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日々の破片

著作一覧

2012-09-02

_ デッカのCD

ショルティがシュトラウス(リヒャルトのほう。元の綴りだと間違いようはないのだが)の楽劇を振った音源がまとめてCD化されたので購入。

中学生のころ、それは聴いてみたかったのだが、一番短いサロメですらLPで確か3枚組とかだから手が出るはずはなく(リング33枚組を買ったところですべてのクラシック用の資金がショートしたってのはある)、NHK-FMでも流れるわけでもなく、ついに21世紀も10年過ぎてしまっている。

それが、まとめて4500円なのだから、長生きするものだ。

Solti Conducts Richard Strauss(Solti, G.)

(アマゾンでは発売されていないことになっているが、タワーではもう売り出しているのであった)

その間に、アラベッラや影のない女、ばらの騎士、サロメは新国立劇場で生を観られたし(これは遠山氏に感謝すべきなのだろう)、エレクトラはテオリンのをDVDで買って観られたので、相当に楽劇(オペラ)は手を伸ばしやすくなった(使える金が増えたってのはもちろんあるにしてもだ)。

逆もあるなぁ。

R.シュトラウス (作曲家別名曲解説ライブラリー)(音楽之友社)

音楽之友社の作曲家別名曲解説ライブラリーって、おれが中学のころは新書で普通に買えたから、音は聴けなくても文字による解説をなめるように読みふけった(あと、ドビュシーとマーラーを持ってた。つまり音源には自由に触れられないやつ。ドビュッシーは亜麻色の髪の乙女はいくらでも聴けたにしても、ペレアスとメリザンドやウルシア家の崩壊とかはなかなか聴けなかったし、マーラーはクーベリックとバーンスタインしかないし普通は2枚組なのでやはり高価でなかなか手が出ない)のが、なんか、すごく高価な書籍になっている。どうみても同じシリーズなんだが。

で、それはどうでも良くて、ショルティのやつで感心したのは、音源データ(歌手は誰で、どこで録音したというようなやつ)についてのそれなりに厚いブックレットはついてきているのだが、歌詞のブックレットは入っていない。オペラ(楽劇)はバレエとは異なって、テクストはすごく重要なので(それはモーツァルト・ダポンテの時代からそうで、シュトラウスもホフマンスタールと組んでいる以上、テクストと音楽はお互いに支え合ってどちらか一方だけ抽出するのはあまりにまずい。ただしヴァグナーを除く)、歌詞は付属していて欲しい(もっとも、真に重要な作品群はオペラ対訳ライブラリーで入手できるわけだ)。で、もう、そういうものだとあきらめるしかないのだろうと思っていたら、最後のCD(16枚目)がCD-ROMと書いてあって、そこにPDFで英仏独で歌詞が収録されていた。これは良い。

以前、babieさんが調べて教えてくれたのだが、オペラ対訳プロジェクトも素晴らしい。


2012-09-05

_ おれたちは成熟している

アスキーの鈴木さんから、Developer's Codeをもらった(例によってレビューに参加したからだ)ので紹介する。

良い本です。どう良いかは順に書く。

これは、ちょっと電子書籍向き(実際、おれはレビュー用のPDFを中華7"パッドに入れて通勤中に読んだ)なんだけど、物理書籍としても薄くて軽いから、悪くない。

著者は、Cheungという名前だから、多分、東洋系のアメリカ人(帰化しているかどうかとかは全然知らん)。

謝辞がいきなり、草稿をいろんな出版社に持ち込んだけど、こういうのは売れないよ、で終わってばかりだったけど、アンディとデイブが救ってくれたとかで始まる。

確かに、絶妙なタイミングの絶妙な本だ。

(もちろん、おれは、これが売れれば良いと思っているのでartonx.orgの下の1つのURIをこの本に割り当ててるのだ)

何が絶妙かといえば、この本は、大学出て、ベンチャーで働いて、多分挫折して、でもやっぱりこの業界(というよりも、システムの世界)が好きで戻ってきて、多分起業して、大成功はしていない(だって、みんなCheungって名前知らないよね?)けど失敗もせずに、まあどうにかやってきている30半ばの男が、これまでの自分とこの業界のかかわりかたと、そこで見て聞いて実践して成功したり失敗したり反省したり誇りに思ったりした、いろいろなことを(いくつもの出版社に売り込みに行って断られてを繰り返してもめげないくらいに)文章としてきちんと仕上げて、みんなに伝えたいと考えた内容の本、そのものだからだ。いかにも、いろいろ一段落した感じに成熟してきたWeb回りのビジネスの時代に合った絶妙の本だとおれには思える。

内容は雑多で(でも、各章が前章の引きに続いているので流れるインターフェイスっぽいんだよね)、エッセイ集というか、一番雰囲気が近いのはジェエルだけど、(おれが読んだ限りでは)ジョエルほどは如才なくない。(いかにも、一回は挫折したっぽいところはある。というよりも、副題のとおり(翻訳の新丈さんも書いているが)「本物のプログラマ」っぽいのだ。ジョエルって本物のプロダクトマネージャであってもプログラマって感じは受けないよね?

