Zoomのエリック・ユアンCEO。
Reuters/Carlo Allegri
Slack(スラック)、Atlassian(アトラシアン)、Zoom(ズーム)などは皆、フリーミアム版のソフトウェアを提供したおかげで飛躍的に成長してきた。だが、この無料モデルは衰退し、クラウドソフトウェア業界は新たな価格戦略を模索する兆しを見せている。
フリーミアムモデルでは、クラウドアプリを無料で使い始めることができるが、通常は機能が制限されている。まずは無料で提供するというこの戦略は、新たなユーザーを惹きつけるうえで効果ありと実証済みの方法で、使ってみた人が会社の同僚などにも勧めてくれることが期待されている。社員が機能を試した後に、会社に有料版を購入してもらうのが理想的な展開だ。
多くのクラウドソフトウェア企業が今もフリーミアムモデルを採用しているが、米投資銀行のビスタポイント・アドバイザーズ(Vista Point Advisors)の調査によると、このモデルは徐々に衰退しつつあり、Inc.5000リスト(注:Inc.誌が選ぶ、米国内で特に成長著しい非公開企業のリスト)に掲載されているSaaS企業のうち、何らかのフリーミアム製品を提供しているのはわずか15%だという。
ビスタポイントによると、クラウドソフトウェア市場では、企業が1ユーザーあたりの月額使用料ではなく、実際の使用量に応じて料金を支払う従量課金の価格設定など、他のモデルも検討されているという。
あるいは、顧客はユーザー数が増えるまでは1ユーザーあたりの料金を支払い、人数が増えたらディスカウントされたエンタープライズ契約について交渉するという、従来の販売モデルに戻ろうという動きも見られる。
ビスタポイントのマネージングディレクター、マイク・リヨン(Mike Lyon)はInsiderの取材に対し、次のように語る。
「同じ企業の中で何人かの社員に製品を使ってもらえるようになると、その企業からは『今うちで15人が使っているから、エンタープライズ契約にしてほしい』などと電話がかかってくるケースは多いものです。ある程度の数のユーザーがいる会社に対しては、ソフトウェア企業にとっても商品の魅力を説明してさらに売り込むのはたやすいですから」
フリーミアムはなぜ廃れつつあるのか
ソフトウェア企業は今、ユーザー数の多さよりも売上継続率(NRR)を重視するようになっている。長期的に製品を利用してくれる「質の高い」ユーザーを求めているのだ。フリーミアムでは解約が多く、顧客が定着しないとリヨンは指摘する。
2000年代初頭にセールスフォース(Salesforce)などが先駆けとなったSaaSの黎明期には、新しいクラウドアプリを採用するよう顧客を説得することは今より難しかった。
多くのクラウド企業は、自社製品の価値を示し、最終的に有料版を買ってもらうためにフリーミアムモデルを採用した。フリーミアムモデルは、クラウド企業が顧客を獲得するために極めて重要な手段となった。
しかし現在、企業は何種類ものクラウドソフトウェア製品を利用しており、フリーミアムの必要性は低くなっているとリヨンは言う。
多くのフリーミアム製品は広告収入で支えられているため、顧客はフリーミアム製品をまるでスパムのように低品質の製品と認識するおそれもある、とリヨンは付け加える。
「製品の品質が高いほど、フリーミアム版を使う必要性は低くなります」と彼は述べている。
また、米大手会計事務所デロイト(Deloitte)の最高クラウド戦略責任者、デイビッド・リンティカム(David Linthicum)によると、顧客は機密情報の漏洩や、フリーソフトウェアによるプライバシーの侵害を懸念する可能性もあるという。
フリーミアムはまだ成長しているという声も
しかし、例えばZoomなどのソフトウェアは無料で提供されていたため、コロナ禍で大ヒットとなった。フリーミアムなら、大規模な営業チームがいなくても製品はおのずと広がっていく。
SaaS管理ツールベンダーのズィロ(Zylo)の最高経営責任者兼共同創業者のエリック・クリストファー(Eric Christopher)は、「1回の無料お試しで10万ドルのソフトウェア契約を結べる、という考え方が今や現実のものとなっています」とInsiderに語る。
多くのソフトウェア企業の間では、フリーミアムは引き続き一般的なモデルであり続けるとリンティカムは考えている。リモートワークにはさまざまなクラウドソフトが必要であり、購入前にツールを試してみたいと考える人が多いからだ。
「人々は仕事の場が変化していることを理解しており、リモートワークは今後も続く現実だと分かっています」とリンティカムは言い、有料版を買う際には「しっかり両目を見開いて」検討するだろう、と結んだ。
※この記事は2021年10月21日初出です