モンスターへの思いとは――。WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ(13日、東京・大田区総合体育館)で王者の井岡一翔(33=志成)が同級1位のドニー・ニエテス(40=フィリピン)に3―0の判定勝ち。井岡らしい完璧なボクシングで5度目の防衛を果たした。その一方で、試合前に世界バンタム級3団体統一王者・井上尚弥(29=大橋)による発言を伝えると、普段は表に出さないプライドをむき出しに…。4階級制覇王者の激白をお届けする。

 まさに井岡の真骨頂だった。序盤からガードを固めてジャブでペースをつかみ、4ラウンド(R)で初めて左フックをヒット。中盤から徐々にギアを上げ、ニエテスの両目の上をカットさせた。ボディー、右ストレートを織り交ぜる完璧な組み立てで圧勝。前回対戦(2018年大みそか)で喫した判定負けのリベンジを果たし、「KO勝ちを皆さんにお見せしたかったですけど」と言いつつも「完封して明確に勝てて良かったです」と胸を張った。

 自身のボクシングについては「自分のベースが完成されつつある」「もっと強くなれると思う」と自信を深めた様子。報道陣から井上とのボクシングスタイルの違いを指摘されると「人それぞれスタイルがある」と語るにとどめたが、実は試合前に〝モンスター〟に関する思いを激白していた。

 井上が井岡との対戦をほのめかしたのは、今年1月。あくまで井岡がバンタム級に階級を上げる条件での〝提案〟だったが、実はその直後に井岡のボクシングスタイルについても言及していた。昨年大みそかに行われた井岡のV4戦(福永亮次に判定勝ち)を見た井上は「僕とはボクシングに向き合う気持ちが違うというのが率直な印象です」と語っていたのだ。

 KO決着にこだわる井上にとって、そのリスクを負わず愚直に勝負に徹する井岡とは相容れない――。そんなボクシング観の違いを表す言葉だった。今回のV5戦の1週間前、この〝モンスター発言〟を井岡に伝えると「全然、知りませんでした」。そして、普段は穏やかな口調が、にわかに熱を帯び始めた。

「ボクシングが好きな人がどう自分を評価するかは勝手ですけど、発信力のある人が発信できる場で、誰かをどうこう言うことではないと僕は思っている。だから僕は今、この場で彼(井上)のことをどうこう言わない。ただ一つ言えるのは、僕のことを彼に評価されたくない。僕のボクシングを彼にどうこう言われる筋合いはないっていうのが率直な意見ですね」

 井岡は自分のボクシングスタイルに譲れぬプライドがある。かつて死闘を演じた元3階級制覇王者の八重樫東氏が「手堅くミスをしない完璧主義。井上尚弥がいて、彼のようなタイプもいるからボクシングは面白い」と話すように、モンスターとは別世界で高みを目指している。その一方で、周囲からは常に井上と比較されてきた。その本音とはどんなものなのか。

「変な意味ではなく、ホントに彼に興味がないんです。まあ格闘技ならではの話題だとは思いますが、例えば野球でいうと大谷(翔平)君とマエケン(前田健太)はどっちがうまいか? そういう比較って意味がないですよね。彼(井上)は彼でやるべきことをやっていて、そこはリスペクトしているし素晴らしいと思いますけど、僕が目指している先に彼の存在は全くないので」

 ボクサーとして井上に敬意を示しているが、評価はしないし、されたくもない。あくまで別路線で戦っていると主張した。夢の対戦についても「現時点で階級が一緒でもないし、現実味のないことを掘り下げて表面的にメディアに流してもファンはガッカリするだけ」と改めて否定した。

 日本ボクシング界の「最高傑作」と言われる井上と比較されるのは、同時代に生きるボクサーの宿命。それでも、井岡はモンスターに気後れせず、迎合もしない。これからも我が道を突き進むだけだ。