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シリーズ監督論「教え、教えられ」 ENEOS・宮澤健太郎さん 社会人野球NOW vol.47

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 今季を締めくくる日本選手権が閉幕し、各チームとも来季に向けて動き出しています。1950年創部、都市対抗野球大会で最多の優勝12回を誇るENEOSは、名将・大久保秀昭監督(55)が今季限りで退任してチームディレクターとなり、宮澤健太郎ヘッドコーチ(44)が12月1日付で新監督に就任する新体制を発表しました。社会人野球の指導者を巡るシリーズ監督論「教え、教えられ」。名門を率いることになった宮澤新監督を川崎市のクラブハウスに訪ねて、抱負をうかがいました。【聞き手 毎日新聞社野球委員会・藤野智成】

  

=監督就任の抱負を語る宮澤さん

名門の新指揮官「我々は勝たなくてはならない」

 ――監督就任、どんな心境ですか。

 ◆宮澤監督 重責ある立場であり、すごいプレッシャーを感じています。当然、都市対抗野球大会での優勝が求められるチームです。当初は、本当に自分がふさわしいか、という葛藤もありましたが、今は、任された以上やるしかない、と覚悟を決めています。

 ――どんなチーム作りを目指しますか。

 ◆やはり勝たなきゃいけない、勝つことが使命のチームだと思っています。選手として2003年に入社して、04年から当時創部以来初めてとなる3年連続で予選敗退し、都市対抗出場を逃すという苦しい時期を経験しました。私が13年秋に現役引退し、社業に専念していた1619年には4年連続で予選敗退する低迷期がありました。チームの中や、会社の中で、その苦しい時期を経て思うのは、やはり我々は勝たなくてはならない、ということです。社の一体感醸成、地域貢献、いろいろな使命がありますが、やはり勝つということ、そこを逃げずに求めていきたいと思います。

  ――大久保さんは0614年、2024年の通算14シーズン率い、チームを再建し、08121322年と監督歴代最多となる4度の優勝に導かれました。宮澤さんは現役時代に主将として、また今季はヘッドコーチとして、大久保さんのもとで戦われました。大久保さんはどんな存在ですか。

 ◆勝ちへのこだわり、執着心が非常に強く、そこに至るまでの準備、リスク管理を周到にされます。チームには、もちろんプロを目指す選手もいれば、試合に出られない選手もいる。でも一人一人がそれぞれの立場で「チームのため」「ENEOSのため」に勝利をもぎ取るということを当初から繰り返しおっしゃったのを覚えています。オフの日に練習に取り組む選手が増え、課題を見つめ直して自主練習に励む選手が増え、徐々にチームがまとまりを持ち、結束して大きな力を発揮していくようになる変化も体験しました。主将を7シーズンという長い間、務めさせていただいたので、後半は「自分がチームを作るんだ」という気概で、監督やコーチが「言うだろうな」ということを先回りして言おうとずっと考えていました。大久保さんは度量のある方なので、私は間違ったことは修正していただけるし、後押しもしてくださいました。

 

 =2012年の都市対抗野球大会決勝で本塁打を放つ宮澤さん

 大久保監督路線継承し、自らのスタイルを模索

 ――その大久保さんが築いてきたチームに、これから新たなカラーを加えていくことになります。

 ◆チームの方針は変わりませんし、選手が求められることにも大きな差はありません。大久保さんはやはり存在感があってカリスマ性もある。これまで培った経験から指導いただく言葉にもとても説得力があります。これらは、私自身が真似しても簡単に真似できるものではないと思っております。経験値の差もあるのですぐには難しいと思っておりますが、今後現場を預かるトップとしてチームディレクターとなる大久保さん以上に強く思わなくてはいけないと思うのは、「ENEOSを強くしたい」「試合に勝ちたい」という思いです。大久保さんの監督像に敬意を表しながらも自分は自分のスタイルを模索して目の前の勝利を選手と共につかみとりたいと思っております。

