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 「要するに二重に信用できないところがあって、それを認証と言われてもなぁという話ですよね」とバッサリ斬ったのは、国際標準化団体である米OpenID Foundationの理事長を2011年から務める崎村夏彦氏である。

「OpenIDファウンデーション・ジャパン特別パネル」の登壇者、左上が崎村夏彦氏
「OpenIDファウンデーション・ジャパン特別パネル」の登壇者、左上が崎村夏彦氏
上段左が米OpenID Foundation理事長の崎村氏、右はOpenIDファウンデーション・ジャパン(OIDF-J)エバンジェリストの伊東諒氏(ミクシィのID/決済関連業務を担当)。下段左から同代表理事兼KYC WGリーダーの富士榮尚寛氏(伊藤忠テクノソリューションズのIDを含む事業開発部門の責任者)、同事務局長兼エバンジェリストの真武信和氏(YAuth.jp代表)、同理事兼エバンジェリスト倉林雅氏(ヤフーID部門所属)
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 オンライン開催の「日経クロステック EXPO 2021」で2021年10月15日に配信したパネルディスカッション 「DX経営成功の鍵『デジタルアイデンティティー』とは何か~OpenIDファウンデーション・ジャパン特別パネル」での1コマだ。2021年7月20日発行の崎村氏の最新著書『デジタルアイデンティティー 経営者が知らないサイバービジネスの核心』の出版記念イベントとして、崎村氏の講演と、OpenIDファウンデーション・ジャパン(OIDF-J)のメンバーを加えたパネルディスカッションの2部形式で開催された。

スマホ顔認証で住民票発行は何がマズかったか?

 冒頭の崎村氏の発言は、渋谷区が2020年4月に導入したものの、総務省が待ったを掛け、21年9月の省令改正で利用できなくなった「eKYC(electronic Know Your Customer)」を使った住民票交付方式に関する議論で飛び出した。この問題は総務省による省令改正で事実上マイナンバーカードの利用を強制する形になったことから、利用者の利便性や自治体の創意工夫に、国が制限をかけることの是非、イノベーションの阻害などまで発展してネットでの議論が白熱した。

 崎村氏らパネリストはまずこうした見方を否定し、混乱の原因が、あるサービスに自分のアカウントを登録する際に行う「身元確認」と、既にあるレコードを読み出す際に申請者が本当に本人かどうかを確認する「認証」が、混同して運用されている点にあると整理した。「免許証と顔写真を比べる手法を全部ひとくくりにeKYCと呼んでしまっている」(パネリストのOIDF-J事務局長・エバンジェリストの真武信和氏)

 窓口に来た本人の顔と、持参した免許証に記載された顔写真を比較して、その人が免許証の持ち主であると確認するのは「身元確認」である。住民票を最初に作るときや、銀行に口座を開設する際などにこうした身元確認は広く行われている。本人の顔を見て免許証の持ち主だと確認し、免許証に記載された確からしいと思われる属性情報をサービスのレコードに登録する。