帰塁も走塁もできる。因みになぜこんなルールがあるのかというと、これをアウトにしないと、わざと落球して走者を走らせ、簡単に封殺できてしまうからである。
補足:アピールプレイ(初心者には、まあこんなルールがあるということで…)
尚、今までの説明は走者が一切の違反をしない場合におけるルールの適用である。フォースの如何にかかわらず、走者がルールを違反した場合(タッチアップのタイミングが早かった、リタッチで塁を踏まなかったなど)は、野手が走者にタッチ、あるいは塁を踏み、審判にアピールを行うことでアウトが成立する。これをアピールプレイといい、審判は違反行為を確認している場合でも、他の競技みたいにすぐに宣告せず、野手直々から不正があったとアピールを要求されるまで待機している。そして、このアピールプレイの場合はフォース状態ではないために、アピールプレイによって3アウトになっても、それまでの得点は認められる(これによって第4アウトや第3アウトの置き換えなんてことも発生するが、説明がややこしいので割愛)。ただし、リタッチによるアピールアウト以外は、あくまでアピールすることが前提であり、アピールを行わないまま次のプレイが行われた、当該の野手全員がファウルラインより外に出た場合は失効となる。一方、リタッチによるアピールアウトは塁を踏むだけでアウトが適用され、慣例的にアピールは不要である。
盗塁
走者は投手が投球を行う前後に、次の塁に走者がいない場合、進塁を試みることができる。これを盗塁(スチール)という。捕手はこの盗塁を回避するために、捕球後すぐに進塁先の野手に返球を試みる。この捕手の返球によって盗塁を試みた走者をアウトにすることを刺殺という(フォース状態でないので、タッチアウトが条件)。また、前述したように盗塁を図ってリードを取っている間に牽制球を投げられ、野手にタッチされるとアウトになる。二塁から三塁を狙うことを三盗、また三塁から本塁を狙うことを本盗(ホームスチール)という。また、二人の走者が同時に次の塁を狙うことを重盗(ダブルスチール)といい、あまり見られない反面、決まればかなり注目される。三重盗(トリプルスチール)もごくまれにある。
選手の交代
今までは選手が交代しないという前提で説明をしてきたが、実際は事前に登録した選手であれば、選手の交代が可能である。ただし、一度交代を告げられた選手はその試合に対する出場権利を消失するので、選手交代は慎重に行われる。これらの交代する選手を総じて控え選手という。打者の控え選手を代打、投手の控え選手を継投(リリーフあるいは救援)という。野手や走者に対しても交代できる。そして、選手交代の権限を持つのは監督だけである。
現打者が打撃を終え、次の打者の打順となった時、監督が控えに代打を告げることで、代打が成立する(例外あり)。また、代打は現打者の打撃中であっても、カウントを引き継いだ状態で交代もできる。更に、代打として告げられた選手が一度も打席に立たなくても、相手投手の継投などが起こった場合、別の代打に交代することができる(これを俗に代打の代打といい、昔はよくプロ野球でも見られた。当然代打の代打を告げられた選手であっても、同様に出場機会を消失する)。また、ネクストバッターズサークル(次の打者が待機する場所)で代打選手に素振りだけさせておいて、代打を匂わせる(実際は代打を使わない)のは作戦として許されている(ネクストバッターズサークルはあくまで見せ場であり、打順の公開義務はないからである)。代打を告げられた後は、その交代選手が守っていた守備位置にその代打選手が就くことになるが、この場合は後述の守備位置入れ換えが多い。
打者が走者の状態で交代を告げることもでき、これを代走という。代走は事実上代打の亜種であり、走塁の権利を失った後は打者として打順に組み込まれる。よって、代走を告げられた場合も、交代した打者は試合の出場権利を消失する。
また、守備時でも選手交代は可能であり、打者や投手と異なり、一度に複数の野手を交代させることも可能。また、守備選手の交代は相手の攻撃が始まる前に行うこともできる。この場合、その守備位置を守っていた選手と交代することになり、打順もその交代選手のいた位置に配置される。
選手の守備位置入れ換えは打順内の選手なら何度でも自在にできるようになっている。代打を後で適正な守備に配置する場合などでよく目にする機会である。高校野球などでは投手と外野手を交代というケースも少なくない。但し、打順(スターティングオーダー)は一つの試合が終わるまで一切入れ換えできない。間違った打席で打った場合は、アピールが行われた場合に限り、本来の打順の打者がアウトになる(ただし、打ち終えた後の場合で、打席中に指摘すると、そのカウントを引き継いだ状態で、本来の打者が打席に立つことになる)。