内容は雑多なので、これ! ということは無いんだけど、技術よりの内容(異様に現実主義のリファクタリング論とか)から、いかにも起業した人なんだなという後進へのアドバイス(ローンチ最重要、プライベートとの切り分け、専門家よりも多様性など)、突如はじまる計算量の説明、どれをとってもそうそうから、ほーそういうものなんですか(おれは伝統企業で働いているから発想が異なるベンチャー的な思考術から学べることが多い)まで、実におもしろい。

元の語り口も(おそらく)軽妙、新丈さんの訳は調子が良く(でも、kdmsnrさんよりはコンサバで、これはこれで好きな人は多そう)、適当に入っている原書のくだらない一コママンガ(突然、星新一がアメリカ一コママンガのファンで評論集を出していたのを思い出した、と脇道にそれる。それでおれはこういうのに親しんでいるだな)も味わいがあり、軽く読んで、いろいろ考えさせられる、つまり良いエッセー集だ。

Developer's Code 本物のプログラマがしていること(Ka Wai Cheung)

特にこんな人にお勧め:

Web系(に限らないけど)IT系ベンチャー(SIじゃなくて)ってどんな感じで、どういう人材が求められているのかなぁと考えている学生(日本とアメリカの違いは、このあたりの考え方についてはそれほど差はないとおれは思う)

Web系のベンチャーの若手:ロールモデルとは言えないけど(そこまでかっちりした本じゃない)、得られるものがあると思うよ。

Web系ベンチャーの中堅:同じような(対顧客系)悩みについてのあれこれがおそらくヒントになったり、背中後押しされたりすると思う。

SI系の若手:こういう業界もあるんだよ! というのをまとめ読み

SI系の中堅以上:こういう考え方のビジネスについても知っておこう

それより上(地位じゃなくて年齢とか)の人(おれ含む):なるほど!と思うこと多い。例)他人の褌になるけど、柴田芳樹さん曰く「マーカーをたくさん引きそうな内容の本」

_ 大事なことは別にする

Developer's Codeについて書くまでもないかなぁと思ったが、というのは、そうするとそこだけ立ち読みすりゃいいやってことになりかねないんだけど、それじゃ伝わらないだろうからやめとくかと思ったわけだけど、やはり書いておくと、もちろんふつうの本と同じく一番重要なことは最後に書いてあって、それが第8章のプライドというやつだ。

うーん、まあ、これはやはり誰かが書くべきことだろうし、それがたまたまCheungだったってことなんだろうけど、この第8章を堂々と書いているってことがこの本の一番の美点なんだろうな。

で、#p01のほうに誰がこの本を読むべきかとしていろいろ書いたけど、最初から7章までをもしちゃんと読めたとしたならば(というのは第8章だけを切り取るとコンテキストの妙な側面だけが強調されそうだからだけど)、本書は、プログラマではない人が読むべき本なのだ。

もし自分がプログラマならば、本書を家族にプレゼントするってのももしかしたらありなのかも知れない。プログラマというのはこういうものだよ、と言葉を添えて。


2012-09-09

_ ドン・パスクアーレ

子供がネトレプコのドンパスクアーレが欲しいとか言い出したので、誕生日祝いに買った。で、一緒に観た。

Donizetti: Don Pasquale [DVD] [Import](Anna Netrebko)

(リージョン1と書いてあるが、実際はフリー)

途中、ネトレプコが家で昼寝をしながら歌うところで退屈して寝たら怒られたが、それを除けば、ドニゼッティはそれほど好きでもないが、お話と歌手がうまいので、楽しめた。

2010年のメトロポリタン歌劇場での収録で、幕間にバックステージインタビューなどが入るので、DVDとしてはおもしろく構成されていて楽しい。

レヴァインが大儀そうにやってきて、椅子に腰かけ(というか半分ずり落ちているような恰好で、心優しいジャヴァザハットのように指揮をとるのだが(子供に言わせると、色がピンクだからバーバパパらしい)、これが良い。これまであまりレヴァインは好きな指揮者ではなかったが、妙に好感度がアップした。

