今、個人に対する株式のキャピタルゲイン(譲渡益)課税について、申告分離方式への一本化をするのかしないか、大蔵省が大きく揺れている。
この改正法案は、当初、来年の4月1日より施行予定でしたが、日本証券業協会が個人顧客2万人にアンケート調査をした結果、89%にあたる1万7400人もが反対をし、もし申告分離方式への一本化が実施されれば、株式投資を辞めると回答しているといいます。
森政権発足時より、株価が低迷している現状では、大きな影響を与えることは間違いないと心配されています。
この問題について、自民党の野中幹事長は最近、申告分離方式への一本化を見直し、現行の源泉分離方式と申告分離課方式の選択制を継続する考えを示し、秋の臨時国会に来年4月よりの法律を改正する意向を示しました。
また、金融庁の日野正晴長官も、8月末に大蔵省へ提出する税制改正要望に向け、金融庁として源泉分離課税方式と申告分離課税方式の選択制の存続要望を検討していることを明らかにしました。
ことの発端は、公開株式の売却時に得たキャピタルゲインの課税について、「株式を大量に保有する大口投資家などが、源泉分離により巨額の利益を得るのは税の公平性に欠く」という理由から、現在認められている源泉分離課税を来年の3月末日をもって廃止しようとする大蔵省の意向からはじまっています。
これまでも解説をしてきましたが、現行の所得税法では、公開株式の売却時に得たキャピタルゲイン(譲渡益)の課税について、
源泉分離課税
税額
=売却価額×1.05%
申告分離課税
税額
=(売却価額−購入価額−売買にともなう経費)×26%
=売却益×26%
いずれかの制度を選択することができるようになっています。
具体的に説明すると、たとえば、100万円で購入した株価が200万円へと倍になった場合、その支払税額は、
源泉分離課税
税額
=200万円×1.05%
=2万1000円
申告分離課税
税額
=(200万円−100万円)×26%
=26万円
となり、源泉分離課税を選択すれば、金額にして23万9000円、レートにして実に92%もの節税ができるのです。
一方で、100万円で購入した株価が逆に80万円へと値下がりした場合、その支払税額は、
源泉分離課税
税額
=80万円×1.05%
=8400円
申告分離課税
税額
=(80万円−200万円)×26%
=0円
となり、損をした場合は申告分離課税を選択すれば、税金を支払わなくて済むことになります。つまり、公開株式の売却時に大きくキャピタルゲインを得た場合には、源泉分離課税を選択して大きく節税をし、キャピタルロス(譲渡損)の場合は、申告分離課税の選択で税額が発生しないという制度なのです。
しかも、源泉分離課税を選択するには、日本に所在地のある証券会社を通じて株式を売買すること、届出をあらかじめ提出しておくことなど、いくつかの簡単な条件さえクリアしてしまえば、たとえNASDAQのような外国の証券市場の株式であったとしても、この制度を利用することができます。
この制度は、課税の公平性を第一に掲げる日本の税制においては、極めて珍しい税制で、バブル時から金持ち優遇税制の1つとされてきました。
自民党幹部や金融庁のトップがいろいろと言っても、すでに決定した税制がそう簡単に覆ることもなく、少なくとも現時点では平成12年3月31日をもって源泉分離選択課税制度は廃止され、平成12年4月1日より申告分離方式への一本化が決定しているのです。では、保有している株式は一体どうしたらいいのでしょうか?
IT関連企業に勤務しており、IPO以前に株式を取得していたり、持ち株会などに参加しており、IT関連企業が注目され始めた昨年前に取得した株式の多くは、比較的取得価額が低いはずです。もしこの状態で申告分離方式への一本化が施行されたとしたら、前述のように、その納税額は確実に跳ね上がることになります。今のうちに打っておける対応策は、ないのでしょうか?
実は、ちゃんとあるのです。それがクロス取引とよばれる方法です。
クロス取引とは、同一の証券会社に、同一銘柄について同量の売り注文と買い注文を取引所に提出し、商いを成立させる取引のことをいいます。租税回避にあたるのではないかという懸念もありましたが、税務当局も認める方向で動いているようです。
具体的に解説すると、5万円で取得した株式が現在80万円で、申告分離方式への一本化がおこなわれた将来、100万円で売却するといった場合、まず、源泉分離方式が選択できる今のうちに80万円でのクロス取引を行います。
税額
=80万円×1.05%
=8400円
クロス取引をすることによって多少税金が発生しますが、5万円で買った株は80万円で売却されたことになり、新たに80万円で株を購入したことになります。そして、しかるべき時点で100万円で売却すれば、その時に支払う税額は、
税額
=(100万円−80万円)×26%
=5万2000円
で済むのです。
しかし、このクロス取引を行わず、その将来に100万円で株式を売却したとすると、その税額は、
税額
=(100万円−5万円)×26%
=24万7000円
ということになり、なんと308%増しもの税金がかかることになります。
源泉分離方式が選択できるうちにクロス取引を行っておいたほうが、いかに有利であるかおわかりいただけたでしょう。
もっとも、クロス取引には売りと買いの証券会社の手数料が掛かることを忘れてはいけませんが、将来の税額に比べれば大したことはないでしょう。
さらに付け加えるのであれば、このクロス取引を行うときのコツは、なるべく高い株価のときに実行することです。買い直す金額が高ければ高いほど、売却する金額が同じであったならば、将来の税額が低くなるのです。
平成13年4月1日までは、まだ時間はあるし、源泉分離課税制度が復活する可能性も高まってはきています。しかし、時代の流れは確実に申告分離方式への一本化へと進んでいます。将来を見据え、課税方法がどうなるか流れを見ながら、クロス取引を絶妙なタイミングで仕掛けてください。
「キャピタルゲイン課税一本化に向けて揺れる大蔵省」の見出しで始まるセクションの最後の段落、
ことの発端は、公開株式の売却時に得たキャピタルゲインの課税について、「株式を大量に保有する大口投資家などが、源泉分離により巨額の利益を得るのは税の公平性に欠く」という理由から、現在認められている申告分離課税を来年の3月末日をもって廃止しようとする大蔵省の意向からはじまっています。
の赤字の部分、「申告分離課税」は「源泉分離課税」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。
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