対して、継投は告げられた後、必ず最低1人の打者を相手にして、ヒット、アウト、四死球を問わず打者に対し、1塁までの走塁行為が行われないと、次の投手に継投することができない(アクシデントなどで投げられなくなった場合は別)。また、次の2人目以上の打者に対し、1球でも投げた場合はその打者の対戦を終わらせないと次の投手に継投することができないようになっている。
ポジション
守備側は9人の選手で守備を行い、それぞれ
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/ \
| / \ |
| / 中堅手 \ |
|/ 左翼手 右翼手 \|
\ /
\ ─────────── /
\ / 遊撃手 ◆ 二塁手 \ /
\/ \ /
\ 三塁手 投手 一塁手/
\◆ ( ━ ) ◆/
\ /
\ /
\ /
口◆口
捕手
といった感じでポジショニングをとる。一塁手(ファースト)、二塁手(セカンド)、遊撃手(ショート)、三塁手(サード)を内野手といい、右翼手(ライト)、中堅手(センター)、左翼手(レフト)を外野手という。
シフトによっては位置が変わる事もあるが、投手と捕手に関してはポジションの特性上大幅に変わる事はない。また、各ポジションによって要求される知識、能力、技術が異なる。詳しくは関連項目にある各ポジションの記事を参照のこと。投手はプロ野球の場合、さらに先発投手・中継ぎ投手・抑え投手と分かれる。
以上に加え、投手の代わりに打席に立つ、打撃専用の指名打者がある。
世界から見た野球
発祥のアメリカ合衆国の影響を受けた環太平洋の先進国に競技人口が多い。サッカー等と比べて、普及していない地への導入には金銭的ハードルが高いといわれている(用具・特殊な競技場の用意など)。
アジア | 北米 | 中南米 | 欧州 | その他 |
---|---|---|---|---|
アジアでは日本が一番人気で、草野球、少年野球レベルから盛んであり、全国に野球場は1000箇所以上あるともいわれている。一方の韓国は、プロのレベルは高いものの、草野球など娯楽としての野球はあまり盛んではない。他には台湾でも盛んであり、優秀なメジャーリーガーも輩出している。
北米、中米、そしてベネズエラで野球人気が高いのはアメリカの影響が大きい。だが、アメリカではアメリカンフットボール、カナダではアイスホッケー、メキシコではサッカーが一番人気が高く、国家レベルで一番人気を誇っているのはドミニカ、プエルトリコ、キューバといった中米諸国であり、この辺りは数多くのメジャーリーガーを輩出しているほか、温暖な気候を利用してウィンターリーグが開催されている。
南米はブラジル、アルゼンチンを初めとしてサッカーが盛んであるが、例外的にアメリカの影響が強かったベネズエラだけは古くからサッカーより野球の方が盛んであり、優秀なメジャーリーガーやNPBの優良助っ人を数多く送り出している。ただ、なぜか国際試合には弱く、WBCでも目立った活躍が見られない。また、ブラジルでは野球がちょっとしたブームになっているという話がある。
ヨーロッパやアフリカではあまり盛んではない。理由は気候が寒冷であるため野球に不向きである点と、スポーツ文化に対しイギリスの影響が強いこと(アメリカとイギリスはライバル意識が強かったため、双方で盛んなな団体球技は少ない)、そしてクリケットの方が盛んな点が挙げられる。例外的にオランダでは盛んであり、特にカリブ海オランダ領のアルバ島やキュラソー島で人気が高いことが知られるが、本土でもそこそこの競技人口がいる(尤も、オランダはサッカーを筆頭に各種スポーツが盛んであり、競技人口から考えるとマイナーの類である)。イタリアがオランダに次ぐ。
フランス・クロアチア等にもリーグがあるが、日本人からするとまだまだレベルは低い。
ニコニコ動画における概要
知名度が高く日本で行われるスポーツの中でも有数の人気を誇るため、ニコニコでも多数の動画が投稿されている。珍プレー好プレーからマスコットの動画、ゲームのプレイ動画、MADにいたるまで動画としてのジャンルも幅広い。
基本的に2ちゃんねるのプロ野球板やなんでも実況(通称、なんJ)のノリ(あだ名・キャラ付けなど)が持ち込まれるため、基礎知識がないと分からない動画も多い。 → 野球板用語集
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ニコニコでよく話題やネタにされる選手・ワード
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詳細はプロ野球選手一覧などを参照。
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