お節料理と並ぶお正月の食といえば、餅。雑煮が楽しみという人も多い。ただ、餅は喉に詰まりやすく、高齢者による窒息事故が毎年のように発生している。一口大に切ったり、餅のような食感の介護食品を活用したり、食べやすい調理法を取り入れるなど、一工夫しよう。万が一喉を詰まらせた時の対処法も心得ておきたい。
■むせても吐き出せず
餅は粘り気があるため喉に張り付きやすく、かみ切りにくい特徴がある。そのため、かむ力や飲み込む力が衰えている高齢者は、むせても吐き出せず、窒息につながりやすい。臨床栄養学専門で藤女子大人間生活学部食物栄養学科准教授の田中洋子さん(59)は、「嚥下(えんげ)機能の衰えを自覚せずに喉を詰まらせる人もいる。年齢に関係なく、歯の状態が悪い人なども注意が必要」と警鐘を鳴らす。
とはいえ、食べやすい工夫はできないだろうか。まず、小さく食べやすい大きさに切る。市販の切り餅の場合、一口で食べられるように約1.5センチ角の大きさに切る。そのままでは餅が硬く切りにくいため、600ワットの電子レンジで10~15秒ほど温めると少し柔らかくなり、包丁がスムーズに入りやすくなる。おおよそ8等分すると、ちょうど良い大きさになる。
調理の際は、まず少量の餅をおわんに入れてから汁やあんをかけると、餅同士がくっつかずに一口ずつ食べられる。
次に食べ方。田中さんは「お茶や汁物などを先に飲んで喉を潤してから食べると、喉の通りが良くなります」とアドバイスする。さらに、もちは少しずつ口に入れ、急いで飲み込まず、ゆっくりとかむこと。「良くかむと、唾液の分泌が促されて飲み込みやすくなります」と田中さん。高齢者が餅を食べるときは、必ずそばで誰かが見守ることも心掛けたい。
■伸びや粘り抑えた介護食も
餅の風味や食感を生かしつつ、喉に詰まりにくいように加工した介護食もある。「スプーンで食べるおもち」(アサヒグループ食品・東京)は、特有の伸びや粘着性を抑え、国産もち粉を使用して餅らしい風味を出した。餅が溶けたようなトロトロした形状で、商品名の通り、スプーンで食べやすいのが大きな特徴だ。ほかにも、「ソフトもち」(名阪食品・大阪)は餅特有の粘りを抑え、厚さが5ミリと薄く食べやすい。「さっくりお餅」(ふくなお・大阪)は、歯茎でつぶせる柔らかさが人気だ。
介護食の餅を入れた雑煮を高齢の入院患者に提供する病院もある。田中さんは「調理の仕方によってメニューの幅が広がるが、食べるときは十分注意して欲しい」と話している。
■喉に詰まったら! 背中叩き、腹部を締め付けて
周りの人が喉に餅を詰まらせたら、どのように対処したらよいのか。札幌市消防局救急需要担当係長の阿波俊也さん(43)は「まずは詰まった物を吐き出させる」と強調する。その代表的な方法が背部叩打(こうだ)法と腹部突き上げ法=イラスト=だ。
背部叩打法は、喉が詰まった人の背後から、手のひらの付け根で肩甲骨の間を力強く何度もたたいて、口から吐き出させる。
何度か繰り返しても効果がなければ、次は腹部突き上げ法を行う。相手を後方から抱きかかえるように、自分の両手を脇の下から前へ通す。片手で握りこぶしをつくり、へそとみぞおちの中間くらいに当てて、もう片方の手で握りこぶしをしっかりつかんだら、相手の体を斜め上に持ち上げるように瞬間的に締め付け、その勢いで吐き出させる。吐き出すまで何度も行うが、内臓を傷つける場合があるので注意が必要だ。
顔色が悪く意識がなくなり、呼吸による胸の上下動が確認できなければ、すぐに心肺蘇生が必要になる。救急車を呼び、到着まで心配蘇生を続ける。
札幌市消防局によると、2019年から23年の5年間で、食品を喉に詰まらせて搬送された人は1113人。60代以上は997人と約9割を占め、餅を喉に詰まらせたのはこのうち69人。阿波さんは「異物除去は時間との勝負。焦る気持ちを抑えつつ、正確に行うことが大切」と話している。
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