お話は、あっと驚くスクールジのローマ版で、good-for-nothingな甥を追い出そうとするケチな老人ドン・パスクアーレを、甥の友人の医者、その妹で甥の恋人が結婚詐欺で手玉に取って、徹底的にいたぶって改心させるというひどい物語でびっくりした。コメディだとは知っていたが、ここまでいたぶったら洒落にならんだろうと思ってみていると、医者の妹がそれは美しいアリアで、やり過ぎたようね可哀そう、でももうひと踏ん張り、ここは心を鬼にして、とか手前味噌なことを歌うので、笑うところかどうか迷うような感じだ。

で、無事、散在人生に向かうことになってめでたしめでたし。

さて、なんでこれが2010年に掘り起こされたんだろう?

アメリカでも老人が金融資産をガメ込んでいるという問題があるんだろうか? でも、客はほとんど老人という、いずこも同じオペラ事情なので、違和感はありまくる。

甥は、ザルツブルクの森の中の瀕死のドンジョヴァンニでオッタヴィオを歌った人。ドンと医者は芸達者だが、たぶん、初見。

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_ かずひこ [確かに、Amazonで見られるパッケージの裏面を見たら、ちゃんとリージョン0になっているのが見えますね。 ちなみに私..]

_ arton [売るほうも、あまりアマゾンでの売り上げに期待してないのかも知れませんね。それはともかく、そのサイトを軽くながめました..]


2012-09-12

_ Windows7→Windows8マイグレーションの嵌りどころ

するするマイグレーションできるのだが、変なところで嵌った。

もっとも、Visual Studio 2008のVirtual PC版を利用した人はとっくに通った道らしい。

Windows7でVirtual PCで仮想マシンをいくつか作っている

Windows8にマイグレーションする

Virtual PCが無い! (もっともこれは既定路線であまり驚かない)

でもHyper-Vが無い!

コントロールパネル

→コントロールパネルが無い!

検索でcontrolを入力→やっぱり無い!

(実は、後になって「コントロール」と入れればコントロールパネルが出てくることがわかった)

デスクトップでタスクバーを右クリックして「ツールバー」→「デスクトップ」でデスクトップツールバーが通知領域の左に入る。

→コントロールパネルにアクセスし放題となる(コントロールパネルが2種類作成されるので、このうちフォルダになっていないほうを使う)

→コントロールパネル→プログラムと機能→Windowsの機能の有効化または無効化

→Hyper-Vをチェック状態にする

ところが、Hyper-Vは、Virtual PCのVMCXを認識しない。

→新規→仮想マシン……既存の仮想ハードディスクを使用するで、VHDを選択する

追記。この先の起動、再起動は仮想マシンのこと。

→起動するが、次のエラーが出る

・ライセンス認証のやり直し要求 → とりあえず「後で実行」

・未知のドライバ(たくさん) → とにかくキャンセル

→ Virtual PCの拡張機能をコントロールパネルのプログラムからアンインストールする

(確か、この過程でHALの再構成が走ったはず。とにかくHALの再構成は自動的に行われる)

→ 再起動

・ライセンス認証のやり直し要求 → とりあえず「後で実行」

・未知のドライバ(たくさん) → とにかくキャンセル

→統合サービスセットアップディスクの挿入

→統合サービスを組み込む

(HALの再構成はこの段階で自動的に行われたような気もする)

→再起動

→ネットワークが利用できるのようになっているので、ライセンスを再認証

→ ドライバはすでに解決済み(となった)

おしまい。


2012-09-13

_ 赤い超人が見張っているぞ

fbで確か松永さんがおもしろがっていた(と思うのだが、今見ると違うような。自分がコメントなりイイネなりした他人の投稿ってどうやって調べるんだ?)ので買って読んだよ、レッドサン(赤い太陽ではなくて、赤い息子だ)。

サンドマンが紹介されてから以来のアメコメ好きなのでもちろん楽しめた。

舞台は、スーパーマンがアメリカではなくソ連に不時着した別の世界だ。故郷の惑星が太陽に飲み込まれそうになったとき、両親は将来を託して赤ん坊のスーパーマンをロケットに乗せて地球に送り込んだのだった。それがアメリカに落ちるか、ソ連に落ちるかは単なる地球の自転がどこまで進んでいたかの差に過ぎない。というわけで、レッドサンの世界では落ちたコルホーズでロシア人の両親に大切に育てられる。

