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アリババ創業者のジャック・マー氏は2015年、韓国のテレビ番組で若い起業家たちに「チャンスのつかみ方」を英語でスピーチした。
前年にアリババグループのニューヨークでのIPOを果たしたマー氏は、「なぜ他の人が見つけられなかった機会を、あなたはつかめたのか」と、何度も聞かれたという。マーは1990年代にインターネットビジネスに目を付けた当時を振り返り、「皆が理解できないものだから、自分にチャンスが回ってきた」「夢を理解し、一緒に取り組んでくれるチームは不可欠だ」と語った。
本稿ではそのスピーチの全訳をお届けする。
このような場で皆さんとお話する機会をいただき光栄です。
昨年(2014年)、アリババはIPOを行いました。素晴らしいIPOでした。私は「非常に賢い人物」と評価していただきました。どうやって会社を大きくしたのですかとよく質問されました。
しかしIPOの前、アリババは「ひどいモデル」「問題だらけの会社」と評されていたのです。それはそうですね。100%中国製ですから。
私は独学で英語を学びました。プログラミングも独学ですが、細かなロジックはいまだに分かりません。でもね、それは重要ではないんです。
私たちは未来に対して大きな期待を抱いています。同時に、未来をとても心配しています。
私は裕福な家に育ったわけでも、名門大学を出たわけでもありません。
大学は3回受験し、3年目にどうにか、中国の杭州市で「中の下」とされる教育大学に入れました。だけど私は、母校が一番の大学だと思っています。ハーバードやウォートン・スクールよりも。
ハーバード大学には10回応募しましたが、だめでした。ひどいでしょ。
それが人生ってものです。もちろん、当時はとてもつらかった。絶望と言ってもいいでしょう。
結局大学で教えることになりましたが、当時の月給は10ドル(約1100円)です。楽ではありません。
だけど、私は何かが私を待っていると固く信じていました。自身の正しさを証明するために、がむしゃらに働きました。
不満は他の人に言わせて、あなたはその解決を考えるべき
私の経歴はキラキラしたものではないし、自分を賢いと思ったこともありません。
誰も私が成功するとは思っていませんでした。それどころか、異端者だ、狂ってる、絵空事を言っていると見られていました。
1994年、インターネットビジネスをやろうと考えたときには、23人に「ばかげたアイデア」だと猛反対されました。彼らはインターネットという言葉を聞いたことがありませんでした。
コンピューターの知識もないのに何を言っているんだと。誰も私を信じませんでしたが、私は私を信じていました。
1994年、アメリカでコンピューターと出合い、絶対に大きくなると確信しました。ただ、これほど大きくなるとは思いもしませんでした。
「賢くて、大きなビジョンがあったから1994年にインターネットに目を付けたのだろう」とよく言われますが、事実ではありません。いい仕事がなかったから、それをやるしかなかったのです。
こうして物語が始まりました。16年後、アリババグループ、Tmall(天猫)グループ、タオバオ(淘宝)グループ、アリペイというビジネスに育ちました。どうやってこのようなビジネスをつくりあげたのか、なぜ、他の人は見つけられず、あなたが機会を見つけたのか、そうよく聞かれます。
今も昔も、皆同じことを言います。ジャック、チャンスはどこにあるの?
