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シャープはもう大丈夫だと安心させるため、戴社長が抱く秘策は?

2016年12月28日 12時38分更新

文● 大河原克行 編集●ASCII

2016年度下期に純利益を黒字化、やれば出来る

 シャープの戴正呉社長は、2016年12月27日、社内イントラネットを通じて、「“やれば出来る”、2017 年を羽ばたく年にしよう」と題した社員向けメッセージを発信した。

 このなかで、戴社長は、「まずは、2016年度下期に当期純利益の黒字化を実現し、家族や、すべてのステークホルダーに『シャープはもう大丈夫だ』と安心していただきたい」と述べたほか、「どんな困難が立ちはだかろうとも、『やれば出来る』の精神で自らを奮い立たせてもらいたい」と社員に呼び掛けた。戴社長が社員にメッセージを送るのは、2016年8月23日に最初のメッセージを送信して以来、5回目となる。

新体制後4ヵ月、7回の取締役会で59件の議案を審議

 戴社長は、「今年は、シャープにとっても、皆さん個人にとっても激動の一年だったと思う。こうしたなかでも、私の経営基本方針を理解し、シャープの再生に向けて共に取り組んだ、すべての従業員に心から感謝する」と切り出し、「感謝の証のひとつとして、自社製品を特別価格で提供する謝恩祭は大変好評である。今後も、業績回復の進捗状況などに応じて、従業員に加え、ステークホルダーも対象にした様々な感謝の施策を検討していく。シャープ再生に向けて、共に団結してがんばろう」と呼びかけた。

 また、戴社長は、新体制が発足してから約4カ月が経過するなかで、7回の取締役会を開催したことや、59件の議案について審議し、方向付けを行ったこと、各事業部門において、改革や成長に向けた様々な手を講じてきたことを示しながら、「組織力の強化」、「イノベーションの加速」、「新たな展開に向けた布石」という3つの観点から、4カ月間の取り組みや成果について言及した。

 組織力の強化では、「シャープが成長力を取り戻すためには、それぞれの組織や組織を担う責任者が強いリーダーシップと責任感を持つことが重要だと考えている。そのために、すべての部門をビジネスユニット化し、個々の組織の責任範囲や権限を明確にし、厳しく収益責任を問う体制に移行した。本当に強い組織を作り上げるには、一人ひとりの従業員が高いモチベーションを保ち、自ら積極的にチャレンジできる環境を備えることが重要である。そこで、人事改革の基本方針を『年齢・性別・国籍に関係なく、成果を上げた人にしっかり報いる制度へ』に定め、信賞必罰を原則とした人事制度への刷新、給与減額見合い分の手当支給、公平・公正な人事評価を担保する人事評価委員会の設置など、抜本的な改革を進めてきた」と総括した。

 さらに、「大きな成果を上げた若手社員にしっかりと報いるために、営業インセンティブ制度(トライアル)の導入や社長特別賞与の支給を行ってきたが、今後も、社長特別賞与の枠拡大、技術開発に対するインセンティブなど、制度拡充を進めていく。さらに、退職者の再雇用のためのカムバック採用、新卒採用、キャリア採用など、若手を中心とした優秀人材の確保も、積極的に進めていきたい」とした。

8K技術は単にきれいなテレビではない

 イノベーションの加速では、8K技術について言及。「8K技術は、単に高画質のテレビ放送技術ということではなく、放送機器、動画 配信、医療、セキュリティなど、業界の枠を超えた企業やサービスの有機的な結びつきの中核になる技術」と位置づけ、これを「8K Eco System」と表現した。「8K技術は、大きな可能性を秘めている。シャープは、すでに8Kの開発で先行しているが、12月16日付けで、社内プロジェクト体制を再編し、開発をさらに加速している」と述べた。

 また、IoT分野では、「RoBoHoN」のさらなる進化や、「人に寄り添うIoT」を実現する機器やクラウドサービス「COCORO+」の展開、シャープと顧客をつなぐメンバーシップ制度である「SHARP i CLUB」といった取り組みをあげながら、「スマートホームの実現に向けた取り組みを加速してきた」と語り、「香港Mangoと共同で、東京オリンピック開催などで増加が期待できるホテル宿泊者を対象にしたスマホ貸出サービスのhandyを展開するなど、まったく新しいビジネスモデルの構築にも着手している。さらに、オープンインキュベーション活動であるSHARP IoT. make Bootcampを通じて、ベンチャー企業とのコラボレーションを積み重ねることで、社内にイノベーションが生み出される組織風土の醸成も進めている」とした。

 新たな展開に向けた布石としては、2016年9月に、有機ELディスプレイの4.5世代生産ラインへの投資を決定したこと、半導体事業への再参入の検討、カメラモジュール事業において、コアデバイスや生産技術保有先に対する出資・買収による垂直統合の実現、海外テレビ事業の徹底拡大に向けて、UMCの子会社化による欧州テレビ市場への再参入などの取り組みを示しながら、「将来、シャープが大きく飛躍するための準備が着々と進展している」と指摘。「2016 年は、数多くの構造改革の断行や成長への打ち手を具体化してきている。2017 年には、これらが必ず実を結ぶものと信じている」としている。

ATOM隊についても言及

 一方で、「やれば出来る」の精神についても触れた。

 戴社長は、シャープには、「やれば出来る、やらねばならぬ、目標達成。熱意を込めてやろう、やれば熱意がわいてくる」というセールススローガンがあること、これは、1965年に発足したATOM隊のなかで生まれた言葉であること、ATOM隊は、座ってモノを売る時代に、販売店と一体となり訪問販売を行う専任部隊として組織され、その後も、次々と時代に合った新しい販売手法を作り上げてきたことなどを示しながら、「万全の手を尽くしたとしても、想定外の変化が起こるのがビジネスの世界であり、何が起ころうとも、それを乗り越え、勝ち抜いていかなければならない」とし、「いまこそ、営業部門のみならず、私たち全員が、『やれば出来る』との強い思いを持たなければならない。どんな困難が立ちはだかろうとも、『やれば出来る』の精神で自らを奮い立たせてもらいたい」とした。

 また、「ATOM 隊の歴史は、シャープの販売手法の構造改革の歴史。そして、それを支えた『やれば出来る』の精神は、50 年以上が経過したいまもなお、 ATOM隊をはじめとした営業部門に脈々と受け継がれている」と述べた。

 戴社長がATOM隊の取り組みについて触れたのは、今回が初めてのことである。

 最後に戴社長は、「2017年(酉年)、羽ばたく年へ」とし、「まずは、2016年度下期に当期純利益の黒字化を実現し、家族やすべてのステークホルダーに、『シャープはもう大丈夫だ』と安心していただきたい。一致団結してV字回復を果たし、トリのように大きく羽ばたく一年にしよう」と呼びかけた。

 これまでのメッセージに比べると、社員に対する厳しい言葉が少なくなった印象も受ける。また、その一方で、ATOM隊の話に言及するなど、戴社長自らがシャープの歴史を積極的に学んでいる様子もうかがえる。

 戴社長にとって、最初の通信簿となる2016年度下期の黒字化に向けた結果が出るまで、あと約3カ月。黒字化に向けた手応えは、まだメッセージのなかからは感じられない。

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