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イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(追記あり) ビルボードジャパンが2024年度年間チャートを発表、10の注目ポイントとは

(※ 追記(12月6日18時23分):ビルボードジャパン年間アルバムチャートの記事が訂正されたことに伴い、訂正後のリンクを掲載したポストに差し替えました。)

(※ 追記(12月9日8時12分):今回のエントリー公開後、年間ソングチャート、年間アルバムチャートおよび年間トップアーティストチャートについて、詳細な分析を行いました。つきましては、このエントリーの巻末にリンクを掲載しています。)

 

 

 

ビルボードジャパンは本日午前4時、2024年度年間チャートを発表しました。集計期間は2023年12月6日公開分~2024年11月27日公開分(2023年11月27日~2024年11月24日)となります。なおGlobal Japan Songs Excl. JapanおよびJapan Songs(国名)チャートについては2023年12月7日公開分~2024年11月28日公開分(2023年11月24日~2024年11月21日)が集計期間です。

このエントリーではソングチャートを中心に、年間チャートから見えてくる今年度の注目ポイントを10項目挙げていきます。2023年度については下記リンク先をご参照ください。

 

ビルボードジャパンによる各記事のリンク、および詳細なデータは別エントリーにてまとめています。こちらにはソングチャート毎週の1~5位曲リスト、各指標週間上位20曲(フィジカルセールスを除く)、TikTok Weekly Top 20、Top User Generated Songsチャート、ニコニコ VOCALOID SONGS TOP20の週間上位20曲等を四半期毎にまとめたエントリーのリンクも掲載しています。

 

年間ソングチャート100位まで、およびフィジカルセールス、ダウンロードおよびストリーミング各指標の基となるチャートの順位は下記表をご参照ください。フィジカルセールス、ダウンロードおよびストリーミングについて、総合100位以内ランクイン曲は100位まで、総合100位未満については50位までを掲載しています。

またトップアーティストチャート20位までの歌手における指標別順位はこちら。なおこの画像はブログエントリーで最初に紹介したポスト内の記事にて掲載されています。

 

今回のエントリーにて貼付しているソングチャート、アルバムチャート、および双方を合算したトップアーティストチャートのCHART insightはNumber_i『No.O -ring-』を除き、2024年11月27日公開分(年間最終週)までの最大60週分となり、CHART insightにおける順位は同日公開分のそれを指します(20位未満の場合は順位が表示されません)。

※CHART insightの説明

 

[色について]

黄:フィジカルセールス

紫:ダウンロード

青:ストリーミング

黄緑:ラジオ

赤:動画再生

緑:カラオケ

濃いオレンジ:UGC (ユーザー生成コンテンツ)

 (Top User Generated Songsチャートにおける獲得ポイントであり、ソングチャートには含まれません。)

ピンク:ハイブリッド指標

 (BUZZ、CONTACTおよびSALESから選択可能です。)

 

[表示範囲について]

総合順位、および構成指標等において20位まで表示

 

[チャート構成比について]

累計における指標毎のポイント構成

 

 

それでは、ソングチャートを主体に振り返ります。

 

ビルボードジャパン 2024年度年間チャートにおける注目点>

 

 

Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」、圧倒的な強さでソングチャート制覇

2024年度のソングチャートはCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」(以下”「BBBB」”と表記)が圧勝。ビルボードジャパンソングチャートは週間50位までのポイントが可視化されますが、手元の集計では「BBBB」の獲得ポイントが2位のtuki.「晩餐歌」の1.6倍以上を記録しています。ポイント面では昨年度におけるYOASOBI「アイドル」同様に40万ポイント超えを果たした形です。

「BBBB」は週間1万5千ポイント超え通算8週、首位獲得通算19週そしてトップ10入り通算43週を記録。瞬発力と持続力を兼ね備えています。ポイントは緩やかにダウンするもが、秋に「オトノケ」がヒットしたことで「BBBB」がフックアップされた形です。とりわけ強力だったのはストリーミングの強さであり、2024年度週間ストリーミング再生回数のうち17位までを「BBBB」が占めていることがストリーミングの記事から判ります。

