DX、働き方改革の実現で欠かせないのがペーパーレスだ。しかし、日本の商習慣や企業文化から、これまで後ろ向きの企業も多かったと言える。しかし、ここにきて風向きが大きく変わってきた。大きな要因となっているのは、コロナ禍における在宅勤務体験だ。紙の帳票が柔軟で多様な働き方のボトルネックとなることが浮彫りとなった。DX時代のビジネスは、電子取引が主流となるのは不可逆だ。
この追い風を情報戦略にいかに取り込むか。ペーパーレスを一気に進めるためには、帳票出力、帳票保管、配信基盤を個別最適ではなく、全体最適の観点で導入することが重要なポイントとなる。パフォーマンス・ケミカルス(機能化学品)分野を牽引する、三洋化成工業(以下、三洋化成)は、ホストコンピュータからSAP S/4 HANAへの移行をきっかけに、帳票出力基盤に生産性と保守性を評価し、ウイングアーク1st(以下、ウイングアーク)の総合帳票基盤「SVF」を導入。合わせて、invoiceAgent 文書管理、invoiceAgent 電子取引を導入し、ウイングアーク製品でシームレスな連携を実現した。
三洋化成は、2023年4月に新システムが本稼働後、同年10月の実績で帳票全体(出荷関係等の帳票を除く)の75%を電子化。取引先との電子取引を拡大し1カ月で2万通以上の帳票を配信。ペーパーレス化成功に向けた軌跡とポイントについて、プロジェクトを牽引したキーマンに聞いた。
コロナ禍で在宅勤務が広がる中、「紙の帳票で業務を行わなければならない」という出社理由が話題となった。これまで地球環境保護やコスト削減、データ活用などの観点から重視されたペーパーレスだが、コロナ禍をきっかけに多様な働き方を実現する側面が強まった。パフォーマンス・ケミカルス(機能化学品)分野を牽引する、三洋化成も働き方改革を実現するうえでペーパーレス化を重要な要素として位置付けている。
前身となる「多田石鹸油脂製造所」の1907年創業から110余年の歴史を有する三洋化成。同社の製品は、化粧品、洗剤などの日用品から最先端の電子部材、先進的な医薬品原料、医療機器まで社会の隅々に広がっている。「化学のちから」で挑戦を続けることで、化学の枠を超えたイノベーションを起こしていく。2022年3月に策定した経営方針「WakuWaku Explosion 2030」の中で、2030年のありたい姿として「全従業員が誇りをもち働きがいを感じる グローバルでユニークな高収益企業に成長する」を掲げた。スローガン「全部署がプロフィットセンター」のもと、従業員1人ひとりが主役として輝き、達成感が味わえる企業を目指す。
2030年のありたい姿を実現するためには、従業員1人ひとりが主役として輝くことが求められる
「2030年のありたい姿の実現に向けて柔軟で多様な働き方を整備・推進しています」と三洋化成 事務本部 IT推進部 部長 長村芳樹氏は話し、こう続ける。「2021年4月、ホストコンピュータの保守切れに伴い、基幹システム刷新に向けてSAPの次世代ERP『SAP S/4 HANA』への移行プロジェクトをスタートさせました。プロジェクトの大きな目的の一つが、柔軟で多様な働き方の実現でした。従来、ホストコンピュータで出力した紙の帳票で業務をまわしていました。いかにスピード感を持ってペーパーレスを進めていくか。帳票出力基盤を中心とする仕組みの構築が鍵となりました」
2021年1月、三洋化成はプロジェクトの準備段階でペーパーレス実現に向けて帳票出力基盤の選定に入った。「実は、二者択一でした」と三洋化成 事務本部 IT推進部 主任部員 臼井文氏は打ち明ける。「SAP S/4 HANAの機能を使うか。外部製品を使うか。外部製品は、生産性と保守性の観点からウイングアークの総合帳票基盤『SVF』の一択でした。プロジェクトを支援してもらったNTTデータ グローバル ソリューションズと一緒に検討を重ねました」
選定ポイントについて臼井氏は説明する。「帳票出力は、制度変更や社内ニーズによって改修が必要です。ホストコンピュータによる帳票開発では、生産性が課題となっていました。その解消は、選定において重要なテーマでした。SAP S/4 HANAの機能では、少しの改修にも手間と時間を要したことから、生産性の観点ではSVFのほうが優れていると判断しました」
