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米メディアが糾弾した「トランプの本質」。日本で報じられない大統領選【直前解説】

トランプ

アメリカ大統領選の現地報道から、日本ではあまり報じられないニュースを解説する。

REUTERS/Kevin Lamarque/File Photo

日本時間の11月5日夜(現地時間で5日朝)に投票が始まる米国大統領選。

選挙戦が最終盤を迎えるなか、10月下旬には激戦州ミシガン州でのカマラ・ハリスの集会、CNNでの共和党副大統領候補・JDバンスのインタビュー、それにニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンにおけるトランプの集会と盛りだくさんだった。

この数週間でトランプ自身の発言の過激さは増しており、同時に元トランプ政権高官たちの「トランプはファシストという言葉の定義に当てはまる」との発言も注目を集めている。

アメリカでは大きなニュースになっているのだが、日本でこの件をとりあげているのはBBCやCNNの日本版以外は、ごく少数の新聞、ネットニュースのみでそれらもごく軽くしか扱っていない印象がある。

米国大統領選挙が本国アメリカでどう報道されているのか、それを理解することは今の世界情勢を理解する上でも欠かせないだろう。

この記事では2回に分けて、日本語ではあまり報道されていないと感じる、いくつかの出来事とその意味について、解説を試みたい。

記事の前編では、大統領選終盤の米有力紙の報道や、副大統領候補の炎上とその対応、「トランプ氏はファシスト」という発言について紹介する。

また記事の後編では、ニューヨークでのトランプ集会の熱狂や、ミシガン州におけるカラマ・ハリスの集会でのミシェル・オバマのスピーチなどを取り上げる。

後編:トランプ氏「悪い遺伝子が持ち込まれている」暴言止まらず。日本で報道されない大統領選【直前解説】

ニューヨーク・タイムス、派手に「反トランプ」

10月27日、日曜日の朝、私がスマートフォンを見てまず目にしたのは、ニューヨーク・タイムス(NYT)日曜版オピニオン欄の表紙の画像だった。

NYTはしばしばビジュアル的に非常にインパクトのあるデザインをぶち込んでくることがあるが、今回のものもその一つだった。

一面を丸々つかい、大きなフォントで書かれていたのはこんな言葉だ。

トランプ氏は、こう言っている。敵を起訴する。強制送還する。市民に対して軍を使う。同盟国を捨てる。災害に乗じて政治を行う。彼を信じなさい。

これには前振りがあった。この広告が出る2日前の10月25日、NYTが掲載した “What Trump Says” という記事だ。このオピニオン面の表紙の言葉は、トランプ自身のこれまでの発言をそのまま引用し、整理したものだ。

このNYTの記事は、彼の発言を淡々と羅列することによって、読者をリマインドするという効果があった。また、その見せ方が効果的だった。見出しの一部はこんな感じだ。

Trump says he will use the Justice Department to punish people he doesn’t like. Believe him.

(トランプ氏は、司法省を使って自分の嫌いな人たちを罰するという。彼を信じなさい)

Trump says he will round up and deport millions of immigrants. Believe him.

(トランプ氏は、何百万という移民を逮捕し強制送還するという。彼を信じなさい)

2016年の選挙の時からそうなのだが、トランプの発言の多くは、あまりにも常識を超えているので、聞く側は「まさか。そんな狂ったことを本気で言っているはずがない」と思ってしまう。

このNYTの記事がリフレインする「Believe him」は、そこを突いている。「まさかと思うでしょう。でも、彼は本気なのです。彼の言葉を信じなさい」と読者をリマインドしている。

ワシントン・ポストには批判集中

このNYTの記事が出たタイミングは奇しくも、もう一つの由緒ある大手リベラル紙、ワシントン・ポストとの相違をハイライトすることになった。

10月25日、ワシントン・ポストは1988年以来初めて、大統領選でどちらの候補者についても支持を表明しないことを発表した。

この決断は、オーナーのジェフ・ベゾスの意向を反映したものということだった。ワシントン・ポストは 2016年も2020年も民主党の候補を支持したし、このたびもカマラ・ハリスを支持する原稿を既に用意していたのだが、最終的にベゾスがボツにしたと報じられた。

「ベゾスはトランプに睨(にら)まれて、ビジネスの面で損をする羽目になりたくないから日和ったのだ」「権力者が怖いなら、最初から新聞なんか買うな」などという批判が噴出した。

