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ストックオプション制度の落とし穴知っててトクする株式講座(2)

» 2000年06月19日 12時00分 公開
[杉山靖彦,@IT]

いよいよナスダック・ジャパンがスタート!

 本日、各株式市場の注目を集める中、新たな株式市場としてナスダック・ジャパンがスタートしました。昨年末にスタートしたマザーズと同様に、ベンチャー企業もIPO(株式公開)をすることができる市場としてその動向が気になるところです。一足早くスタートしたマザーズは、ご存知のとおり開設当初、ITベンチャー企業への投資が過熱気味であったネットバブルに巻き込まれ、乱高下が非常に激しい状態が続きました。最近はそのネットバブルも沈静化し、各社の評価も安定しつつあるようです。

 さて、このように日本でもベンチャー企業の早期段階でのIPOが可能になってくると、株式の売却益による課税が気になるところですが、前回は公開前に購入した株式の売却にともなう税制について解説しました。今回は、同じく株式の売却益ではあるのですが、ベンチャー企業に止まらず、今や日本の大手企業にも浸透しつつある「ストックオプション」制度と税制について解説したいと思います。

ストックオプション制度とベンチャー企業

 ストックオプション制度が生まれた背景には、資金力のないベンチャー企業が、優秀な人材を確保するために、将来の飛躍的に上昇するであろう株価をあてにするという考えがあります。「取らぬ狸の皮算用」なわけですから、本来はいわば苦肉の策なのです。ところが、最近は資金力のある企業までがストックオプション制度を導入し……(ストックオプションの弊害については、機会をあらためて解説することにしましょう)。

 話しを戻しまして、まずはストックオプションの制度について解説しましょう。ストックオプションを実施するためには、次の3つの方法が考えられます。

  1. 申し込み期間の非常に長い新株式発行
  2. 市場から買い戻した自社株式の贈与
  3. 転換社債を発行し、株式購入権であるワラント部分のみを付与

 米国では(1)が一般的ですが、日本においては商法などの絡みから(3)を採用するベンチャー企業も少なくありません。方法はいずれにせよ、このストックオプションを与えられた人がその権利を行使して株式を売却することによって、

「現在の株価」−「(一般的には)権利を付与された時点の株価」

を利益として得ることができます。つまり、権利を付与された時点と比較して株価が上昇すればするほど得ることができる利益は大きくなるわけです。したがって、ストックオプションの付与を受けた人は、この利益を最大化するため、企業の会社の業績を上げるために努力するであろうというわけです。

ストックオプション制度と税金の関係

 では、このストックオプションに対する税金はというと、その企業の役員や従業員の場合は、ストックオプションにより得た利益は、その勤務によって得たものであり、一種の成功報酬であると考え、権利を行使した時点で給与所得として課税することとなっています。

 株式の売却時点ではなく、ストックオプションの行使時点において、給与所得として課税 とはいうものの、累進課税制度を採用する日本においては、その課税制度は欧米各国と比較すると納税者にとってひどく不利であるためか、ITベンチャー企業の場合、郵政大臣の認定を受けて、通信・放送新規事業を実施する未公開の株式会社に限り、年間1000万円以下の部分については株式を売却した時点で、譲渡所得と同様の26%(うち6%は住民税)の課税という特例が設けられています。ストックオプション制度を採用しようと思うベンチャー企業は、できるだけ特例を受けられるようにしておくことをお勧めします。

 もっとも、ベンチャー企業がIPOを果たした場合に得ることができる利益は、とても年間1000万円程度に収まる場合は少ないのではないでしょうが……

郵政大臣の認定を受けて、通信・放送新規事業を実施する未公開の株式会社は、そのストックオプションについて、年間1000万円以下の部分は株式を売却した時点で26%の課税という特例が受けられます。

 しかし、1000万円に収まらないような場合、実はここに大きな問題が隠されています。前述のように日本においては累進課税制度が採用されています。累進課税制度というのは、その年の所得が大きければ大きいほど税率が高くなるという制度です(たとえば、5年間で1000万円ずつ稼ぐ人と、1年間で5000万円稼ぎ、あとの年は所得ゼロの人がいたとしたら、後者のほうが圧倒的に税金が高いのです)。

 つまり、普段は低く抑えられた給与で働いていたベンチャー企業に勤める役員または従業員が、ある年にストックオプションを行使して、たまたまその年だけ高い所得を得たとすると、非常に高い税率(現在の最高税率は所得税、住民税合わせて50%)で課税されることとなるのです。

 株価というものは、ある年に一気に上昇するものではなく、企業の成長とともに徐々に上昇するものであるとするならば、この課税制度は非常におかしなものです。たとえば、山林の木を育て、伐採し、売却することによって所得を得る林業を営む人の所得に対しては、樹木というものは一気に育つものではないという考え方のため、特別に有利な課税制度を設けられているのと比べても、納得のいく税制ではありません。

ストックオプションの更なる落とし穴

 さらに、株価が下落した場合の問題は顕著です。たとえば、最近のネットバブル崩壊にともなって株価が1/2、1/3になってしまった場合も珍しくありませんが、その高値の時点で権利を行使しただけで、株式を売却していない場合の課税は、

(「権利行使時の株価」−「権利付与の株価」)×税率

 となっています。つまり、株式を売却していないとしても、税金は発生するわけです。 最高税率に達している人の株価がちょうど1/2となってしまった場合は、税金の支払いでほとんどすべてを失い、ましてや1/3になろうものなら、現在の持っている株式すべてを売却したとしても税金すら払えなくなってしまうという現象が起こりえるのです。これは明らかに税制の不備です。

 そのほか、外国法人の本社の株式を利用してストックオプションを実施している企業や、社員や従業員以外に付与された場合など、日本の税制はまだまだストックオプションに対する税制の不備が目立ちます。ストックオプション制度の導入、行使などについては、専門家のアドバイスを受けながら実施しないと、思わぬ大きな落とし穴が待ち受けています。

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