通常の家庭では、親が子どもに道徳観念や“人として”大切なことを教える。だが、中には歪んだ感情をぶつける相手に「我が子」を選ぶ親もいる。そういった場合、子どもは親に必要なあれこれを教わることができない。私の親も、まさにそれだった。 だが、そんな私に生きていく上で必要な道徳や理性、優しさや強さを教えてくれたものがある。それが、「本」という存在だった。このエッセイは、「本」に救われながら生きてきた私―-碧月はるの原体験でもあり、作家の方々への感謝状でもある 歪んだ家庭で息をする者同士の夜 暗い夜道を独り駆ける。誰にも捕まらないように、誰にも見つからないように。走るたび、股の奥に鈍痛が走る。それでも足を止めず、人目を避けるために裏道を選び、目的地へと急いだ。河原沿いにある幼馴染の家まで、およそ5分。たったそれだけの距離が、いつもやけに遠く感じた。 窓ガラスを軽くノックすると、カラリと乾いた音を立て