デッド・カン・ダンス「トゥワード・ザ・ウィズイン」
Dead Can Dance 「Toward The Within」
豪州出身のバンド、デッド・カン・ダンスのダークな音楽は、一種の儀式だ。ボーカルのリサ・ジェラルドの呪文のような詠唱が妖しさ満点。
よく並び称される英国のバンド、コクトーツインズのエリザベス・フレイザーの歌声が「天使」とすれば、リサは「巫女」か。
持ち味が堪能できるのは1994年のライブ盤「トゥワード・ザ・ウィズイン」。
名曲「キャンタラ」は、スタジオ録音のオリジナル(1987年のアルバム「暮れゆく太陽の王国で」に収録)より、こちらが断然お勧めだ。リサの気合が格段に違う。
この曲は、もの悲しいメロディーで始まり中盤、野性的な太鼓が入ってから盛り上がる。「ツーニーダーリーノー、ダーリーノー、レイヒーロエ…」と呪文を詠唱するリサは甲高い声。詠唱の内容がオリジナルとは少し違い、即興かと思わせる。
終盤はリサの神懸かり具合がすごい。天岩戸の前で踊った日本神話の女神アメノウズメは、おそらく、こんな感じで歌ってもいたのではないかと想像が膨らむ。
名曲「ユルンガ」も、もちろん、ある。
マラカスのシャカシャカ音に続き、中東風のメロディーや野性的な太鼓に乗って「ヘイヘイヘイヘイ、ヘイヘイヘイヘーヤ、ヘヘヘヘヘーヤヘーヤ…」と詠唱が繰り広げられる。怪鳥の鳴き声(?)も交じり、密林の奥地での秘儀が目に浮かびそう。
この曲は、詠唱の内容が少し違うくらいで、オリジナル(1993年のアルバム「イントゥ・ザ・ラビリンス」に収録)と大差はないかもしれない。
それまでのアルバムに収録されていない曲がいくつかあるのも、うれしい。
「ラキム」は、リサが奏でる中国の打弦楽器・揚琴がよく味わえる。ピアノと琴の中間みたいな音色だ。この曲では、リサの相方のブレンダン・ペリーが歌う。
「ペルシアン・ラブソング」は、楽器はなく、リサのうなり声のような歌だけ。
カナダのバンド、デレリアムは、この曲のリサの歌声をサンプリングして「フォーガットン・ワールド」という曲を作った。ポップで聴きやすく良い曲に仕上げているのだけども、その魅力はリサの歌声によるところが大きいのだと、あらためて気づかされる。
余談だが、、、
打弦楽器は、弦をたたいて鳴らす楽器。ピアノの先祖みたいなものだ。
揚琴は見たことがないが、ハンガリーの打弦楽器ツィンバロンは見たことがある。棒に綿を巻いたばちで、弦をたたいて鳴らす。
フランスのバンド、ディープ・フォレストの「カフェ・ヨーロッパ」(1995年のアルバム「ボエム」に収録)で、ツィンバロンの音色が聴ける。
あと、映画「奇跡のシンフォニー」(2007年、米国)では、音楽の天才少年である主人公が、ギターの弦を手でたたいて鳴らしていたシーンがあるのを思い出した。