奇想の発見——ある美術史家の回想 [著]辻惟雄 「ノブちゃんのオデコは大きいオデコ、雨が降っても傘がいらない」。近所の魚屋のお兄さんが著者の子供時代をこうからかった。そういえば「マルコメ君」に似たノブちゃん、どこか不安げなとまどった表情の写真が冒頭に掲載されているが、本書の様々な人生の局面で、実に効果的にこの表情が癒やしてくれるのである。だから著者の人生にいかなる理不尽なことが起ころうとも「偶然」という運命におまかせして、読者は次のページに目を移せばよろしい。偶然がさらなる偶然を招く。読者が著者の人生と同化するに従って「先生」はやはり「奇の人」であることがごく自然に納得できる。 幼い頃の祖母の不思議な霊体験から始まって生きた心地のしない空襲、死者のうめく身の毛もよだつ地獄絵図的現実をくぐり抜けて、長い長い時間の果てに巡り逢(あ)う「奇想の画家」たち。両者の邂逅(かいこう)は親和性によるもの