仕事がない、これがない、あれがないと言うんです。
ジャック・マーが考えるビル・ゲイツやザッカーバーグと凡人の違いとは。
Reuters
20年前、私はビル・ゲイツを恨んでました。彼が全部仕事を持っていった。ラリー・ペイジやビル・ゲイツ、このような成功者がうまくやれて、なぜ自分はチャンスに恵まれないんだろうと、他の人と同じようなことを思っていました。しかし、その後、分かってきました。
幸運なことに私は成功し、多くの有名人と面識を得ました。ビル・ゲイツ、ウォーレン・バフェット、ジャック・ウェルチ、ラリー・ペイジ、マーク・ザッカーバーグ……。彼らが他の大勢と違うのは、未来について常にポジティブで、決して文句を言わないことです。代わりに、他人の問題や苦しみを解決することを考え続けています。
それが機会なのです。機会は人が不満を言うところにあるのです。誰かが不満を言うのを聞いたら、それをどう解決できるか考えてください。それが私のやり方です。
皆がいいと思うものは、チャンスが回ってこない
1994年、1995年。多くの中国人が商品を海外に売りたいと考えていました。しかし取引の場がありませんでした。
大企業はラスベガスやドイツの貿易イベントに参加していました。小さい企業は、貿易イベントに行きたくても行けないと不満をこぼしていました。ビザがない、金がない、人脈がないからと。
そのとき、インターネットがあれば小さな企業のそういう問題を解決できるのではないかとひらめきました。しかし誰も私の考えを理解しませんでした。インターネットに何ができるのか?と冷ややかでした。
でもね、すべての人が信じることができ、歓迎するものはやめた方がいいです。そこにあなたの機会はない。
皆が認めるものなら、あなたの順番はなかなか来ません。
皆が分からないものでも、あなたがいいと思うなら、慎重に考えた上で一緒にやってくれる人を見つけましょう。
その夢を信じて、一緒に走ってくれる人はちゃんと確保してください。
投資家やあなたの友達、親が信じるかどうかは、問題ではありません。あなたやあなたのチームが信じればよくて、がむしゃらに働けば、実現します。
投資家たちは私の会社に10年間投資を続けてくれていますが、私たちが何をしているかあまり分かっていません。
多くの人になぜ素晴らしい投資家にサポートを得られるのか聞かれますが、「ジャック・マーならやれる」と信じてくれているからです。たぶん、どのようにやるかは、あまり分かっていません。
第三次産業革命はこれからが最も良い時期
アリババ設立から3年間、私たちは1ドルの利益も得られませんでした。
そんな中でなぜ前進し続けられたか。
クライアントから感謝のメールをたくさんもらったからです。これはとても素晴らしいことだ。お金は払えないけれど、私にとって本当に助かるサービスだ。もし今後も続けてくれるなら、きっといつか成功するでしょう。そんなことが書いてありました。
私たちは今、21世紀で最も輝かしい時代に生きています。
第一次産業革命はイギリスの蒸気機関車の発明が、50年にわたって世界に繁栄をもたらしました。
第二次産業革命はエネルギー革命です。電気の出現が50年の繁栄を支えました。
インターネットの歴史は、たったの20年ですよ。今後30年が、最も実りの多い時期になります。特に若い人々、20代、30代の皆さんは本当にラッキーです。次の30年間が最もよい期間ですから。
これまでの20年間は、インターネット・テクノロジー(IT)の時代でした。ITは大企業をさらに大きく、強くします。ITは自身をより強くします。
しかし、新しい技術の時代がやってきています。それはデータテクノロジー(DT)です。DTとITとは正反対のものです。
ITは「I have, You don’t have」で、DTは「You have, I don’t have」です。DTは共有し、責任を負うもので、未来への情熱です。
今後30年間はデータテクノロジーの時代です。お父さんやお母さん、そしてお友達はその時代を歓迎しないかもしれません。しかし信じれば、それは私たちにとっての時代になります。
DT時代は誰もが平等です。私たちは同じラインの上に立っています。現時点でDTの世界に専門家はいません。ITの専門家が適応するのは大変です。
皆さんにとって、若さこそが最良の資本です。
不満を言ってはいけません。不満は別の誰かに言わせておきなさい。不満を言う人は失敗しますから。
持たないことを嘆くべきではありません。どうやって現状を変えるかを考えるのです。脳をフル回転させてください。
アイデアがあっても人生を変えられない理由
最後に皆さんに言いたいこと。私は独学で英語を学びました。独学で、自分の頭をどう使うかを身につけました。
少年時代、私は杭州の西湖によく行きました。そこには多くの外国人旅行者が宿泊するホテルがありました。
私は毎朝5時にそこに行っていました。英語の練習をするために。なぜそうしたのか自分でもよく分かりません。しかし気づいたんです。外国人たちが私に話す外国のことは、親や先生から聞いたこととは全然違うことに。新聞に書いてあることとも違いました。
その頃から私は、何でも自分の頭で考えるよう意識し始めました。
本当にそうなのか。
機会はあるのか。
変えるために何をすればいいのか。
考えることです。考えたら、やるのです。
これまで、独創的なアイデアを思いつく若者をたくさん見てきました。でも彼は、夜によいアイデアを考えても、翌朝になると普段通り出社します。
動くのです。行動するのです。誰にとっても、明日は新しい1日です。
これが最後のアドバイスです。がむしゃらに仕事してください。人のためでも自分のためでもいいんです。私は自分のために仕事をすることを選びました。ただ、それは、社会のために働くのと同義です。
あなたが本当に自分のために働きたいと思うなら、他人のこともよく考えてください。DT時代は、人を助けることを考えるのです。
他人が成功し、他人が幸せになることで、あなたは成功し、幸せになるからです。
ありがとうございます。