結果的に「BBBB」は、ストリーミング547,310,791回再生および349,667DLを記録。双方で2位につけたtuki.「晩餐歌」を大きく上回っています(358,274,285回再生および158,870DLを記録)。「BBBB」はフィジカルリリースされながらもフィジカルセールス指標はダブルAサイドのもう1曲である「二度寝」に加算されていますが、加算対象5指標ではラジオおよび動画再生でも首位、カラオケでは2位となり圧勝しているのです。

 

「BBBB」においては特筆すべきポイントがいくつも存在します。ポイント上昇や大ヒット、そしてロングヒットに至った要因について、”動画"そして活用”という項目から掘り下げます。

 

② 動画と活用がヒットを加速 (1) 公式動画の徹底

「BBBB」は海外のバズが逆輸入される形で日本でも浸透しましたが、この曲がさらなるヒットに至ったのには公式動画の公開が背景にあります。タイアップ先の『マッシュル-MASHLE- 神覚者候補選抜試験編』とのコラボ動画、そしてTHE FIRST TAKEが同時期に公開され、前者では海外でのバズの要因となったダンス(#BBBBダンス)がサムネイルに。これらの投入に伴い、今年度唯一となる週間2万ポイント超えを達成しています。

注目は、コラボ動画がCreepy Nuts側の公式YouTubeチャンネルで公開されたこと。動画再生指標のカウント対象となるISRC(国際標準レコーディングコード)は音楽パートナーに位置付けられる歌手やレコード会社等のYouTubeアカウントにて付番が可能となり、テレビ局やアニメ制作会社等の公式チャンネルではそれができません。Creepy Nuts側はその点を熟知していたものと考えます。

この動きは米津玄師「さよーならまたいつか!」(年間21位)でも。『虎に翼』(NHK総合)のオープニング映像を自身の公式YouTubeチャンネルで公開したことが週間トップ10返り咲き、年間トップ20目前まで迫った一因といえます。Creepy Nutsは「オトノケ」(年間92位)でも『ダンダダン』とのコラボ動画を歌手側の公式チャンネルで公開しており(→こちら)、映像の権利処理等難題をクリアしたことが今回の結果に表れた形です。

 

③ 動画と活用がヒットを加速 (2) 短尺動画の人気と施策としての利用

「BBBB」は米ビルボードによるグローバルチャートでもヒット。こちらの年間チャートは後日発表されますが、Global 200では週間8位、Global 200から米の分を除くGlobal Excl. U.S.では2位を記録しています。ひとつ前の項目で紹介した動画の公開はGlobal 200でのトップ10入りやGlobal Excl. U.S.でのトップ3返り咲き等、世界でのヒット継続に大きな影響を及ぼしています。

さて、ビルボードジャパンソングチャート、また米ビルボードによるグローバルや米のソングチャートにおいてはTikTokや、”踊ってみた” ”歌ってみた”に代表されるUGC(ユーザー生成コンテンツ)が構成指標に含まれていませんが、この短尺動画で人気の曲が総合ソングチャートでも上位に入り、年間チャートでも存在感を示す例は少なくありません。とりわけ「BBBB」はこのふたつのチャートで共に首位を獲得しています。

TikTokの記事にはありませんが(また言及する曲が年間20位以内には入っていませんが)、歌手側が音源の正式リリース前に短尺動画にて一部を公開するという施策が昨年度以降目立っている印象です。tuki.「晩餐歌」(年間2位)、友成空「鬼ノ宴」(年間40位)、また来年度の年間チャート入りが期待されるAKASAKI「Bunny Girl」はいずれもティザーの形で事前に公開しています。正式リリースの期待感を高めるこの手法は海外でもみられるのですが、日本では現時点でインディや自主制作歌手に多いと感じています。

TikTokにおいてはユニバーサルミュージックグループが交渉決裂に伴い一時音源を引き上げていますが、その中でHYBEが提供を続けたり、またアルバムリリースを控えたテイラー・スウィフトがグループの音源再提供前に自身の新曲を公開したことは、歌手側がTikTokの影響力を理解していることの表れでしょう。加えて最近はTikTokでの”活用”を意識して作られた曲も登場し、総合ソングチャートでも上昇しています。

 