成長して超人として理想世界を作るために邁進する。

立派な労働英雄ぶりにスターリンは次の世代の指導者としてスーパーマンにソ連と共産主義の将来を託す。

おもしろくないのは、スターリンの子供の秘密警察長官だ。(ソ連はくされきったところがやまほどあったのは間違いないが、少なくとも北朝鮮とは違って、万世一系の独裁ではなく、実力主義によって最高権力者が変わるシステムを持っていた。なので、子供よりスーパーマンのほうが優秀ならば変な小細工はせずに、スーパーマンを後継者にするのは少しもおかしくはないのであった)

スーパーマンはすごいのだった。透視はできるし聴力もデビルイヤーだ。1300km離れたミンスクで列車事故が落ちそうだと気づけば、秘密警察長官との会見の間のほんの数秒のうちに飛んで行って列車を止めて戻ってくる。

そういう世界が気に食わない化外の民は当然ソ連にもいる。

かくして同じくなぜかソ連に生を受けて、反スーパーマン闘争のブレチンを刷っているところを秘密警察に踏み込まれて両親を射殺された少年は暗い妄念とともに、バットマンとしてスーパーマンとソヴィエト連邦に戦いを挑む。

そこに、アメリカ合衆国を事実上支配する超天才科学者レックスルーサーの対ソ謀略が絡み合い、物語は進む。レックスルーサーはこの世の楽園を現出しようと日夜人民のために奉仕するスーパーマンをたたきのめして、悪と陰謀と欲望に支配される自由な世界を獲得できるだろうか? 相変わらず鍛え上げた生身の肉体と優れたゲリラ戦術の持ち主バットマンとスーパーマンの戦いの結末はいかに。さらに赤くそまったアマゾンの王女、ワンダーウーマンや、ルーサーによって具現化したグリーンランターンは。

ちなみに、スーパーマンによって監視されているとはいえ、食糧増産がなされて天変地異は大被害が生じる前に解消され、大事故は未然に防がれるので、反逆の魂に揺さぶられない限り、ソ連はどうもとても住みやすそうに見える。その意味では、バットマンの立ち位置は日本国に対するオウム麻原だし、ルーサーの立ち位置は世界秩序に対するビンラディンですな。

スーパーマン:レッド・サン (ShoPro Books)(マーク・ミラー)

ブレイニアックというルーサーほどではないにしても本家スーパーマンの宿敵に相当するらしい宇宙人がソ連の友として重要な役割を担うのだが、これは知らなかったのでそこは裏の物語が見えなくて残念だった。

おれのヒーローはやはりバットマンだなぁ。(ルーサーは万能魔人過ぎてちょっと退屈だ)

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_ NameLess@どうもはじめまして。 [バットマンは反ソテロリストになるよりは秘密警察署長かコミンテルンの全体統率者で、 ルーサーは共産圏おなじみのノーメン..]

_ arton [いろいろ置き換えてみると面白いんですが(僕もいろいろ置き換えてやってみた)、それだとスーパーマンとルーサーとバットマ..]


2012-09-18

_ シャドウゲーム

妻がツタヤで借りてきたのでシャーロック・ホームズのシャドウゲームを観た。役者が良いこともあって、2作目もおもしろかった(1作目は劇場で観て、これもおもしろかったのだった)。

シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)(ロバート・ダウニーJr.)

展開が速いので、まじめに観ていないとあっという間に置いてけぼりになることもあって、途中から妻はグルの瞑想に入っていたが、おもしろいのになぁ。(2回あるお笑い迷彩服とかうまくできているし)

で、圧巻は、相手の動きを先にシミュレートして有利に戦う(あくまでも有利に戦えるというだけなのでやられてしまうこともある)グラップラー刃牙みたいな技をシャドウゲームとか呼んでいるのだが(刃牙が元ネタってことはないだろうから、チェス由来なんだろうけど)、これをモリアーティとお互いにやることでクライマックスの滝壺の戦いが脳内で繰り広げられることになるのだが、大摩のガロを思い出した。

忍法秘話: 大摩のガロ (1) (小学館文庫―忍法秘話)(白土 三平)

ガロはアナーキストの忍者なので、徳川による身分固定化された政権が日本を支配することが耐えられない(というほど、天下国家の視点を持つわけではなく、戦乱で親を亡くした子供に自活力をつけさせて独立した集団農業体制(この発想がアナーキーなわけだが)を作るために戦っているわけだ)が、こういった化外の民の存在を許すほど徳川政権は甘くない。というわけで、服部半蔵に命じて大摩のガロを暗殺しようとするわけだ。

