日経サイエンス  2018年12月号

詳報:ノーベル物理学賞・化学賞

レーザー光で物体を操作し観察する/タンパク質を試験管内で進化させる

古田彩(編集部)

2018年のノーベル物理学賞,化学賞は,研究に広く使われるようになった新たな実験技術のパイオニアらに贈られることが決まった。

 

物理学賞は,レーザー光で物体を操作・加工・観察する革新技術を開発した3氏が受賞する。2分の1を,光を使って分子1個をつまんで運ぶ「光ピンセット」を発明し,細胞内の微小器官に働く力などの測定を可能にした米ベル研究所のアシュキン(Arthur Ashkin)氏に。もう2分の1を,超短パルスレーザーを高強度にする簡便な手法を開発し,高速現象を観察するフェムト秒レーザーを机に載るほどの大きさに小型化した仏エコール・ポリテクニクのムルー(Gérard Mourou)氏とカナダ・ウォータールー大学のストリックランド(Donna Strickland)氏に贈る。

 

化学賞は,遺伝子のランダムな変異と自然選択という生物進化のプロセスをタンパク質に模倣させ,より高機能に作り変える進化分子工学の草分けとなる3氏が受賞する。2分の1を水中で働くタンパク質分解酵素を有機溶媒中で働くように進化させ,この手法の有用性を実証した米カリフォルニア工科大学のアーノルド(Frances H. Arnold)氏に。もう2分の1を,1億〜1000億個の遺伝子の中から目的のタンパク質を作るものを効率よく選び出す「ファージディスプレイ」という手法を開発したスミス(George P. Smith)氏と,この手法を用いて自己免疫疾患の原因となるタンパク質に結合する抗体を作り,新薬開発につなげたウィンター(Gregory P. Winter)氏に贈る。

 

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