なにしろ、ワシントン・ポストは、映画「大統領の陰謀」「ペンタゴン・ペーパーズ」でも知られるとおり、権力に果敢に挑戦し、歴史を作ってきた新聞なのだ。

この発表が報じられると、オピニオン欄の編集長で著名コラムニストのロバート・ケイガンが即日辞任。さらに19人のコラムニストが連名で批判する記事を掲載した。

大統領選において、支持を明確にしないというワシントン・ポストの決定は、深刻な誤りである。これは、我々が愛するこの新聞が、編集における基本的信念を放棄したということを示している。今は、民主主義的な価値観、法の支配、国際的同盟関係、そしてそれらを脅かすドナルド・トランプについて、組織として明確な姿勢を示すべき時なはずである。(10月25日付ワシントン・ポスト

皮肉にも、ワシントン・ポストのスローガンは「Democracy Dies in Darkness」だ。ロイター通信の報道(10月29日付)によると、この日1日で、約2000人の読者が抗議のため購読をキャンセルし、それが5日後の10月30日には 25万人以上にまで膨れ上がった。これはワシントン・ポスト購読者250万人の約1割にあたる。 購読を辞めた読者は私の周りにもいた。

「子なしで猫飼う女性」発言の代償

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バンス発言の抗議として販売されていたTシャツ。

撮影:渡邉裕子

大統領選ではトランプだけでなく、副大統領候補のバンスの発言も注目されている。

バンスと言えば、副大統領候補になってすぐに浮上した2021年の発言が炎上した。その発言とは、「民主党は、Miserable childless cat ladies (子なしで、猫を飼って孤独に生きている惨めな女性たち)が仕切る党になっている」というもの。 その例として、バンスは、下院議員のAOC(アレキサンドリア・オカシオ・コルテス)、カマラ・ハリス、ピート・ブーティジェッジ運輸長官を名指しにしていた。なおハリスは、2014年、50歳の時に結婚しており、夫の連れ子2人がいる。ブーティジェッジは、同性婚しており、養子を迎えて育てている。

さらにこの発言の炎上後も彼はそれを撤回せず、むしろいかに自分が正しいか繰り返し続けた。このことのダメージは大きかった。

バンスの発言は、一夜にして女性たちの怒りを買い、抗議として膨大な数のTシャツやミームが生まれた。テイラー・スウィフト(アメリカで最も成功しているChildless cat ladyと言えよう)も、彼への抗議を込めて、ハリスへの支持を表明したメッセージにわざと「Taylor Swift, Childless Cat Lady」とサインしたほどだった。

そもそも、このMiserable childless cat ladiesの話については、バンスが何を達成しようとしていたのかが謎だ。

この2021年の録音の中で、バンスは「子供のいないこれら民主党政治家は、未来に利害関係がないのに、そんな人たちが国を動かしているのはおかしなことだ」と主張している。だがこれは、不妊やその他さまざまな事情で子がもてない人に対して非常に失礼な言い方だし、思慮に欠けた残酷な言葉だ。

またカマラ・ハリスのように連れ子(あるいは養子)を育てている人、離婚・再婚で複雑な家庭、同性愛のカップルは、現代のアメリカには決して少なくない。

バンスの発言は、一定の価値観の押し付けであるだけでなく、多くの人を無駄に傷つけ、侮辱し、怒らせた。 世論調査での彼の好感度は、過去20年の副大統領候補の中で最低レベルと報じられた。

バンスは討論会に勝った ── 事実を無視するなら

バンス氏

共和党大統領候補のバンス氏。2024年10月27日、ニューヨークの集会で撮影。

REUTERS/Andrew Kelly

そんなマイナス・スタートを切ったバンスにとって、2024年10月1日の副大統領候補による討論会は、視聴者が彼に対して持つイメージを変える最大のチャンスだった。彼は相手の話を最後まで大人しく聞くよう、明らかに努力していたし、討論相手のティム・ウォルズに対しても一貫して礼儀正しくしていた。

ロースクールを出ただけあって、たしかにバンスは弁が立つ。早口で言い返し、相手が反論できないようなスピードで畳みかけ、反撃を遮り、追い詰めるのがうまい。

でも、よく聞いていると、彼のやり方にはパターンがあることがわかる。

  • 聞かれた問いに答えない。または問いをさえぎる
  • 問題をすり替え(論点ずらし)「今話すべきは、AではなくてBの方だ」と言う
  • 自分の言いたいことだけを、よどみなく一方的に強引にまくしたてる
  • 前にした発言と一貫性がなくてもまったく気にしない

