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オードリー若林さん、先輩芸人の死を機に「物事をナナメに見るのをやめた」

生き方上手な人に比べて「自分は圧倒的に劣っている」。お笑いコンビ・オードリーの若林正恭さんは、自ら執筆した著書のなかでそう述べています。もともと人見知りだという若林さんは社会生活にうまくなじめず、「他の人と自分が何か違うような気がする」という疑問を抱き続けてきたといいます。

しかし、2018年9月に40歳をなる若林さんは、そんな自分を受け入れられるようになってきたのだとか。現在の心境をまとめた単行本『ナナメの夕暮れ』(文藝春秋刊・8月30日発売)を出版する若林さんに、話を聞くことができました。若林さんはエッセーに綴った2015年からの3年間を「青年とおっさんの狭間」だったと記しています。

ーー単行本に収録されたエッセーを書いたこの3年間は、若林さんにとってどんな時間でしたか?

若林:非常に中途半端な時期でしたね。MC(司会)をやり始めたのが2015年なんですけど、進行していても、ゲストの視線が「お前はまだ早えーだろ」っていう目をしてるような感じもあって。若くもないし歳をとってもない。若者のブーストがかかっていたエンジンが、回転数の高い感じはなくなりつつあるという時期。おじさんになっていくなかで、打算だったりズル賢くなっていく潮目を渡っているときみたいな時期ですね。

ーー本のなかで、他人に対する否定的な見方がブーメランのように返ってきて、自意識過剰になると書かれています。そのことに気づかれたのは、いつですか?

若林:すごく恥ずかしい話、最近で。普通の人に10年くらい遅れて、いろんなことの気づきがくるのが自分の生き方だなって思うことがあります。ゴルフを始めたら、「なんでゴルフなんて始めるんだ」とか「お前そっち側にいっちゃうのかよ」って、(南海キャンディーズの)山里亮太に言われたんですけど、自分もそうだったんですよ。ゴルフなんて、俗物のやるものだと思っていて。

でも、やってみると全然違って難しいし、遠くに飛ばしたいと思うほど飛ばないし。遠くに飛ばなくていいやって思うと飛んだりする。やってみたら、なんでも面白いなっていう。否定するとやり始めないし、やってる人をディスっていると自分がその立場になれないじゃないですか。それは毎日を合理的に楽しむってことに対して、ちょっと邪魔だなと。狭めちゃうというか。中高生のとき、文化祭とかでステージではしゃいでいる人たちをベランダの隅からバカにしてきたので、「ずいぶんと損をしてきたな」という気持ちになったんですよね。

新著『ナナメの夕暮れ』を手に持つ若林正恭さん(撮影・齋藤大輔)

ーーそんな心境の変化が、どのような行動をもたらしましたか?

若林:今年のホワイトデーに初めて、もらった全員にお返ししてみようと思ったんですよ。そしたらお返したことに、みんな引くくらいびっくりしていて。ロケでアメリカに行ったときのお土産を共演者のみなさんに買っていったときも、「若林さんって他の人のことを考えるときあるんですね」って(笑) 俺ってそれくらい自分のことしか考えてない人間だったんだと思って。プレゼントって「その人のことが頭のなかにありました」ということの表明なんだって、初めて気づきました。

ーーそんな風に変われたきっかけがあったんですか?

若林:親父が死んだのと、まえけんさん(お笑い芸人の前田健さん)という先輩が亡くなったのが、2週間くらいのあいだに起きたんです。そのとき、物事をナナメに見るのって“竜宮城”で、ナナメに見ていたりカッコつけていたりしたら、人生ってすぐに終わっちゃうなって。そう思ったのと、2人の生き方がすごい好きで。自分にもっと正直に、楽しいことは楽しんでやろうって。

インタビューに応じるオードリーの若林正恭さん(撮影・齋藤大輔)

ーー『ナナメの夕暮れ』は、おじさんになっていくというのもテーマのひとつだと思います。理想のおじさん像というのはありますか?

若林:まず、ハイブランドの長財布と、ハイブランドのスマホカバーをテーブルに置いて、酒を飲むようなおじさんにはなりたくないですね(笑)。それと本にも書いたんですけど、自分の生き方を肯定したいがために立場の弱い人に講釈をたれるようなおじさんにはならないっていうことだけは、気をつけて生きようかなと思います。

ラジオ番組に、俳優の梅沢富美男さんがゲストで来てくれたとき、頭に小銭を置いたままケツバットをして、小銭は落とさないって企画があったんです。「やらせてくれますか?」って聞いたら「おう、いいよ。やれよ」って言ってくれて、思いっきりケツバットさせてくれたんですよ。それで「楽しかったよ」って帰っていって。すげーかっこいいなと思って。

ちょうど梅沢さんが本を出版されたときだったんで、梅沢さんにほんと失礼なんですけど、「買うほどまでじゃないですけど、読みたいですね」って言ったら、「お前、冗談じゃねえぞ!」って言いつつ、あとで事務所に何冊も送ってくれて。「番組のリスナーに分ける分と君の分だから」って。めちゃくちゃかっけーなと思って。あれだけ器がでかくなれないかもしれないけど、あんな風になれたらいいなっていう人が何人かいて、目標にさせてもらおうと思います。

インタビューに応じるオードリーの若林正恭さん(撮影・齋藤大輔)

「話を聞いてくれるということは、理解者であるということ」

ーー本では、ひとり旅についても書かれています。いまも続けていますか?