④ 動画と活用がヒットを加速 (3) カラオケでの人気

年間ソングチャートについてはフィジカルセールス、ダウンロードおよびストリーミング指標の基となるチャートの順位も発表されている一方(フィジカルセールス以外は基のチャートと指標化後の順位に差はほぼない模様です)、ラジオや動画再生、またカラオケ指標の順位は未公開ですが、カラオケはデータ提供元となるDAMおよびJOYSOUNDが既に年間チャートを公開しています(なお集計期間はビルボードジャパンと異なります)。

DAMおよびJOYSOUNDにおける2024年発売曲の年間カラオケランキングは上記エントリーで紹介していますが、ビルボードジャパン年間ソングチャート上位曲がカラオケでも強いことが解ります。「BBBB」に至っては総合でもVaundy「怪獣の花唄」に次ぐ2位となり(DAMの年間ランキングはこちらJOYSOUNDこちらを参照)、カラオケで不利とみられるヒップホップ曲が如何に支持されたかが理解できます。

(なお『日経エンタテインメント!』2025年1月号では、2024年1月1日~11月3日を集計期間としたビルボードジャパン年間ソングチャートが20位まで掲載されています(72ページ参照)。そこでは構成指標の順位も掲載されており、tuki.「晩餐歌」は総合ソングチャート2位/動画再生指標3位/カラオケ指標3位、Omoinotake「幾億光年」は3位/10位/15位、Mrs. GREEN APPLEライラック」は4位/4位/37位と紹介されています。)

 

このブログでは社会的ヒット曲において”活用”の重要性を紹介していますが、実際に年間ソングチャートで上位進出を果たした曲の多くが②~④の要素をひとつ以上持ち合わせているといえます。そして「BBBB」はそのすべてに加えて次の項目も該当しており、全方位的なヒットとなっています。

「BBBB」はSpotifyデイリーチャートで5月以降、Mrs. GREEN APPLEライラック」に首位の座を譲るようになりましたが、その後も土日に「ライラック」を逆転する現象が発生。他の曲に比べて土日の伸びが大きかったことを興味深く感じています。土日の上昇は学校が休みの日に子どもたちが聴く、運動会やドライブのBGMで用いられる等が想起され、その点からも活用での人気がみえてくるのです。

 

⑤ アニメ、TBS火曜ドラマ等映像作品主題歌の強さ

映像作品のタイアップ曲が強いという傾向は今年もみられました。「BBBB」「ライラック」に代表されるアニメ関連曲はダウンロードやストリーミング指標でも高く、歌手のコアファンのみならずアニメのコアファンがきちんと購入や接触したことが反映されたといえるでしょう。その所有行動も見越してか、現在フィジカル化されるシングル曲の多くはアニメタイアップ作品となっています。

一方でドラマや映画の主題歌もヒットしていますが、特にTBS火曜22時枠の火曜ドラマが今年も強さを発揮。Omoinotake「幾億光年」(年間3位)やDa-iCE「I wonder」(同25位)も含む、火曜ドラマの年間50位以内ランクインについては以前紹介しています。

「I wonder」においてはDa-iCEの公式YouTubeチャンネルにてダンスプラクティスやパフォーマンス動画、音楽フェスでのパフォーマンス映像も公開されているほか、ショートでは様々な方とのコラボ動画が発信されています。冒頭と曲終わりの遊び心溢れる展開がUGCTikTokクリエイター向きであることも含め、様々な施策や工夫が高位置進出につながったといえるでしょう。

 

Mrs. GREEN APPLE、トップアーティストチャートで大勝

ソングチャートとアルバムチャートを合算したトップアーティストチャートでは、Mrs. GREEN APPLEが首位に立ちました。週間チャートにおいて1月3日公開分以降常時2位以上、そしてストリーミング指標はその前の週から首位の座に就いています。

Mrs. GREEN APPLEは昨年末、『NHK紅白歌合戦』や『輝く!日本レコード大賞』をはじめとする地上波長時間音楽特番に多数出演したことがさらなるステップアップの契機になっています。「ケセラセラ」の日本レコード大賞受賞も大きいですが、その後も音楽番組に限らず積極的に露出を続けたことで(バラエティ番組含む)、いわば”お茶の間の(老若男女に認知された)歌手”に成ったことが大きいと捉えています。

