チベット仏教の寺院で幸運を祈る人たち(2023年4月22日、北京)。
REUTERS/Tingshu Wang
- 中国の若者の間では、伝統的なキャリアではなく「専業子ども」を選ぶ人たちがいる。
- 専業子どもはおつかいや掃除、食事の準備をして親からお金をもらっていることが多い。
- 失業率の高さや中国の「996」と呼ばれる働き方(午前9時から午後9時まで週6日出勤)がキャリアアップを魅力的なものでなくしている。
従来、「大人になる」ということは「独立する」ということであり、それはしばしば親元を離れることを意味していた。ところが、中国ではこの考えを覆し、実家にとどまって「専業子ども」として働く若者たちがいる。
中国の若者の中にはキャリアアップを拒否し、伝統的な仕事を諦めて、お金や住居費と引き換えに子どもとしての義務 —— おつかいから家事、親の世話まで内容はさまざまだ —— を続けることを選ぶ人もいる。「専業子ども」の背景には、中国の「996」と呼ばれる過酷な働き方(午前9時から午後9時まで週6日出勤)や就職難などの影響がある。
これまでの報道によると、「専業子ども」の厳密な定義はなく、どんな義務を負い、どのくらいの対価を得ているかは人それぞれだ。ただ、実家で生活をし、親からお小遣いをもらっているということではなく、専業子どもは何らかの決められた仕事をすることでお金を受け取っているのだという。
例えば、専業子どもとして働いているジュリーさん(29)は、親のために食事の用意と掃除をしているとBBCに語っている。報酬を払うという親の申し出をジュリーさんは断ったものの、彼女の生活費の大半は両親が払っているという。バーンアウト(燃え尽き症候群)からの回復途中だというジュリーさんは、以前は1日16時間労働を強いられ、「歩く死体」のような気分だったと話している。
ジア・チャンさんも専業子どもという考え方を受け入れている1人で、両親から毎月給料をもらっているとNBC Newsは伝えた。コロナ禍で経済的に苦しくなり、経営していた小さな会社を畳んで今は両親のために働いているという。
専業子どもとしてのチャンさんの1日には、食料品の買い出しや家事などが含まれるとNBC Newsは報じた。両親のために働き始める前は、自身の仕事と2人の子どもや両親の世話のバランスを取るのに苦労していたとチャンさんは話している。両親のために働くことで、月に8000元(約16万円) —— 中国の一般的な給料と同程度 —— 稼いでいるという。
リツキー・リーさん(21)も、専業子どもとして働くことで家族からお金をもらっているとCNNに語っている。リーさんは家族のおつかいをしたり、認知症の祖母の世話をしている。CNNの取材にリーさんは、学校や職場の激しい競争に身を置くよりも自分は「寝そべり(躺平(タンピン))」を選ぶと語った。
リーさんのように、中国では多くの若者が「寝そべり」トレンドの一環として現代の労働文化を拒否している。ソーシャルメディアでは卒業式用のガウンやキャップを身に着けて、文字通り地面に寝そべる意気消沈した自分たちの姿を投稿し、 会社での出世競争には参加しないという選択に言及する大学生たちもいる。
同様に「投げやり(摆烂(バイラン))」というトレンドも、若者たちに疲労感や絶望感を率直に表現することを促している。これは娯楽や労働意欲の低下を促す風潮だ。
一般的な労働規範を拒否するこうしたトレンドは、大学卒業後の就職難や中国の多くの若者が感じている希望のない未来への不安から生まれているようだ。中国では若者の失業率がこれまでになく高くなっていて、中国の国家統計局によると5人に1人は仕事に就いていない。
中国では、雇用されて働いている人は仕事以外のことに費やす時間がほとんどないことが多い。午前9時から午後9時まで週6日働く「996」勤務体制だ。
アメリカでは、親と生活をともにするミレニアル世代やZ世代の若者が増えている。2022年にはアメリカ国勢調査局が25~34歳の成人のうち、男性の18%、女性の12%が親と同居していると答えたと報告している。Credit Karmaによると、Z世代ではさらにその割合が多く、18~25歳の調査対象者のうち30%近くが家族と同居しているという。
ただ、「専業子ども」という中国のトレンドは、大学卒業後に単に親と同居することとは異なるようだ。家族の手伝いをすることで何らかの対価が生じるからだ。
中国では「専業子ども」に特化したソーシャルメディアのグループまである。中国のSNS「豆瓣(ドウバン)」 のグループはメンバーが数千人にのぼり、人気プラットフォーム「小紅書」では4万件を超える「専業息子」「専業娘」に関する投稿があるとCNNは報じている。