「オープンソースが成し遂げたものづくりやコミュニティのような,小さくても確実な幸福感が得られるような場所が,よりよく生きたいと思っている人たちの数だけ,ネットの上にできたらいいな」(梅田氏)。「僕が追求するのはオープンソースであるかどうかよりも,個々の技術者が幸せかどうかなんです」(まつもと氏)――梅田望夫氏とまつもとゆきひろ氏の対談,後編は新しい時代の新しい幸福とそれを実現する生き方へと話が及ぶ。
ネットの上の「小さくとも確実な幸福感が得られる場所」
梅田 まつもとさんにとっての「幸せ」って何ですか。
まつもと ご飯が食べられる範囲で,好きなことを日がな一日やっていられれば幸せですね(笑)。
梅田 「ご飯が食べられる」の定義もいろいろありますよね。今日飯を食えればいいとか,蓄えがないといけないとか。
まつもと 蓄えはあったほうがいいですね。生活に不安がない程度に。
梅田 若い人たちと話すと,こんな豊かな国で,不安だ不安だというんですよね。「生活に不安がない」と言うときの定義もいろいろで,一生食っていけるだけの蓄えがないと不安だとか,未来もずっと見通せてないと不安だとか贅沢なことを言い続けるのであれば,永遠に幸福は訪れない。
まつもとさんがおっしゃる「不安がない」というのは。
まつもと 僕が事故で入院しても,とうぶんは子供が「おなかすいたよお」って泣かないですむことですね。数カ月分の貯金があれば。
梅田 オープンソースで成功しているリーダーの人たちって,そういう「幸せがぶれない」という共通点があるのかな。
まつもと 確かにLinusが「お金持ちになりたい」って言うのは聞いたことがないですね。
梅田 僕は,そういうオープンソースのリーダーたちの価値観,「お金より,やりたいことをやることが大切」というぶれない価値観の持ち主がすごく大きなことを成し遂げだした,そのことを勝手に拡大解釈してみたいっていう気持ちがあるんですよ。それがこの本(「ウェブ時代をゆく」[ちくま新書])を書くモチベーションの一つになりました。
そのことをこれからの世界における先駆者的象徴と見たい。そういったことがオープンソース以外の違う分野にもこれから起きていくんじゃないか。ソフトウエアをみんなで開発するというのと同じように,違うタイプのものづくりであったり,あるいは作らなくても,たまり場みたいなコミュニティ,師と弟子が出会う学校のような場所だとか,小さくても確実な幸福感が得られるような場所が,よりよく生きたいと思っている人たちの数だけ,ネットの上にできたらいいなと。「小確幸」(小さくても確実な幸せ)っていうのは村上春樹さんの言葉なんだけど,僕はそんなことが実現できるネット上の世界を夢想します。
そうしてそれが社会的貢献度の高い,意味のあるコミュニティになったら,まつもとさんのような「飯の食い方」ができるような人が増えてくるんじゃないか。そういう未来っていうのを思いたい,っていう気持ちが強いんですね。