今回の33社の取材のなかには、「クライアントソフトやサーバーソフトをバージョンアップしない」という基本方針を貫く企業も5社あった。日本精工や住友電気工業、ツムラ、大阪ガス、サイバーエージェントである。体制や仕組みを整備し、ソフトベンダーの保守サポート期間に振り回されず、同じバージョンを長期にわたって使い続けている。
シンクライアント化で移行を回避
日本精工は、仮想化技術とシンクライアントを使い、クライアントソフトのバージョンアップを回避している。「ソフトのバージョンアップや改修作業、パソコンの入れ替えなどにかかるコストを抑えるためだ」。日本精工の情報システム子会社であるNSKネットアンドシステムの柳沢俊明ネットワークソリューション部ITアーキテクトは、シンクライアント導入の狙いを語る。
同社は、マイクロソフトのアプリケーション仮想化ソフト「Microsoft Application Virtualization for Terminal Services(App-V for TS)」を、2008年11月の出荷直後から検証を始め、2009年7月に利用を開始した。
App-V for TSは、古いバージョンのオフィスソフトや業務アプリケーションを仮想化。Windows Server 2003のリモートデスクトップ機能「Windows Terminal Services(WTS)」でシンクライアントシステムを構築し、App-V for TSで仮想化したアプリケーションを必要に応じてWTSサーバー上で利用できる仕組みだ(図A)。
WTSサーバー上で、オフィスソフトの「Office 2003」やWebブラウザーの「Internet Explorer 6」などあらかじめ定めた標準ソフトを利用している。さらに、標準ソフトから外したOffice 2003より前のバージョンのOfficeや、Web化していない業務アプリケーションを、App-VのサーバーからWTSのサーバーに配信する。
シンクライアント化を実現した手順はこうだ。リース期限の切れたパソコンを順次、シンクライアント端末にしている。シンクライアント端末には、Linux OSとリモートデスクトップ操作用モジュールをインストールし、それ以外のソフトやデータは載せない。「パソコンのリース期限が切れた後は、再度リース契約すれば安く入手できる。その後は、パソコンが壊れるまで使い続ける」(柳沢氏)。
日本精工はグループ会社7000台のパソコンを対象にシンクライアント化を推進。2012年までに完了する計画だ。
Windows XPからWindows 7にバージョンアップするホンダアクセス。同社は日本精工と同様、App-Vサーバーからパソコンで利用するアプリケーションすべてを配信する仕組みを構築する。OSについては最新版に移行するものの、オフィスソフトなどは古いバージョンと新版の両方を、利用者の要求に応じて使えるようにするためである。