若林:ほぼ、ひとりでいろんなことをしてるんですけど、キューバに行ってからは、ひとり旅にはけっこう凝っています。このあいだバリ島にひとりで行ったのは、あっちに移住してスカイプで東京とか中国とかの会議に参加する生き方をしている人がいるって、名古屋の番組かなんかで聞いて。すごく見てみたくなって、どうやって働いてるのか見に行ったんです。

プールサイドのカフェみたいなところで、それぞれ仕事は違うんですけど、みんなどこかの会議にスカイプで参加している。でも、人と会わないで仕事してるじゃないですか。それはあまり面白そうじゃねーなって思っちゃって。見はじめて1時間くらいで飽きちゃって。ガイドさんに「遺跡でいいから見に行かせてくれ」って(笑)

あと、バリ島に移住しちゃうと、後輩とか同期で居酒屋に行って、しょうもない下ネタとか人の悪口で2時間飲むとかできないなと思って。俺の生きがいって、たぶん同い年の男ともだちと誰かの悪口を言うことだな、と。新橋の居酒屋でグチを言えないんだと思ったら、飽きちゃって。あのままひとり旅がつまらなくなると自分的にはけっこう困るので、帰りにゾッとしましたけどね。

ーー旅に関しては、友達と行こうとか芸人仲間と行こうとか思わないんですか?

若林:芸人仲間と行くと、誰かがボケ始めたりするんですよね、名所で。なんか名所って、いいフリが効いちゃってるんですよね。それでツッコむじゃないですか。ほんと無駄な時間を過ごす。いろいろ見たいし、「へーっ!」とか思いたい。でも「おい!」とかツッコんでるあいだに日が暮れちゃう。そういうのがもったいないんです。

お笑いコンビ・オードリーの若林正恭さん(撮影・齋藤大輔)

ーー「孤独」ということ自体は、どんな風にとらえていますか?

若林:エッセーの最後のほうにも書いたんですけど、誰かと話が合うってすごいことだと思うんですよ。事件のニュースとかを見たとき、こいつの話を「わかるわー」って聞いてくれる人がいなかったんだろうなとか思うときがあるんですよね。孤独になると、感情のバランスがとれなくなっていくので。

そう考えると、話を聞いてくれる人って、それだけですごい財産。自分が聞いてあげられる人もそう。孤独を感じるのは、思いを聞いてくれる人がいないときだと思うんですよね。ラジオのリスナーがありがたいなと思うのは、話を聞くことって理解者であるということだから、俺と春日みたいな人間のくだらない話を10年も聞いてくれたって、すげーなと。それだけでありがたいと思っています。

ーー南海キャンディーズの山里さんとは、お互いのエッセーに登場しあう仲ですね。若林さんにとって、山里さんはどういう存在ですか?

若林:同期であって、年も1歳上なだけ。一緒にネタを作ってライブをやったり、番組をやったり。すごく性格も似てるなと思ったのは、山ちゃんに『天才はあきらめた』って本を先に出されちゃったんですけど、俺も「諦念」という言葉を本のタイトルで使いたかったんですよね。前作が『社会人大学人見知り学部 卒業見込』だったんで、『諦念留学』とか『諦念大学院』とか『諦念コーポレーション』とか考えたんです。ちょーダセーなと思いつつ、でも「諦念」という言葉を使いたくて。諦めたことで楽になったことが多かったんで。

ただ、山ちゃんが『天才をあきらめた』って文言を使ってきちゃったから、二番煎じだって言われるのはやだなと思ったんです。だから悩んで。「このタイトル邪魔だわー」って(笑)。山ちゃんと俺は、40歳と39歳。諦めることで逆に明るくなっていくっていう年なんですかね。そういう同じ山を登ってるみたいなことを、山ちゃんに対しては勝手に思ってるかなぁ。でも、話がわかり合えすぎるから、飲むのは年に1回だけにしてるんですけどね。

若林正恭 プロフィール:1978年生まれ。東京都出身。O型。現在『潜在能力テスト』『激レアさんを連れてきた。』等に出演中。著書として、『ナナメの夕暮れ』のほか、第3回「斎藤茂太賞」受賞作『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』や、『社会人大学人見知り学部卒業見込』がある。

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土井大輔 (どい・だいすけ)

ライター。小さな出版社を経て、ゲームメーカーに勤務。海外出張の日に寝坊し、飛行機に乗り遅れる(帰国後、始末書を提出)。丸7年間働いたところで、ようやく自分が会社勤めに向いていないことに気づき、独立した。趣味は、ひとり飲み歩きとノラ猫の写真を撮ること。好きなものは年老いた女将のいる居酒屋。

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