スペインの首都・マドリードでヨーロッパ最大規模の観光博覧会「FITUR 2025」(フィトゥール)が開幕した。日本ブースも人気で、日本への旅行者も増加しているという。

ヨーロッパ最大規模の観光博覧会

スペインの首都・マドリードで現地時間23日、「FITUR 2025」(フィトゥール)が開幕した。

ヨーロッパ最大規模の観光博覧会「FITUR2025」(フィトゥール)
ヨーロッパ最大規模の観光博覧会「FITUR2025」(フィトゥール)
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「FITUR」はスペインはもとよりヨーロッパで最大規模の観光博覧会だ。2024年には152カ国・地域から9000の運輸、宿泊、旅行代理店など旅行に関する企業・団体が参加していて、5日間で25万人が来場している。

各社・各国団体は各地域についてブースで来場者にPRするとともに、関係者との商談、パンフレットなど提供したほか、伝統衣装をまとった人たちがパフォーマンスを繰り広げたり、名産品のプレゼント、試食などを行っている。26日までの開催だ。

スペインのブースに登場した着物と「万灯流し」

会場を国別にみると自国のスペインが最も大きなスペースを持つ。その中でも独特の雰囲気を演出していたのが最も大きな州である南部のアンダルシア州だ。黒を基調としネオンが光る会場には、州内の都市・都市圏がブースを構える。

中でも24日、最大都市のセビーリャのブースでは日本語が飛び交った。セビーリャ近郊のコリア・デル・リオという市のプレゼンだ。

コリア・デル・リオにある支倉常長の像

仙台藩伊達政宗の命でローマ法王との謁見を目指した支倉常長率いる「慶長遣欧使節団」が1614年に滞在している。使節団の中には帰国を望まずスペインに残った者もいて、その子孫といわれるのがスペイン語で「日本」を意味する「ハポン」の姓を持つ人だ。現在も約700人が存在するということで、日本とのつながりを大切にしている。市内の公園には支倉常長の像があり、大切にされている。

会場ではモデスト・ゴンサレス市長がこうした歴史のほか、街を流れるグアダルキビル川で夏に万灯流しを行っていて現地で多くの人が集まる人気のイベントであることを紹介。市長は歴史や現代における取り組みについて「文化や伝統、精神を分かち合っているのは素晴らしく、今も続けられていることを誇りに思う」と述べた。

コリア・デル・リオのステージ
コリア・デル・リオのステージ

ステージには在スペイン日本大使館の中前隆博特命全権大使も登壇した。何世紀も前からの日本との関わりから現代の祭りにつながっていることは、スペイン、日本共に驚きと感動があるが「物語を語り継いでいるということを広める必要がある」と強調した。アンダルシアでは広く知られつつあるが、スペイン全土に広げていきたいと参加者はしめくくった。

会場には多くのメディア「お祭り」のワケ

5日間にわたり行われる「FITUR」は前半は旅行や政府、自治体などに関係する人のみを対象とし、後半は一般の来場が可能だ。「FITUR」はスペイン全土で多くの人が知るイベントだという。というのもスペインの人々は旅行がとても好きだからだ。ホリデーシーズンには2~3週間にわたり旅に出る人も少なくない。旅行関係者のための商談の場、ということになっているが、実際は商談そっちのけで、自分の旅行先を熱心に調べているということも多いようだ。

こうした事情から「FITUR」への市民の関心は高い。

会場内でのメディア取材
会場内でのメディア取材

スペイン国内外を問わず、各地で味わえるコト、モノなど最新事情や、あまり知られていないスポットの発掘、トレンドなど知りたいという需要は大きいようで、旅行関係以外にも新分野国営テレビ、地域のテレビ、ラジオが会場内のあちらこちらで取材や生中継を行っていた。開幕前から生中継でリポートするメディアもあるほどだ。

またスペイン全土から官民問わず人が集まるため、ゲストとしてタレントが招かれたり、政治家が列席し懇談する光景、さらに初日にはスペイン国王・フェリペ6世も会場に足を運ぶなど、交流・発信に限らない、国を挙げた祭りの様相を呈している。

スペインから日本への旅行者は急増

会場には、日本からも日本政府観光局(JNTO)と東京都がブースを構え、航空会社や旅行代理店、自治体関係者が出席している。

日本のブース
日本のブース

スペインから日本への旅行者は増加している。JNTOが2025年1月に公表した訪日外客統計の外客数をみると、2024年はスペインから日本へ18万2300人が訪れたと推計されている。これは新型コロナウイルスの感染拡大前の13万人(2019年)と比較して4割も伸びた。実数としてはイギリスの43万人(2019年比103%)、フランスの38万人(同115%)には及ばないが、伸び率はイタリアの22万9700人(同141%)と並んで著しい。特にスペインと日本は2024年10月まで直行便がなかったのに、だ。

日本のブースでのパンフレット配布 前年は長蛇の列になった
日本のブースでのパンフレット配布 前年は長蛇の列になった

これについてJNTOマドリード事務所の原田靖之所長は、新型コロナウイルスの影響で海外に行けなかった人たちの旅行への意欲が高いこと、円安ということが知られてきたこと、SNSにより日本の情報収集がしやすくなり、日本が身近になったことをあげている。そして日本の伝統、日本食への関心が高まっていて、特にスペインは食へのこだわりも強いこともあるという。

また日本は「特別な場所」という位置づけもあるようで、ハネムーンの需要があるという。日本とモルディブ、タイのプーケットなどを組み合わせ、1カ月にわたり旅行する。

地方への誘客につなげるカギ

スペインの人から人気がある地域は東京から大阪のいわゆる「ゴールデンルート」が中心で、広島や岐阜も訪問者が多い。

パンフレットの配布
パンフレットの配布

旅程は長くとる傾向があるというものの、これから地方にまで足を運んでもらうにはどうすればいいか。JNTOの原田所長は「食のPRに加え、日本らしい歴史や伝統も感じつつ、スペインで好まれるトレッキングといった“ソフトアドベンチャー”も提供できれば魅力向上につながる」と話す。

スペインと日本の歴史的つながりを持つ地域のひとつに長崎県があげられる。日本にキリスト教をもたらしたフランシスコ・ザビエルはスペイン人であり、ローマ法王との謁見に向かった天正遣欧使節団も長崎からスペインにわたっている。

スペインはほとんどがカトリック教徒で信仰も熱心ということで、世界遺産でもある「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」に関心を持ってもらえる可能性もある。JNTOにも時々問い合わせはあるということだ。また地元では長崎原爆を軸に平和をテーマにした旅行需要の創出もあがっているが、会場で数名のスペイン人に聞いたところ“原爆で戦争は終わっている”という声が聞かれた。つまり原爆は過去のことであり、彼らにとっては“ホットトピックス”ではないという。2024年には日本被団協のノーベル平和賞の受賞もあったばかりだが、その背景も含めて多くは知られていないことがわかる。

スペインから日本への旺盛な旅行需要の獲得には、従前から指摘されているコンテンツの造成や彼らの関心にターゲットを絞った情報発信がカギとなりそうだ。

(テレビ長崎)

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