高速道路をノンストップですっ飛ばして急にブレーキを踏むことで後部座席から視聴者をふっとばすのが目的だとしたら?
恐ろしいアニメだ。
俺達は全員異世界スマホという作品の手の平の上で踊っていたんだ。
なろう作品をバカにしようと異世界スマホを見続けていくうちに我々はファンタジー小説の持つ数々の馬鹿馬鹿しさを目の当たりにすることになる。
主人公に都合よく配置されたクエスト、特別な能力、勝手に惚れてくるヒロイン。
それらのくだらなさを最もくだらないと思うテンポで投げつけられるうちにいつの間にかそれを快感とすら感じるようになった。
そうして11話を迎えた。
そこで我々が見たのは、くだらない物はやはりくだらなくてどうしようもないというむき出しの事実だ。
それと同時にフラッシュバックするのは、今まで見てきたハーレム物の物語構造が抱える主人公と視聴者にとっての都合の良さ、つまりはくだらなさだったのだ。
自分が今まで楽しんできたものはどこまでもくだらなくてどうしようもない娯楽だったのか?
では我々がくだらないと感じるか面白いと感じるかの違いは単なる先入観でしか無かったのではないか?
コーラと思ってコーヒーを飲めば人間の舌はそれを腐ったコーラだと感じてしまう。
果物の香料をかぎながら砂糖水を飲めばそれをフルーツジュースだと人は感じ取る。
それと同じだったのではないか、我々が今まで数々のファンタジー物に上げていた熱は全く持って中身のない先入観とその場の雰囲気だけだったのではないか?
そういう疑問が湧いてくる。
異世界スマホが暴いたのは我々が創作物に望むものの程度の低さだった。
一見程度の高いものを求めている用に見えて、実際は鼻の下を伸ばしてくだらないハーレムを望んでいる。
だがそれをそのまま出されてもプライドが邪魔をして受け付けないので、さも中身のある物語であるかのようにラッピングして欲しい。
そんなどこまでも浅ましい欲望が白日のもとに晒されてしまった。
なんということだ。
完全な詰みだ。
異世界スマホはファンタジー小説、いや、全ての娯楽作品の持つ生来の馬鹿馬鹿しさを、その馬鹿馬鹿しさを目一杯使い切って我々に叩きつけてきたのだ。
これはまるでThe video game with no nameの진실게임(チンシルケイム)のようではないか。
主人公が悪い奴を倒して欲しい。
だが、その倒し方はただの主人公補正であって欲しくはない。
だが、そこにはちゃんと理由があって欲しい。
だが、そこまでの過程はしっかりと納得できるように踏んで欲しい。
ああなんと浅ましい。
ポルノに対して倫理観を求める風俗説教親父が我々の心の中に住み着いている事を、もはやどう言い訳しても隠しきれないじゃないか。
なんて事をしてくれたんだ。
ああ畜生、完全な詰みだ。
1話の段階でかけられた王手をなんとか誤魔化し誤魔化して我々は11話まで引き伸ばしたがいよいよもってチェックメイトだ。
まるで将棋だな。