某家の家臣が、主人に手討ちにされることになった。主人に対して重い罪を犯したというのではないが、その家臣を斬らなければ義の立たない事情があったのである。 家臣は憤って言った。 「さしたる罪もない私を、手討ちになさるとは怨めしい。死後に祟りをなして、必ずや取り殺してみせましょう」 主人は笑った。 「おまえごときが祟りをなして、わしを殺せるものか」 家臣はいよいよ怒った。 「見ておれ。きっと取り殺してやる」 主人はまた笑った。 「わしをとり殺すと言うが、そんなことが出来る証拠があるのか。あるなら今、わしの目に見せてみろ。おまえの首を刎ねたとき、首を飛ばせて庭石に噛みつけ。それを見たら、確かに祟りをなす証拠としよう」 主人が首を刎ねると、ほんとうに首が飛んで、石に噛みついた。 しかし、後になんの祟りもなかった。そのことを人に尋ねられて、主人はこう答えた。 「あの者は最初、祟りをなしてわしを殺そうと