ドイツ神秘主義の最後の頂点といわれるヤコブ(ヤーコプ)・ベーメの処女作(征矢野晃雄訳、牧神社、1976年)。これは大正10年に大村書店という本屋から出たものの復刻版、というかファクシミリ版で、誤記、誤植も含めてそっくり復元してある。こういう本の出し方の是非はともかくとして、ベーメの本邦初紹介、それもかなり念のいった紹介というのでこの古い本を読んでみた。 この本、慣れるまではそうとうに読みにくい。それもそのはずで、この本はベーメの内的体験(彼によれば神の啓示)をそのまま忠実に文にしたものだからだ。啓示とは天使の直観のように、一瞬にしてすべてを了解するたぐいのものだろう。そういったロゴスに媒介されていない知見を筋道たてて語るのはたしかに至難のわざだと思う。門外漢にはちんぷんかんぷんに見えてもふしぎではない。なによりもベーメ自身がこのようにいっている。 「此の黎明は……凡てのものの創造を、然し非