[go: up one dir, main page]
More Web Proxy on the site http://driver.im/

ひとりで山を歩き「食べられる野草」を探す 「山野草ガイド」を作る地域おこし協力隊員

京都府京丹波町の野草木を調査している岩井悠人さん

「ホタルブクロという野草は花が食べられるんです。さっと茹でてそのまま食べてもいいし、マリネとか酢の物にしてもいい。レタスに近い味で見た目がきれいなのでサラダのトッピングなど飾り付けにもいいんです」

こう説明するのは、京都府京丹波町の岩井悠人さん(26)。2018年から地域おこし協力隊員として活動しています。

ホタルブクロの花

「地域おこし協力隊」は総務省が進めている地域振興の制度。人口減少や高齢化が進んでいる地域に人を送って、地域のために活動してもらうものです。年々応募者が増えていて、2019年度は5500名を超える人達が全国各地でさまざまな地域協力活動にあたっています。

京都市出身の岩井さんは実家が材木店だったこともあって、大学で森林科学を専攻。森林ボランティアのサークルにも入って、森林の整備やタケノコ掘り、なめこ取りなどの活動をしていました。

「自分が作業していた山で、季節ごとに山の幸を食べられるのが楽しかった。そこから、森林の整備と山の恵みの循環や、自然が自然のままで移り行く姿に興味がわいてきたんです」

大学卒業後、実家の材木店で働き始めました。しかし「自分が楽しいと思えることをみんなに伝える活動がしたい」と、京丹波町の地域おこし協力隊に応募しました。

ホタルブクロなどの「食べられる野草木」は、協力隊として、いかに山の楽しさを伝えていくかを考える過程で興味を持つようになったそうです。

野山を散策しながら、栽培教室の参加者にクロモジについて説明する岩井さん(写真提供:和知山野草の森)

野草木に対する並々ならぬ探究心

京丹波町での岩井さんの仕事は、森林資源の活用推進です。同町の自然をPRしたり、子供向けに森林環境教育を行ったり、町内のイベントで森林教育の講師を務めたりしています。

それ以外は山歩きをしながら植物観察。自分の研究も兼ねて、リストアップした500種類の植物が京丹波町にあるかどうかをコツコツ調べています。

「亜種レベルの違いも含めて500種類、リストアップしました。専門家じゃないと見分けがつかないものも多いし、500種類を全部確認するのは無理かなと思いますが、京丹波町で250種類くらいはすでに自分の目で確かめました」

野草は図鑑を見ただけではわからないことも多く、花が咲いてからやっと見分けることができるものもあります。この季節に花が咲くからこの植物、日が当たるところに生えているからあの植物といったように、様々な特徴を丹念に確認して、種類を特定していくそうです。

「50年前にはなかった植物も見られるんです。外来種も出てきています。そういう植物も時間が経つにつれて、いずれ日本の風景になるのかなと思います」

しかし、特定できないものも多いのだとか。

「人家の庭に植えられていた花の種が自然界に飛んできて、芽を出すこともあります。そういう場合は、何の仲間かくらいまでしかわかりません」

どうして野草木なのか

ところで、人間が丹精こめて育てたバラやキクなどではなく、どうして地味な野草木に惹かれるのでしょう。 

「どんぐりは年によって豊凶がある。人類史みたいなものなんですけど、そういうものに興味があります」

大学で森林植生学を学んだ岩井さんはこう言います。

「アスファルトの割れ目に一輪だけタンポポが咲いていたりすることがありますね。どうしてここにだけ咲いているんだろう。どうして人に踏まれずに生きてこられたんだろう。何か意味があるはず。そこに学術的な興味を持つんです」

植物によっては、1年のある時期しか顔を出さないものや、限られた原生林でしか観察できないものもあるのだとか。山歩きをしていて、そうした滅多に見られない草花に出会えたときの驚きや喜びも、ガーデニングの植物にはない魅力なのでしょう。

山歩きで岩井さんが見つけた緑青色に変色した朽木。原因は「緑青腐れ菌」。倒木などに付着して、木を腐らせる過程で緑青色に変える

どうして「食べられる野草木」なのか

「山で松茸を見つけたら、誰だって嬉しい。そういう発見や収穫の体験が大きいです。スーパーで買うのと自分で収穫して食べるのは違います」

そういう喜びを地域住民に伝えるのも、岩井さんの仕事です。「食べられる野草木」には多くの人が関心を示すので、イベントで野草木の食べ方を紹介したり、実際に試食したりすることもあります。。実際に山を歩いて、食べられる野草を探すことも。

「もちろん安全を確認したものに限りますが、歩きながら道端に生えている草を生で食べてみます。これは火を通したほうがいいとか、生のままで食べてもいいとか…。野草はアクが強かったり、火を通さないと口の中でゴワっとしたりするものもあります。自然の営みの中に介在できることがひとつの面白さでもあります」

おいしい野草だったらとっくに、私たちが食べる野菜に“昇格”して、スーパーに並んでいるでしょう。味がイマイチだからこそ、野草は今も自然の中で生きていられるのかもしれません。

岩井さんの話を聞いていると、味はともかく、スーパーで売られている野菜にはない、野性味たっぷりの野草を味見してみたいという好奇心が湧き上がってきます。

ちなみに、山ならばどこでも野草を採っていいわけではなく、私有地や野草の採取が禁止されている場所もあるので、注意が必要です。岩井さんは、京丹波町が管理している場所や採取可能な場所で採取を行っているということです。

山歩きはひとりがいい

岩井さんが大切にしている「ひとり時間」は、もちろん山歩きをしているとき。

「この道は面白そうだなと思ったら、藪だろうと入っていく。自分の興味が赴くままに活動するため、ひとりは強みです。一般の人は『これ、食べられるよ』というと興味を示すけど、なんの変哲もない草花だと食いついてくれないので(笑)」

長老ヶ岳山頂からの景色。希少な高山植物や野生植物が観察できるスポットでもある

名の知れた山だと登山客も多いですが、どこにでもあるような田舎の山には人があまりやって来ません。しばらく歩いて休憩したくなったら、景色のいい場所や落ち葉が溜まっているところで、誰にも邪魔されずにくつろいだり瞑想したり。あたりの自然をひとり占めできる贅沢な時間です。

「自然の中だと、自分のあるがままでいられます。自然の中では、自分自身と自然のみが向き合う。自然に溶け込んでいる空白の時間は静も動もなく、ただ流される。意味のない空間に意味があり、心がリフレッシュされるんです」

ただし、山にはクマが出ることもあるので、スマホの電波が届かないような場所に行くときは誰かと行動を共にするそうですが。

京丹波町での地域おこし協力隊の任期は3年。岩井さんはその3年間の調査活動の集大成として、自分でリストアップした500種類の植物調査をまとめて「山野草ガイド」を作るのが目標だと語ってくれました。

長老ヶ岳山頂からは遠く日本海側まで見渡せる。空と山のコントラストは特に岩井さんのお気に入り

この記事をシェアする

「ひとり仕事」の記事

DANROクラブ

DANROのオーサーやファン、サポーターが集まる
オンラインのコミュニティです。

もっと見る