(”お茶の間の歌手”になれば尚の事、イメージの低下は歌手活動にとってより大きな命取りとなりかねません。今年、「コロンブス」におけるミュージックビデオ問題が発生しましたが対応は素早く、早急な対応ができたことも重要な点と捉えています。)

2024年度の集計期間中には新たに6曲がリリース。特にテレビアニメ『忘却バッテリー』オープニング曲の「ライラック」は、ソングチャート登場2週目以降常時トップ5入りを続けています。加えて「コロンブス」や「familie」等のリリースに伴い「ライラック」をはじめとする過去曲もフックアップ。この動きはCreepy Nutsが「オトノケ」リリースにより「BBBB」が再浮上したことと共通しています。

Mrs. GREEN APPLEは新曲リリースの度にコンテンツカレンダーを用いてスケジュールを発信したり、ミュージックビデオの大台達成の度にアナウンスするなど訴求を徹底しています。この徹底はコアファンとのエンゲージメント確立につながると同時に、ライト層へのリーチにも有効に作用します。年間ソングチャートにランクインした曲の多くが前年度より上昇しているのは、作品の質等に加えて施策の影響も大きいはずです。

ビルボードジャパン年間ソングチャート Mrs. GREEN APPLEの作品一覧>

※ 2023年度以前にランクインした曲を掲載

 

・「ケセラセラ」 2023年度 23位→2024年度 6位

・「青と夏」 2023年度 20位→2024年度 9位

・「ダンスホール」 2023年度 7位→2024年度 10位

・「Soranji」 2023年度 19位→2024年度 12位

・「Magic」 2023年度 38位→2024年度 18位

・「点描の唄 (feat. 井上苑子)」 2023年度 43位→2024年度 19位

・「インフェルノ」 2023年度 63位→2024年度 33位

・「僕のこと」 2023年度 60位→2024年度 42位

・「ロマンチシズム」 2023年度 100位未満→2024年度 66位

・「ブルーアンビエンス (feat. asmi)」 2023年度 70位→2024年度 82位

・「私は最強」 2023年度 55位→2024年度 85位

・「ANTENNA」 2023年度 100位未満→2024年度 93位

 

⑦ アイドルやダンスボーカルグループにおけるソングチャートでの二極化

アイドルやダンスボーカルグループで年間ソングチャート最高位を記録したのはILLIT「Magnetic」(年間15位)でした。

世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ)でILLITが日本のメディアに初登場を果たす前の段階で、「Magnetic」はストリーミング週間1千万回再生を記録。気になる方が増えた段階でのマスへの訴求は絶妙だったのではないでしょうか。この曲のブレイクにはTikTokが大きく関わっていますが、先述したようにユニバーサルミュージックグループと異なる対応をHYBEが行ったことも大きいといえます。

トップ50入りは逃したものの、元Sexy Zone中島健人さんがキタニタツヤさんと組んだGEMNの、テレビアニメ『【推しの子】』第2シーズンオープニングテーマとなる「ファタール」は年間54位にランクイン。この曲がSTARTO ENTERTAINMENT所属歌手作品では2024年度の最高位にして、唯一の100位以内エントリーとなります。デジタル、特にストリーミングで人気を獲得することの重要性が理解できるはずです。

一方で、K-POP女性アイドルやダンスボーカルグループ、また一部の男性グループを除けば、このジャンルの多くの作品が年間ソングチャート100位以内に登場していません。アイドルやダンスボーカルグループにおいて、このチャートでの工夫が今後の重要な鍵となるのではないでしょうか。

 

⑧ フィジカルセールスと社会的ヒットとの乖離

ビルボードジャパンの年間アルバムチャートではコアファンの多い男性アイドルやダンスボーカルグループの作品が寡占している状況です。このジャンルの歌手はソングチャートと合算したトップアーティストチャートでも一時的に上位進出しながら、ソングチャートの接触指標が強くないために急落する傾向にあります。それを踏まえれば、トップアーティストチャートにおけるMrs. GREEN APPLEの安定っぷりがよく解るはずです。

それでもアルバムチャートでは、Mrs. GREEN APPLEによる『ANTENNA』が年間38位にとどまっています。アルバムチャートはフィジカルセールス1枚よりも1ダウンロードのほうがウエイトが大きいのですが、男性アイドルやダンスボーカルグループの作品はダウンロードが多くないながら(もっといえばデジタル未解禁の作品も未だ少なくないながら)、累計ポイントに占めるフィジカルセールス指標の割合が大きい状況です。さらに、米ビルボードのような接触指標が組み込まれていないことも大きな要因といえます。

