新装開店を機に売り上げを2倍にしたいというパン屋さんの要望に応え,実際の売り上げを何と2.5倍にまで増やした友人のコンサルがいます。私も興味があって,新装オープン3日後にお店に行き,パン屋のオヤジさんとも話してきました。コンサルタントの彼女が取った作戦とは「パン屋」を単なる「食パン屋」に変える驚異的なものでした。当然オヤジさんは不服でした。今流行りの,トレーに好みの惣菜パンを選ぶパン屋を止めろということですから。でも,この作戦は最後の手段だったようです。

 色々な種類の惣菜パンを朝(午前)一挙に焼いて,1日かけて売りさばく。それが,オヤジさんの今までのやり方でした。そこでまず,売れ行きを見ながら,少ない量に分けて何回も焼く方法に変えてみました。この方法だと,お客さんは焼きたての暖かく美味しいパンが食べられます。それで,売り上げ2倍は何とかなるだろうと。

 でも,オヤジさんは職人肌でも商売人でもなく,脱サラですから器用ではありません。色々な種類の惣菜パンを,あるレベル以上の品質で美味しく焼き上げるのは,かなり難しかったようです。つまりケーパビリティの問題です。売り上げを倍増するには,製造力も倍増せざるを得ません。それが,食パン単一作戦に転換した最大の理由だったようです。

食パンだけに一点集中,全精力を投入する

 彼女は半径200m以内を調査をしました。田舎ですから畑も多い。学校や会社は少なく,住居や新しいマンションが多い。そこで,主婦に狙いを決めました。近くには地域一番店のパン屋があります。そこは惣菜パン屋です。結論として,「食パンに一点集中,全精力を投入しておいしいパンを作る,それを地域ブランド化する!」が彼女の最大のテーマとなりました。

 手元に,食パン専門店として新装開店したときのチラシがあります。宣伝文句の一部を紹介します。


食パン専門店ということで,食パンにこだわりを持って…。まずはガブリと食べて下さい どうでしょう?今までのパンとはちょっと違う感じがありません?…(略)…特上パン,ホテルパン,食パン,フランスパン…

 材料となる粉やタマゴがいかに有名で,安心の一流素材であるか。それらを使って,いかに独特な製法で作られているかが分かりやすく書いてあります。読んだら食べたくなります。このチラシをお客様に手渡して,プレオープンです。プレオープンは安かったこともあり成功したようです。

 本番オープンは定価販売です。決して安い値決めではありません。手ごたえを感じたのは,来てくれたお客さんはプレオープンでも来てくれた客,つまりリピータが多かったからと。それと「美味しかった」との会話があったようです。アルバイトの店員教育も,相当細かく厳しい指導だったようです。店に入ってきたお客さんを明るく受け入れてくれる,心のこもった挨拶。

 私が行ったその日は,店には何と3~4人のお客様!小さな店ですから一杯です。ガラスの向こうに売り子さん。よく見るとコンサルタントの彼女です。来店して,すぐ試食用においてある3cm角のパンを食べたら美味しかったので,「美味しい!」と叫んでしまいました。その声に促され,おばさんは特上パンをレジに。食パンやフランスパンは既に売り切れです。私も残り少ない特上パンとホテルパンを買いました。

 でも,彼女に言わせると,確かにタマゴは農林水産大臣賞を受賞したものに変えたんだけど,後の材料は同じとか。いかに素材が素晴らしく,製法がよいのか具体的にお客様へ伝えることの大事さを感じました。お客様はお店のブランドを特別なものと感じています。来店中のおばさんたちの会話を聞いていたら,間違いなく口コミをしてくれると確信しました。コンサルの彼女は1日の売り上げが※万円で1カ月の営業日が25日,1カ月の売り上げが計※万円は今のシュチュエーションで可能だと言っています。これだと,一挙に売り上げ5倍です!

 しかし,最大の問題は供給力です。品切れは大きな問題です。機会損失と顧客不満です。私がオヤジさんに聞きました。何時に起きましたと。オヤジさんは午前5時と答えました。その答えを聞いた彼女は引っくり返りそうになりました。「3時には起きて仕込んで下さいネ」と言ってあったようです。繁盛する第一歩は,決めたことを継続的かつ真面目に,手を抜かずに遵守すること。簡単なようで簡単ではありません。