日本のコンピューター史に、また1つピリオドが増える。富士通がメインフレームとUNIXサーバーの事業からの撤退を決めた。事業を始めて60数年。国内市場の縮小にクラウドの台頭、デジタル変革への対応と、激変した事業環境を前にした決断だ。同社はクラウド事業に経営資源を集中する方針だが、行く手は険しい。ユーザー企業は既存システムの切り替えや移行の決断を迫られる。
「あの時の我々の選択は間違っていなかったということだ」。大手金融機関の幹部はこう言って、安堵の表情を浮かべる。2010年ごろ、中核システムの動作基盤として富士通のメインフレームが選択肢の1つに浮上したが、結果的に見送った。もし富士通のメインフレームを選択していたら、どう「脱却」するかという難題を抱え込んでいただろう。
「移行は大がかりなプロジェクトで荷が重い」
2022年2月、富士通がメインフレームとUNIXサーバーの製造・販売から撤退すると伝わると、たちまちSNS(交流サイト)上で話題となった。一時代を築いたコンピューターの歴史が幕を閉じることを惜しむ声がある一方、両製品のユーザーを心配する声も多く上がった。
なぜなら富士通は両製品のハードやOSに強く結びついた開発・運用ソフトを数多く提供しているからだ。それらを使うユーザーにとってクラウドを含めたオープン基盤への移行は容易ではない。
あるユーザーは「富士通製メインフレームを前提にシステムをつくり上げてしまっており、移行はかなり大がかりなプロジェクトになる。今から荷が重い」と打ち明ける。移行に伴うコスト負担やシステム障害リスクが大きい割に、メリットは少ない。
富士通は2030年度末にメインフレームの製造・販売から撤退し、それから5年後の2035年度末で保守も終える。UNIXサーバーについては、2029年度下期に製造・販売を終え、2034年度中に保守からも手を引く。
「まだまだ時間はある。保守終了は10年以上も先じゃないか」と思うのは早計である。特にメインフレームからの脱却は一大プロジェクトとなり、数年がかりとなることはざらだ。
プロジェクトが遅延することも珍しくなく、保守切れ前に刷新を完了させるとなると時間的な余裕はさほどない。富士通のメインフレームは現在、中小型機を含めて約800システムが稼働しているとされ、撤退のインパクトは大きい。
パナソニックはモダナイゼーションを検討
実際に富士通製メインフレームのユーザーはどう動くのか。撤退報道が覚めやらぬなか、日経クロステックは緊急取材した。
ユーザーの1社がパナソニックだ。メールに回答する形で取材に応じた。同社は現在、富士通製メインフレーム「GS21」を使っている。撤退を受け、「対象システムやシステム資産を整理したうえで、中長期の事業戦略と合わせてモダナイゼーション(近代化)を検討する」(広報)という。具体的な移行計画については回答を控えた。
パナソニックは2021年に「パナソニックトランスフォーメーション(PX)」と呼ぶデジタル変革プロジェクトを立ち上げており、その重点施策の1つに「レガシーシステムのモダナイゼーション」を掲げている。同プロジェクトの中に富士通製メインフレームからの脱却が含まれている可能性は高い。
企業/事業者(システム) | 今後の対応方針など |
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大手製造業 | 2010年代後半から基幹システムに富士通製メインフレーム「GS21」を利用。クラウドへの移行を計画中 |
川崎市 | 住民基本台帳などの住民向けサービスを提供するシステムに富士通製メインフレームを利用。現在は段階的にオープン化を進めており、2022年度中に全てのシステムで移行が完了する予定 |
群馬銀行 | 富士通製メインフレームを利用。「2022年1月に勘定系システムの更改を終えたばかりであり、対応については今後、検討していく」(広報)。次回のシステム更改のタイミングである2029年が焦点 |
しんきん共同センター | 2026年に勘定系システムの動作基盤を富士通製メインフレームからオープン基盤に切り替える計画。オープン基盤への移行に当たって、NTTデータのフレームワークである「PITON」を使う |
全国銀行資金決済ネットワーク(全銀システム) | 富士通製メインフレーム「GS21」を利用しているとみられる。第8次全銀システムの稼働は2027年11月で、オープン基盤への移行を含めて今後検討を本格化する |
横浜銀行、北陸銀行、北海道銀行、七十七銀行、東日本銀行(MEJAR) | 2024年1月に富士通製メインフレームからオープン基盤に移行予定。オープン基盤への移行に当たって、NTTデータのフレームワーク「PITON」を使う |
パナソニック | 富士通製メインフレーム「GS21」を利用。対象システムやシステム資産を整理したうえで、中長期の事業戦略と合わせてモダナイゼーション(近代化)を検討する方針 |