仮にアルバムチャートに接触指標を導入すればソングチャートとの乖離は小さくなるのではないかということを、Spotifyにおけるアルバムチャート動向から感じています。ビルボードジャパンは米ビルボードに倣い接触指標を採り入れるかどうか議論することが必要だということをこのブログにて以前から提案していますが、この考えはさらに強固なものになっています。

ソングチャートにおいても、フィジカルセールス指標の基となるチャートはアイドルやダンスボーカルグループが占めています。こちらでは坂道グループも上位に登場していますが、しかし日本の女性アイドルやダンスボーカルグループにおいてもほとんどの作品でフィジカルセールスと総合ソングチャートとの乖離が目立つ状況です。フィジカルセールスが伸びている状況下、この乖離はますます拡がっていくかもしれません。

昨年のシングルCDセールス数と比較すると、2023年は上位100曲の合計が28,818,904枚だったのに対し、2024年は32,562,195枚と374万枚多いという結果に。コロナ禍を経て2022年以降、オーディオ(アルバム、シングル)は売上、枚数ともに前年比を上回っている(SoundScan Japan調べ)。

だからこそ、次の項目で紹介する歌手の登場は画期的といえるでしょう。

 

⑨ Number_i、ファンダム共々音楽業界のゲームチェンジャーに

アイドルやダンスボーカルグループの中で、所有指標のみから成るアルバムチャートでも、接触指標が重要な役割を果たすソングチャートでも躍進したのがNumber_iです。

元日に「GOAT」をデジタルリリースしデビューを果たしたNumber_iは、その「GOAT」が年間16位、ミニアルバム『No.O -ring-』のリード曲である「BON」が同68位にランクイン。前者は週間首位(1週)、後者は「BBBB」に阻まれながら2位を記録したほか、フルアルバム『No. I』のリード曲である「INZM」は週間首位(1週)を獲得。アルバムもヒットし、Number_iはトップアーティストチャートで12位を記録しています。

Number_iは元King & Princeの3名から成るグループであり、STARTO ENTERTAINMENT所属時はチャリティユニットとしてデジタルリリースはあったもののKing & Princeとしてはありませんでした。ゆえに新グループでのデビュー時は手探りの状態であり、またSTARTO ENTERTAINMENT離脱に伴いメディア露出が制限される可能性もありながら、蓋を開ければ様々な音楽番組に登場し、『NHK紅白歌合戦』では初出場を果たします。

その支えとなったのがコアファンの中でも、音楽チャートでの上位進出に意欲的なファンダムの存在だと捉えています。特にStationheadの活用では他の歌手やファンダムの追随を許さず、その徹底が(Stationheadの活用元であるApple Music以上に)Spotifyのデイリーチャートに表れています。実際、先述した3曲は現在も50位以内にとどまり、最新曲「HIRAKEGOMA」解禁のタイミングで再浮上しています。

推測の域は超えませんが、ファンダムの勢いそして結束力は『No.O -ring-』の年間ダウンロードアルバムチャート制覇にも示されていると考えます。

2024年5月27日にリリースされた本作は、6月5日公開チャートで2位以下に10倍以上の差をつけて堂々の首位デビュー。その後もトップ30圏内を維持し、7月初旬の大型メディア露出が後押しし、7月10日公開チャートで通算2週目の1位となった。10月23日公開チャートではトップ10に返り咲き、11月24日までの集計対象期間中その勢いをキープした。

10月以降の勢いの復活については、CHART insightから理解することができます。下記は2025年度初週となる12月4日公開分までのデータですが、最新週において『No.O -ring-』は急落している状況です(Download Albumsチャートでは100位以内に入っていません)。前週までの再浮上を踏まえるに、ファンダムが『No.O -ring-』の年間ダウンロードアルバムチャート制覇の可能性を考慮し、団結したかもしれません。

