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 「これまでの取り組みの総和だ」。三井住友銀行(SMBC)の増田正治取締役専務執行役員は次期勘定系システムをこう表現する。プログラム資産を検証したうえで、ここ10年あまりに打ってきたIT面の布石を生かしているのが特徴だ。

 同システム構築の投資額は500億円。年間に1000億円規模をIT関連に投じるとされるメガバンクにあっては決して多くはない。みずほ銀行が構築した新システム「MINORI」の開発額は4000億円台半ば、三菱UFJ銀行が勘定系を統合した際の費用は3300億円だ。

 「わずか500億円」で済ませられるのはなぜか。最大の理由はプログラム資産にほぼ手を付けず、ハードウエアの更改とアーキテクチャーの見直しを主体にするからだ。三井住友銀は勘定系の刷新に当たり、プログラム資産の作り直しを含めた全面刷新も検討した。可視化ツールを使ってソースコードを調べ、第三者にも評価してもらったという。

 その結果、プログラムの肥大度や複雑さ、主要プログラムの稼働率などの評価指標はいずれも良好。プログラム資産はブラックボックスになっておらず「コントロール可能な範囲にある」(三井住友銀の西孝芳システム統括部部長)と結論づけた。仮に全面刷新を選んでいたら数千億円かかると見積もる。

 次期勘定系システムを安価に構築できるのには、もう1つ理由がある。現行システムからの移行を見越して開発してきた「検証済み技術」を活用し、開発費を抑えているのだ。「これまで打ってきた布石を生かす」。西部長はこう説明する。同社は現行の勘定系システムを「第4次オンライン」と呼ぶ。SOA(サービス指向アーキテクチャー)の全面採用やバッチ処理のオンライン化など、先進的な仕組みを盛り込んだシステムを構築したとの自負からだ。

オープン化の実証実験の成果を生かす

 今回の次期勘定系システム構築に生かす布石。その1つが勘定元帳データベースをリアルタイムにミラーリングする機能の開発に使う基盤技術だ。同社はメインフレーム向けに開発した災害対策用のデータ同期技術を応用する。

勘定元帳データベースのリアルタイムミラーリング機能に使う基盤技術の概要
勘定元帳データベースのリアルタイムミラーリング機能に使う基盤技術の概要
(出所:三井住友銀行の資料を基に日経クロステック作成)
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 同技術はもともと1994年に稼働させた現行勘定系のもの。データ同期用ミドルウエアで、本番系のデータ更新を災害対策用の待機系へリアルタイムに反映する。