例えばバンスは2016年、トランプを「アメリカのヒトラー」と言っていた。2022年、上院に出馬した際には、「トランプについて私は意見を変えた。彼は、私のこれまでの人生の中で一番素晴らしい大統領」と発言をひるがえしている

トランプに仕える多くの人々同様バンスも、トランプを擁護するためなら、論理が破綻していようが虚偽だろうが構わず、何でも言う。

討論会の中で、司会がバンスのある発言に対して事実との齟齬を指摘した際、バンスは「今日はファクト・チェックしないという約束だったはずだ」と怒った。

「副大統領候補による討論会はバンスの勝ちだった」という人たちもいるが、私は討論会を分析したヴァニティ・フェア誌の記事のタイトルが、あの日起きたことをうまく言い表していると思った。

「JD Vance Won the Debate ── If You Ignore the Facts」

(JDバンスは討論会に勝った ── 事実を無視するなら)

そして、討論会の最後に民主党・ウォルズがしたひとつの質問、それに対するバンスの対応だけをとるなら、バンスの負けだったと私は思った。

ウォルズの質問は「トランプは2020年の選挙に負けましたか?」というごくシンプルなもの。バンスはその質問にイエスともノーとも言わず、それとは違う話を始め、ウォルズに「答になっていない」と一蹴された。

討論会から10日後の10月11日、ニューヨーク・タイムスとのビデオ・インタビューで、記者が改めて「あなたは討論会でこの質問に答えませんでしたね。私も聞きたいと思います。トランプは2020年の選挙に負けましたか?」と尋ねた。

またしてもバンスが話をすり替え続けたため、記者は同じ質問を5回も繰り返した(それでもバンスは答えようとしなかった)。

結果的にはその5日後の10月16日、ペンシルバニア州でレポーターに同じことを聞かれ、やっと「トランプは負けていない」と答えた。

「住民が犬を食べている」発言…バンスが作ったストーリー

CNN-News18

バンスの「開き直り」を象徴するような発言もあった。

9月10日にハリスとトランプによる討論会で、トランプが「ハイチ移民がオハイオ州スプリングフィールドで住民から犬や猫を盗んでは食べている」という根拠のない主張をしたのを覚えている人も多いだろう。

この荒唐無稽な話についても、バンスは数日間にわたってトランプを擁護し、「オハイオ州を代表する上院議員である自分は、有権者たちから報告を受けている」と言い続けた。

スプリングフィールドには、トランプのこの発言以降、爆弾を仕掛けたという脅迫が続けて起き、学校や病院が閉鎖され、ついには市長が「政治家たちが変なことを言ったおかげで、うちの市は大変迷惑している。やめてくれ」という声明を出す事態にまで発展した。

メディアが調査しても、犬や猫をハイチ移民が盗んで食べているなどという報告は警察には来ていないということだった。

また、スプリングフィールドのハイチ系移民は大多数が合法的移民であること、彼らは重要な労働力であり、その存在が地元で問題になっているということはないし、彼らのせいで犯罪が増えているなどということもない、ということも報じられるようになった。

それでも騒ぎが収まらない中、9月16日付のガーディアンによると、9月15日のCNNのインタビューで、司会のデイナ・バッシュが、バンスとの長いやり取りの後、「スプリングフィールドの話は、あなたが作ったストーリーなんですか?」と突っ込んだ。

バンスは、「イエス。アメリカの人々の苦しみにメディアの目を向けさせるためには、ストーリーを作らなくてはならないこともある」と、あっさり認め、トランプと自分のおかげでやっとメディアがスプリングフィールドの町の問題に目を向けるようになったではないか、と開き直った。彼らの発言のせいで、大勢のハイチ系移民たちが大迷惑をこうむり、生活を乱されたにもかかわらず。

トランプが言う「内なる敵」とは?

バンス氏

10月27日、CNNが公開したバンス氏のインタビュー。

撮影:横山耕太郎

NYTがトランプ氏の主張をでかでかと新聞に掲載したのと同じ10月27日、日曜朝の人気テレビ番組で、約17分間にわたり、バンスがインタビューを受けた。

できたらこちらのビデオを最後まで見てみて欲しい。彼という人がどういう人かよくわかる。

この17分間のインタビューでは、10月1日の副大統領による討論会の時とはまるで違うバンスの姿がむき出しになった。

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