Number_iにおいてはSpotifyと他のサブスクサービスとで順位が乖離していること、また年間ソングチャート上位曲中でストリーミングの順位が高くない点が今後の課題といえるでしょう。Stationheadの影響力が大きくなればビルボードジャパンがチャートポリシー(集計方法)を変更する可能性も考えられ、尚の事です。

とはいえ今年度の成績はメディアのみならず、STARTO ENTERTAINMENT所属歌手のデジタル施策も刺激したのではと考えます。また海外では音楽チャート上昇に意欲的なファンダムは多くの歌手に存在し、その先駆けになったと捉えていいかもしれません。上半期チャート振り返り時にも記しましたが、Number_iはファンダム共々、音楽チャートそして業界における”ゲームチェンジャー”に成ったと考えて差し支えないはずです。

 

⑩ ソングチャートにおけるユニバーサルミュージックの強さ

先ほど紹介したMrs. GREEN APPLEは2024年度のソングチャート100位以内に17曲を送り込んでいますが、back numberは10曲、藤井風さんは3曲がランクインしており、この3組だけで年間ソングチャートの3割を占める結果に。そして3組とも、ユニバーサルミュージックグループに所属しています。

トップアーティストチャートではback numberが2位、藤井風さんが15位を記録。back numberの場合は「新しい恋人達に」(年間ソングチャート45位)のリリースがトップアーティストチャートでのさらなる上昇につながっています。藤井風さんにおいてはライブ開催等が影響しているのですが、それらに加えてユニバーサルミュージックがサブスクに力を入れたことが所属歌手のさらなるヒットにつながったとみています。

(※上記エントリーにて掲載した動画は、キャンペーン終了に伴い現在は閲覧できません。)

ユニバーサルミュージックは定期的に、上記エントリーで紹介したキャンペーンを実施。昨年の冬はback number、今年の夏はMrs. GREEN APPLE等がCMソングに用いられており、特に前者において印象的に使用されたback number「クリスマスソング」は年間チャートで2023年度が78位に対し2024年度は71位、また「ヒロイン」は100位未満→80位と推移しています。

徒然研究室さんによるポスト(上記ポストからはじまるスレッド)では、藤井風さんが『20代のアーティストとしては非常に広範な年齢層から聴かれている』、back numberが『メンバーさんは40歳前後ですが、10代比率が非常に多い』と紹介されています。藤井風さんにおいてはメディア露出が『NHK紅白歌合戦』等に限られることも影響していると思われますが、back numberはサブスク効果がはっきり示されたものと考えます。

一方ではAdoさんの年間ソングチャートランクイン数が6→2曲に減る等、すべての歌手が伸びたわけではありません。ただ今週入り”#ぼくらの冬曲キャンペーン”が新たにスタートしたことで、ユニバーサルミュージック所属歌手の作品がよりサブスクで聴かれる環境が構築されていくものと感じています。

 

 

おわりに…業界全体に対する改善提案

一定枚数以上の週間フィジカルセールスに減算処理を施す等チャートポリシーを変更し続けてきたこと、またサブスクユーザーの増加等に伴い、ビルボードジャパンソングチャートは社会的ヒット曲の鑑に成っています。それでも1週間分のみのチャートからは真の社会的ヒット曲が読みにくく、このブログでは”CHART insightからヒットを読む”カテゴリーのエントリーを用意してチャートの見方を紹介しています。

年間単位でチャートをみると社会的ヒット曲が上位に進出していることが解るのものの、一方では前年度以前のヒット曲が今年度も多く上位に登場しています。これはストリーミング指標の存在感がより高まっていることが要因であり、この指標の基となるStreaming Songsチャートの記事ではこのように紹介されています。

当年の総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”の指標別ポイントシェアをみると、現在と同じ6指標(CDセールス、ダウンロード、ストリーミング、ラジオ、動画再生、カラオケ)での集計となった昨年2023年度と比較して、ストリーミング指標で稼いだポイントが全体の70%以上を超える楽曲は79曲→84曲と増加、80%以上に絞ると35曲→45曲とさらに増えており、音楽市場におけるストリーミングの存在感がいっそう増していることがわかる。

このことは逆にいえば、今年度下半期以降にヒットした曲が年間単位で上位に進出できにくいという構造も示しています。実際、上記記事ではストリーミング指標の特徴について『上位に大きな変動が起こりにくく、「急上昇曲によって順位が入れ替わったあと、そのまま全体の再生数が減少していく」という流れが起きやすい』と説明しています。