 現役を引退してからの10年間、社業に専念し、主に営業をしてきました。組織の中で方針を決めて導く重要性であったり、若い世代とのコミュニケーションの取り方だったり、野球にも通ずる多くの学びがありました。監督としても一方的でなく、選手個々に合わせたアプローチの仕方で会話をしていきたいと思います。納得した上で動いた方が選手もやる気が出ます。迷いや不安を取り除くことも仕事だと思いますので、本音が出せるような雰囲気を作りたいと思います。

  ――既に大学生の大会にも顔を出されています。選手をスカウトする際に重視する点はありますか。

 ◆個人技に走る選手よりは、チームのために献身的なプレーをできる選手、チームの勝利を優先できる選手は目に留まります。会話する中でも選手の個性は見えてきます。大久保監督が(チーム編成に携わる)チームディレクターとして残られるので、話し合いながら進めていきたいと思います。

  

=2012年都市対抗野球大会で優勝し、主将として黒獅子旗を掲げる宮澤さん

 積み重ねで「人生は変えられる」

 ――ご自身の球歴と、どんな形でENEOS入りしたのか教えてください。

 ◆私は一般入試で明治大に入り、ようやくベンチ入りできたのは3年秋です。当時、主将になると、(野球の)成績が落ちるというジンクスがあり、主力メンバーは試合に集中しろ、ということで、私にキャプテンが回ってきました。ところが、私の場合、リーダーシップを発揮したら、選手としてもいい方向に出ました。立場が人を作るという言葉がありますが、それに乗っかった感じで、これが転機となりました。レギュラーを取れて、たまたまカンカンと打てるようになり、4年の東京六大学野球の春季リーグ戦で首位打者になりました。卒業したら地元の長野に帰って就職しようと考えていたのが、社会人野球で続けたくなって、ENEOS入りを志願しました。

 私は175センチ、75キロ程度。周りの選手は、足が速いし、肩も強い。体もでかいし、遠くに飛ばせる。ここでも自分は大した選手ではなく、言ってみれば、最初は使ってもらっているような選手でした。下手くそなんでやるしかない、と練習は人一倍やった自負はあります。少しずつ積み上がって、全国でもレベルの高いところで戦えたかなと思います。日々継続して積み重ねることが、大きなことにつながる。そして、人生が変わる。ENEOS野球部って、そんな人生を変える環境があるんだよ、あとは自分次第だよ、と選手にも伝えていきたい。

 ――同じ神奈川では、来年1月に日産自動車が活動を再開します。都市対抗出場に向け、西関東2次予選がさらに激しい争いとなります。

 ◆活動再開に向けた関係者の努力は想像を絶するものだっただろうな、と敬意を表します。選手の時から、よきライバルでした。また対戦できるのが楽しみです。互いにしのぎを削ることで、レベルが上がると感じています。一緒に社会人野球を盛り上げていきたいと思います。

  ――社会人野球の魅力について教えてください。

 ◆若手からベテランまでチーム一丸となって熱い野球を展開することです。選手時代にも感じていましたが、会社の応援、地域の応援も大きな支えになります。これは社業に専念した10年間により身近に感じました。多くの方が野球部をサポートしてくださり、応援に足を運んでいただいていることを実感しました。都市対抗で優勝した22年の東京ガスとの決勝は三塁側スタンドで同僚と観戦していましたが、泣いている人もいましたし、誰からともなく拍手やウエーブが起きたりしました。これからも社員や地域の方々の応援に感謝し、野球を通じて感動を届けたいと思います。

 

みやざわ・けんたろう 1980年生まれ、長野県岡谷市出身。岡谷南高から一般入試で明治大に入学。大学4年の東京六大学野球春季リーグ戦で首位打者、ベストナインに輝いた。2003年に新日本石油(現ENEOS)に入社。都市対抗3度、日本選手権1度優勝し、三塁手で社会人ベストナインに2度選ばれた。13年秋に現役引退し、10年間、社業に専念し、今年1月からヘッドコーチを務めていた。横浜市内で、妻と男の子2人と4人暮らし。小3の長男は野球を始めており、子供たちと一緒にボールに触れる時間がリラックスになるという。