小雨。夕方時間ができたので、閉店をむかえる喫茶店にすべりこみで入ることができた。 店内は私と同じ思惑の人たちで満員だった。 黒皮張りの深く沈むソファに腰掛け、せっかくなのでショコラのケーキセットを、と頼んだら、 「もうケーキはぜんぶ出ちゃったの、ごめんなさいね」とマスターの姉。 古い内装に不釣合いなプロ仕様のスピーカーからは明るいジャズが流れていた。 いかにも「最後ですぅ」みたいな感傷的なダサい選曲じゃないのが、ああ、マスターほんとにセンスよくて良かった、と思った。 マスターの好きなグッズグズのダヴも聴きたかった。 この喫茶店には指で数えるほどしか来てない。 もっと早く入ってみればよかった、と思う気持ちと、きっと早くに知ってもこの店の良さはまだわからなかっただろう、と思う気持ち。 音楽の良さもコーヒーの味も、なんとなくわかりかけてきたのは三十路に入ってからのこと。 コーヒーカップにそうっと