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クラウドの利点を生かし“まずやってみてから考える”、「文藝春秋 建設カンファレンス in 那覇」レポート

「建設DX」成功のための4ステップ、沖縄の地場ゼネコン・屋部土建がノウハウを明かす

文●大塚昭彦/TECH.ASCII.jp 写真● 舘幸子

提供: Dropbox

「文藝春秋 建設カンファレンス in 那覇」が2024年12月4日に開催された(主催:文藝春秋、協賛:Dropbox Japan)

 高齢化や人材不足、若手社員への技術継承といった“2027年問題”を抱える建設業界。業務のデジタル化、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進することで、そうした業界の危機、難題をどう解消していくのか――。

 2024年12月、沖縄県で開催された「文藝春秋 建設カンファレンス in 那覇」では、およそ90名の参加者に対し、沖縄県建設業協会や県内の土木/建築事業者からそれぞれのDXの現状や課題、ノウハウなどが語られた。本記事では、屋部土建によるDXの取り組み事例講演をレポートする。

屋部土建の建設DX事例(土木分野)。UAV(ドローン)レーザー測量データ(左)に、3Dモデリングデータを組み合わせた統合モデル(デジタルツイン)の表示例(右)

建築分野の事例。BIMデータを基に施工ステップ図を作成し、合意形成や情報共有、重機の配置計画などに活用している

「建設DX」専任部署を設立、建設業の課題解決と“新3K+1”実現目指す

 屋部土建(やぶどけん)は、1933年創業、1950年に法人化された、土木/建築領域で長い歴史を持つ総合建設会社だ。浦添市の本社、名護市の本店のほか、県内と福岡市に合計4カ所の営業所を構える、地域に根ざした地場ゼネコンであり、売上高は250億円、従業員数は307名(いずれも2024年)。ほかにもグループ企業(ゆがふホールディングスグループ)において、住宅建築や不動産業、総合ビルメンテナンス業、ホテル業、観光業などを展開している。

 屋部土建で常務取締役を務める入佐学氏は、同社では「必要とされ続ける建設企業No.1」を、グループとしては「握手したい企業No.1」をミッションに掲げていると紹介する。企業の成長を通して沖縄県経済の発展に貢献し、従業員とその家族の幸せを追求する取り組みを進めてきた。同社正社員の平均年齢は37歳で、男性社員の育児休業取得を推進するなどワークライフバランス向上の取り組みなども行っている。

屋部土建の工事実績(一部)。沖縄県内を中心に数多くの土木/建築実績を持つ

屋部土建 常務取締役の入佐学氏

 同社が現在注力しているのが“建設DX”の取り組みだ。2023年10月にはDX専任の「DX推進部」を発足させ、本社内に開設した「YLAB(ワイラボ)」を活動拠点に、本社管理部門である情報企画管理課、ゆがふホールディングスの情報部門と連携しながらDX推進活動を行っている。

 「YLABには165インチの大型モニターを設置し、ミーティングや発表のほか、リモートでの(土木建築現場の)安全パトロールなどを行っています。そのほか、ドローンやレーザースキャナー、3Dプリンターなども備えており、たとえば3Dプリンターを使って300分の1サイズの模型を出力し、現場での施工検討に生かすような取り組みも進めています」

DX推進部やYLABが登場する、屋部土建のTV CM(同社YouTubeチャンネルより引用)

 同社が建設DXに注力する背景には、建設業の「担い手3法」(建設業法、入契法、品確法)および働き方改革関連法(時間外労働の上限規制)の改正にともなって、「生産性の向上」や「i-Constructionへの対応」を実現するための具体的アクションが必要になったことがある。

 「さらにもうひとつ、DXを通じて“新3K+1”も実現したいと考えています。“給与、休暇、希望”の3Kに“かっこいい”もプラスした、新しい建設業の姿ですね。これを実現するためにも、デジタル化、DXというのは避けて通れない課題だと思います」

「とりあえずやってみる」DXの始め方、土木/建築現場で着実な成果

 屋部土建では、2017年の「Google Workspace」導入を皮切りとして、全社員のiPhone導入や土木/建築現場へのiPad導入、デジタル野帳「eYACHO」や図面/現場管理アプリ「スパイダープラス」の導入、現場チャットツール「direct」の導入など、助成金や補助金も活用しながら段階的にITツールの導入を進めてきた。i-Construction対応のために、現場ではドローン(UAV)、BIM/CIM、レーザースキャナーなども取り入れている。

 入佐氏によると、同社では「とりあえずやってみよう」という姿勢でITツールの導入を行い、DX戦略は“後付け”で進めてきたという。それでも「生産性の向上」「魅力の向上と発信」「働きがいの実現」「人材育成」といった成果を着実に実現してきた。

 DXの成果を得るためとして、入佐氏は準備、導入、展開、発展の4ステップそれぞれのポイントを挙げた。

 まず準備段階では、スモールスタートでコストとリスクを抑えながら導入検討を行うとともに、仲間を作って周囲を巻き込む。導入段階では社長や役員にも積極的に使ってもらい、「使わざるを得ない状況」を作って社内展開を進める。情報部門はその支援を行うとともに、成果と課題を共有してPDCAを回す。その先の発展段階では、教育体制の整備など継続利用に向けた活動を行うとともに、社外のサプライチェーンやステークホルダーとの連携も進める。

 「クラウドシステムは1人、2人が使うだけならば非常に安価なので、まずやってみてから考える、PDCAではなく“DCAP”(Do-Check-Action-Plan)の順にやることで、スムーズなスタートができると思います」「弊社は元請の立場なので、協力会社や発注者と(DXツールを通じて)つながらないと、やはり1社だけでは生産性の向上にも限界があります。さらなる発展を目指すうえでは、その点が今後の課題です」

入佐氏が考える“DX成功のためのポイント”

 同社では現在、土木、建築の両分野における建設DXを、社内スタッフの内製作業を中心として推進している。BIM/CIMの3Dモデル活用、さらにICT施工を実現することで、建設プロジェクトのフロントローディング(設計段階でのシミュレーション実施による事前検討強化)、関係者間における合意形成のスピードアップ、施工の安全対策強化、環境負荷低減、品質確保などに役立っているという。

 「まだまだ途中段階ではありますが、さまざまな場面で成果が出てきています。これから設計段階のモデル化、データ化が進んでいくと、さらに施工段階での生産性が上がるのではないかと期待しています」

土木、建築の現場において建設DXの成果が生まれている

土木分野の事例。UAVレーザー測量で起工測量は5日間の短縮。またICT施工にも取り組み、河川の浚渫工事で25%の時短を実現した

建築分野の事例。建築モデルと協力会社が作成した鉄骨モデルを組み合わせ、整合性や干渉のチェックを事前に行い“手戻り”を減らす

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