オーディション三昧で中学生にしてPDCAを回す
池澤あやか(以下:池澤) そうです。芸能事務所に所属しつつ、フリーのエンジニアとしても働いています。事務所の所属タレントの中ではかなり独特な働き方をしているので、ちょっと肩身が狭いんですけどね……(笑)。
池澤 確かに女優さんが大多数を占めますね。ただ、そういった環境の中で、女優業でない部分での自分の強み、求められるものを常に考えながら仕事に臨んでいます。
池澤 中学生の頃、同世代の子がやっていないような変わった活動をしたい、と漠然と思っていて。レールに乗っている感じが嫌で仕方がなかったんです。なんでもいいからレールから外れたことをしたい!って。ちょうど中学二年生で、まあ、その、そういう時期ですよね(笑)。
池澤 そうです、まさに。それで、母が見つけてきた東宝シンデレラオーディションを受けました。でも、女優になりたい、とか目標を持っていたわけでもなく、なんなら芸能活動じゃなくても、留学でも何でもよかったんですよ。
池澤 常に就活しているみたいでしたね。オーディションで自分をPRして、仕事につなげなければならないので。中高生の頃は週一くらいの頻度でドラマや映画、CMなどのオーディションを受けに行っていました。そのたびに何回も何回もPDCAサイクルを回しまくって……。それに、芸能界って信じられないくらいかわいい子だらけなので、これは容姿だけじゃダメだな、ほかに売りを見つけないとな、とか日々試行錯誤していました。
池澤 そこはもう"就活"だから、考えざるを得ないんですよ。でも、この経験のおかげなのか、今でもいい意味で諦めがよくて、あまりうじうじ悩まずにポジティブでいられているように思います。容姿以外にも、歌や踊りといった身体表現の才能が圧倒的にある人とかを見過ぎたせいで、才能がないものはないで諦めようって。そうしないと、スタートラインにすら立てないですから。「ないものは仕方がないな」って。
池澤 その瞬間は落ち込むこともありますが、寝たら忘れちゃいます。人ってそんなに他人に興味ないものだし、私が何かミスしたりダサかったりしても、他人はたいして覚えてないんですよね。気にしているのは自分だけで。
就活にピンとこなくてフリーで働くことに
池澤 最初の目覚めは、高校時代だったと思います。あの頃、Twitterの前身のようなミニブログがはやっていて、Webサイト制作に必要な言語を使って自分でカスタマイズができたんです。そういうので慣れ親しんでいたり、当時所属していた青少年赤十字の団体(JRC)のWebサイトを見よう見まねで作ったりして、ものづくりの面白さを知りました。
池澤 入学当初は、ITとかエンジニアとかではなく、映像を勉強しようと思っていたんですけれど、実際に入ってみて興味を持ったのは、エンジニアリングやインタラクションデザイン、VR、電子工作などでしたね。研究しつつ、Web制作会社でアルバイトしつつ、芸能活動も続ける、という生活を送っていました。
池澤 いえ、会社には一度も所属していないです。大学の友達はみんな就活していたので、それに触発されていくつかインターンをしてみたものの、なんかピンとこないなって……。インターンでは1000人規模の大きなプロジェクトなんかにも参加させてもらったのですが、自分が関わるのはほんの一部なので、あまりやりがいを感じられませんでした。
池澤 そうなんです。「私がこれを作りました!」と言えるくらいの規模感でやりたいな、と。結局、一番楽しかったのがアルバイトしていた小さなWeb制作会社の仕事だったので、アルバイトで得た知識を生かして、タレント業と並行しつつ、エンジニアとしてはフリーでやってみることにしました。
芸能とエンジニア、両方やっているからこそ得られるもの
池澤 芸能の仕事で呼ばれたときに「Webサイト作れます」とか言っていたら、「じゃあ試しに作ってみる?」と言ってもらえたんです。最初はWebデザインの仕事でしたが、そういうのの積み重ねで、徐々にいろいろなプロジェクトに呼んでいただけるようになりました。