下記は紅蓮・疾風さんによる下半期ソングチャートの予想ですが、下半期以降のヒット曲が年間では目立ちにくいことが解ります。そしてビルボードジャパンは、下半期チャートについて紹介していません。

ビルボードジャパンに対してはまず、今のチャートの構造を丁寧に伝え続けることを願います。チャートが変わらない、新陳代謝がないと捉える方に対し、誤解を解くことが必要です。また、下半期のみのチャートも簡潔ながら用意することを願います。上半期チャートが大きく採り上げられているのとは対照的な動きゆえ、概要だけでも紹介することで光を当てることができるでしょう。

加えて、米ビルボードが用いるリカレントルールを採用するかどうか議論することも願います。リカレントルールとは一定週数以上ランクインした曲が一定順位を下回った場合にチャートから外れるというもので、新陳代謝を目的に敷かれるものです。米ビルボードと完全に同じルールにする必要はありませんが、まずは採用するか否か、採用すればどのような形にするかを日頃から議論することが必要だと考えます。

 

新陳代謝といえば、ブレイクしたばかりの歌手の扱いが地上波メディアにおいては軽いのではと感じています。

長時間音楽特番においては『NHK紅白歌合戦』も含め、出演歌手や披露曲において老若男女をより強く意識した選定になっていると考えます。先程はアイドルやダンスボーカルグループの起用についてリアルタイム視聴率獲得も目的ではと述べましたが、しかしながら『音楽の日2024』では番組前半3時間にて同ジャンル歌手の今年リリース曲が多数披露されているという状況です。

新しい曲の披露を番組前半(夕方までの時間帯)に据えることはその時間の注目度を高めるという目的もあるのかもしれませんが、番組制作側にとって新しい曲の重要度が高くないのではとも感じています。これはアイドルやダンスボーカルグループを除き今年ブレイクした歌手の起用度合いの少なさからも言えることです。

6月頃または11月頃にヒットの軌道に乗った曲はレギュラー番組の休止に伴いそもそも披露されにくく、また夏や年末年始の長時間特番に登場すること自体少ないと感じています。その中にあって下半期にブレイクを果たしたこっちのけんと「はいよろこんで」は、動画人気もさることながらメディア露出の多さも相まって、下半期のリリースながら年間30位を記録。この点も踏まえ、ブレイク歌手の積極的な起用を願うばかりです。

 

メディアといえば、日本のテレビにおける歌手のパフォーマンス映像はそのほとんどが未だ歌手側に提供されず、提供されてもその多くが期間限定。またテレビ局や番組側の公式YouTubeアカウントで公開されたとして、期間限定や短尺版での公開が大半です(テレビ局側で発信した動画はソングチャートの動画再生指標が加点されません)。もっといえば、『ミュージックステーション』は未だにTVerで見逃し配信が行われていません。

動画等デジタルの充実は日本のみならず、海外リスナーへのリーチのしやすさにも影響します。また音楽チャートで存在感を高めることについては、たとえばビリー・アイリッシュ「Birds Of A Feather」においてパリオリンピック閉会式でのパフォーマンス映像がビリー側の公式YouTubeチャンネルでアップされたことに伴う反響からも明白です(チャート上昇についてはこちらで紹介しています)。

 

日本の音楽業界が世界に開かれたものになるためには、歌手側のみならず音楽チャート、そしてメディアも自問自答し、ルールを見直していくことが必要です。デジタル化は最低限必須であり、未解禁歌手に対し働きかけることもまた重要です。経緯は解りかねますが、ビルボードジャパン年間チャート関連のインタビュー動画にアルバムチャート首位のSnow Manが登場しなかったことに、この思いを強くした次第です。

ビルボードジャパンによる年間チャートの記事では、グローバル(チャート)についての言及が散見されます。日本の音楽が世界に轟くために、音楽業界やその周囲が変わっていくことを願うばかりです。

 

 

 

※ 追記(12月9日8時12分)

今回のエントリー公開後、年間ソングチャート、年間アルバムチャートおよび年間トップアーティストチャートについて詳細な分析を行いました。是非ご覧ください。