SVFは、日本固有の請求書や公的証明書といった複雑な帳票フォームを専用のGUIで簡単に設計できる。使いやすさは、帳票出力基盤の国内シェアNo.1※(66.8%)という実績で実証済みだ。「国内シェアはもとより、今回はSAP S/4 HANAとSVFとの連携に関して国内企業で豊富な実績があることも採用のポイントとなりました」
※パッケージ版とクラウド版の合計値(2023年2月末)
プロジェクトは、帳票出力基盤にSVFの採用を決定後、帳票に関わる周辺システムの検討に移った。ペーパーレス実現に必要な仕組みをいかに構築するか。三洋化成が重視したのが連携性と一貫性だった。「電子帳票の保管では複数製品を検討したのですが、SVFとの連携が容易であることからinvoiceAgent 文書管理を採用しました。また、ペーパーレス化を進めていくうえで、取引先様への帳票配信は重要な課題です。配信基盤も検討を重ねた結果、invoiceAgent 電子取引を採用。帳票出力から保管、配信まで電子帳票のライフサイクルを、一貫性をもってまわすためにウイングアーク製品で統一することにしました」
帳票出力基盤を機軸とした仕組みは、SVFで帳票を出力、それをinvoiceAgent 文書管理で格納し、invoiceAgent 電子取引に自動連携される。「他社製品の組み合わせでは、システム間を連携するインターフェースの開発が必要です。また、トラブル発生時における問題の切り分けも複雑化します。ウイングアーク製品で統一することで、追加開発することなくシームレスな連携を実現。さらに、帳票は業務プロセスや商取引に欠かせないため、ワンストップサポートにより業務継続性の向上が図れる点も重視しました」(臼井氏)
SVFの開発は2021年10月にスタートし2022年6月に終了、同年12月まで帳票出力テストなどを実施した。invoiceAgent 文書管理もSVFの開発と合わせてフォルダー構成やセキュリティの考え方などを決定。invoiceAgent 電子取引は、運用ノウハウを蓄積するため請求書配信だけ先行して開始した。
ウイングアーク製品で統一し帳票出力基盤を機軸に帳票保管、配信基盤をシームレスに連携
2023年3月にホストコンピュータからSAP S/4 HANAへの移行が完了。同年4月、三洋化成とグループ会社5社が新しい基幹システムで業務をスタートさせた。帳票出力基盤を機軸とする保管、配信のシームレスな連携により、ペーパーレス化が大きく前進したという。
「2023年10月の実績で帳票全体(出荷関係等の帳票を除く)の75%を電子化。柔軟で多様な働き方を妨げる、紙の帳票によるボトルネックを改善できました。また、取引先様への帳票の送付では1カ月で2万通以上の帳票をFAX送信や紙で印刷して郵送していましたが、PDFファイルの配信に変更したことで取引先様の効率化にも貢献していると思います」(長村氏)
電子取引の拡大では、取引先に帳票配信の同意を取り付ける必要がある。「1万に及ぶ取引先に対して当社の担当者が帳票配信のご案内を行い、半数以上はご承諾いただきました。今後、電子取引を拡大していくうえで、invoiceAgent 電子取引による取引先様の利便性向上もポイントになると考えています」(臼井氏)
電子帳票の保管・管理でも導入効果があったと臼井氏は付け加える。「invoiceAgent 文書管理により検索性が向上し、取引先からの問い合わせに対して帳票確認の迅速化を実現。さらに文書のライフサイクル管理も適切かつ効率的に行えるようになりました」
今後について長村氏は話す。「ペーパーレス化がここまで進んだのは、従業員の協力があってこそだと思っています。今後、ペーパーレスをさらに推進していく仕組みを構築できたことは、今回のプロジェクトにおける大きな成果だと考えています。ウイングアークには、安定稼働の支援はもとより機能拡張や積極的な提案を期待しています」
三洋化成は、帳票基盤だけでなくSAP S/4HANAと連携するデータ活用基盤にウイングアークの「BIダッシュボードMotionBoardとデータ分析基盤Dr.Sum」を導入。企業を通じてよりよい社会の建設を目指す三洋化成。ウイングアーク製品による基盤上で同社の従業員1人ひとりのかがやきが増していく。