池澤 それがですね、芸能活動を通して気付いたんですが、私そんなに表に出るの好きじゃないなって(笑)。両方をやっているからこそ得られるものも大きいので、芸能の仕事も続けていきたいとは思っています。でも正直、コンピューターに向かってコツコツものづくりする方が好きなんですよね。
池澤 タレント業をしていると、番組やイベントの企画などで新しい技術や人、モノに触れることができるんです。IT業界って技術の入れ替わりが激しいので、最新の現場を見る機会に恵まれるのはありがたいんですよね。逆に、エンジニア業をしていることで、タレント仕事の際にいいことを言える、といった利点もあります。
池澤 休日がほとんどないことですね。平日に芸能活動をすることがある分、どうしてもエンジニア業の方が土日に食い込むことが出てきます。
池澤 そこらへんは事務所にも理解してもらっていて、繁忙期は芸能の仕事を詰め過ぎないようにしてくれています。最近だと「メルチャリ」というアプリケーションにソフトウェアエンジニアとしてがっつりジョインしていたので、リリース期は大変でしたね……。床で寝ていたら中耳炎になりましたし。でも、「メルチャリ」は自分の今までの経験の中でも大きな案件で、検索するとたくさん感想が出てくるというのは初めてだったのでうれしかったです。
出演情報の告知が面倒だったので自分でbotを作った
池澤 まずはもっといろいろなプロジェクトに入って、技術的に成長したいと思っています。業界の流れが速過ぎて、キャッチアップが本当に大変なんです。最近はアプリケーション制作の案件が多くて、ここ2年くらいWeb制作に関わっていないのですが、たった2年でめちゃくちゃ変わってますし。
池澤 私がWeb制作をしていたときは、フォトショップでデザインを作ってCSSとかを書きながら実装していくのが主流だったのに、それはもう古いとか。jQueryというJavaScriptライブラリを使ってコードを書いていたのが、今はReactじゃないとダサいとか。2年前とあまりにも違い過ぎて、イチから勉強しないとって思っています。そういう、日々学んでいかないといけないのが、この仕事の面白いところでもあるんですけどね。
CSS……Webサイト制作に必要な言語(HTML)をどのように表示・装飾させるか指定する言語
jQuery……プログラミング言語の一つであるJavaScriptをより容易に記述できるように設計されたもの
React(React.js)……ブラウザで動作するWebアプリケーションのUI(ユーザインターフェイス)を担当するJavaScriptをより容易に記述できるように設計されたもの
池澤 自分の作品と言えるものは、小さいものだったら今すでに作っているんです。例えば、出演情報をTwitterでつぶやいてくれるbot。これは自分で、自分のために作りました。出演者の欄に「池澤あやか」と書かれている番組だけ抽出して、勝手に告知してくれるんですよ。
池澤あやかさんTwitterより(@ikeay)
GitHub - ikeay/tv-info-bot: タレントのTV出演情報をTwitterでつぶやく
池澤 いつも告知を忘れちゃっていたのが、これを作ったおかげで解決しました。最近ではbotのつぶやきを見て、ああ今日出演あったんだー、と知っています(笑)。
池澤 将来的にはエンジニアの技術を使って「体験」を作りたい、というのがずっと軸にあります。ただ、そんなに具体的にちゃんと考えてはいないです。今の時代って特に、状況に合わせて柔軟に対応するバランス感覚が必要だと思っていて。どんなパーツが来ても大丈夫な自分でいたいですね。
取材・文/朝井麻由美
撮影/関口佳代
お話を伺った方:池澤あやか さん
タレント・エンジニア。第6回「東宝シンデレラオーディション」審査員特別賞受賞。映画『ラフ ROUGH』(2006年)にてデビュー。『あしたの私のつくり方』(2007年)、『デトロイト・メタル・シティ』(2008年)、ドラマ『斉藤さん』(2008年)などに出演。現在はタレント業と並行しエンジニアとしても活動中。
Twitter:@ikeay
編集/はてな編集部