25日に大腸がんで死去した女優の島田陽子さん(享年69)を本紙で「剛の高倉健 柔の鶴田浩二」連載中の作家・大下英治氏が今年2月に取材していた。〝最後のインタビュー〟で、恋多き女だった島田さんは萩原健一さんや内田裕也さんとの思い出を語っていた。
島田陽子さんは、ショーケンの愛称で親しまれた萩原健一とも共演している。
昭和62年に公開された山下耕作監督の「竜馬を斬った男」では、萩原が主演の佐々木只三郎役を演じ、島田さんは只三郎が惚れこむ芸者の小栄役を演じている。
島田さんが「竜馬を斬った男」について語る。
「あのときは、幕末の芸者の役でしたが、当時の芸者の着物の着方から所作、かつら、まげ、化粧、それから京都弁まで当時の様子を再現していました。山下耕作監督はわたしも好きな監督で、『今、幕末の時代の芸者を見るなら、竜馬を斬った男の島田陽子を見てください』と胸を張って言えるぐらい完璧にできたんじゃないか、という作品です」
島田さんが撮影の合間でのショーケンとの秘話を明らかにする。
「『竜馬が斬った男』はアメリカで撮った『将軍 SHOGUN』の後でしたから、撮影の合間にショーケンが冗談で『陽子ちゃん、何人のトウモロコシ食べたの?』って下品なジョークを言ってきたことがありました。金髪のことなんですよね。わたしは『トウモロコシなんか、ひとつも食べていません』って言い返しましたよ」
島田さんはそれ以前から、ショーケンとは友達付き合いがあり、ショーケンの恋人だった桃井かおりや、のち東映の会長となる岡田裕介などとよく食事をしていたという。
岡田とは、島田さんの映画デビュー作である昭和47年公開の森谷司郎監督の「初めての愛」で共演したこともあり、それ以来、親交があった。
「4人で青山で食事をした時に、急にかおりちゃんとショーケンが先に帰ると言い出した時があったんですが、次の日に話を聞いたら、『青山墓地にアベックをのぞきに行ってきた』なんて言ってました。そういう茶目っ気がショーケンにはありました」
島田さんがショーケンの演技について語る。
「やっぱり、ショーケンは自分のキャラクターと役柄をちょっと引きつける人なんですね。だから、佐々木只三郎になりきっているけれど、やはりショーケンなんです。あの当時の映画界は一番幸せな時代だったかもしれません。松田優作もショーケンもめちゃくちゃなところがあったけれど、それがかわいく、魅力的でしたね」
島田さんは、松田優作とも親交があった。
松田優作の遺作となった平成元年に公開された「ブラック・レイン」では、島田さんはよく撮影スタジオに足を運んでいたという。
「当時、わたしは内田裕也さんと付き合っていたので、よくスタジオに行きました。わたしがセットにいたら、優作さんがわたしのところに来て、『陽子さん、業ですね。修業の業ですよ』と言われたこともありました。優作さんから見ると、内田裕也さんと付き合っていること自体、わたしが何か修業させられているように見えたんじゃないでしょうか。でも、みなさん、わたしが内田さんに強引に何かやらされているように思っているようですけど、不思議なことに内田さんにはそういう一面はまったくありませんでした。わたしから見ると、実に純粋な方でした」
島田さんには、観音様のような包容力があり、それが魅力でもあったのだろう。