だが、ガロが持つ忍術は遠くにいる人間の意思を読むことで先回りして有利に戦うというやつなので、服部軍団をして常に全滅の危機においやる。

そこで半蔵は、同じ術を持つ無風道人(追記:多分、露木道人の記憶違い)という仙人みたいな忍者を雇ってガロと戦わせる。同じ技を持つ優れた忍者とな、それは戦ってみるのも一興じゃ。

2人は対峙するやいなや相手が同じ術を持つことを読み、体術、技術すべて互角ということがわかる。

膠着したまま思惟だけで戦闘が行われる。

「互角のようじゃな」と無風が考える。「が、おれは子供らのために闘っている。おぬしは何のために戦っておるのじゃ?」「む……」

遥か遠くからそれを眺める半蔵に部下が尋ねる。「親方様(お館さまじゃないよな)、まじめに戦わないのはなぜですか?」「ばかもの、今、相手の先を読む我らには及びもつかない戦闘が行われているのじゃ……む、待てよ。ガロと無風が互角ということは、無風がガロを倒せば、第2のガロ……」

無風が目をかっと見開き、突如、ガロと息の合ったコンビネーションプレイで服部軍団に襲い掛かる。「しまった読まれたか……」あわてて逃げ出す半蔵(常に生き延びるという点では、圧倒的な存在なのだった)。(事前にそういう可能性を考えとけとか後付で思う以上に、その展開はおもしろいのだった)


2012-09-20

_ JTの米サイダー

高田馬場にイトーヨカードーができたというので、時々行くのだが、表から入ると2階で、裏から入ると1階という不思議なつくりのうえ、3階はダイソーだったりしてすごく微妙な品揃えで、悪くない(微妙な品揃えのほうがおもしろいじゃん)。

で、よくわからないものが特価になっていたりして、その中に米のソーダというのがあった。JTが作ったらしい。

で、何か乳製品がどうたらとか書いてあるし、はずれりゃまずそうだが、JTの味見の先生方は信用しているので買ってみた。

これはうまい。

炭酸はゆるめで、たまに日本酒のような香りがあって(かすかなので、たまに、としか言いようがない)、でも味は甘いサイダーだった。

B0098TN04M

もっとも、たたき売り態勢に入っているだけに(アマゾンのも安い)、全然、はやらなかったのだろうなぁ。一方、エスプレッソーダはまだふつうに棚に置いてあってさすがサントリーはJTと違うなぁと感心する。

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Before...

_ arton [プラッシーってタケダのバヤリースですよね? 飲んだことないんですが美味しかったですか?]

_ ムムリク [バヤリースとは別物だったかと思います。 メーカーも忘れてましたが、確かに当時はタケダが出していて、今も別の会社で出て..]

_ arton [あ、バヤリースって、オレンジ色の炭酸がきつくなくて店頭では見かけないけど全国ネットで広告している謎のジュースの総称と..]


2012-09-22

_ Windowsの妙な点を挙げろ!

はいはい、Snipping Toolは妙だ。

Paintでお絵かきして、ファイルを保存しようとする。既定のファイル名は、「無題.png」なので、「無題」を意味ある名前に変える。まったく問題ない。

ところが、Snipping Toolでファイルを保存しようとする。既定のファイル名は、「キャプチャ.PNG」だ。なので「キャプチャ」を意味ある名前に変える。

と、拡張子が「.PNG」なのでUnixにコピーした途端に見えなくなる(ls -l *.png って入れるだろう当然)(JKではなくTZだな)。

そこはPaintと同じく、「キャプチャ.png」にしろよな、と、Windows7の時に思った。もしかしたらVistaの時かも。でも、Windows8でも「.PNG」のままだ。

そういうところが、ガサツなんだよなぁ。Windowsっぽいというか。せっかく、非常に便利なツールを付けたのに、些末なところで点を落としている。


2012-09-23

_ Call by ValueとCall by Nameの違い

関数のパラメータについて、Call by ValueとCall by Nameの2種類への分類をする場合、この2つの差は、いつ評価するかにある。

Call by Valueは呼び出し時に評価する。

Call by Nameは呼び出し後に評価する。

したがって、この分類をするのであれば、C、Java、C#、Ruby、すべてCall by Valueとなる。

# Pass by ValueとPass by Referenceとは異なる話(日本語の「~渡し」というのはpass byの訳なのだな)

Scalaでは、Call by ValueとCall by Nameは、パラメータの型指定の場所(場所はそうだけど、おそらく、その位置がどの呼び出しかを指定する場所なのだと思う)をどう書くかで決まる。

def fun(x : Int, y => Int) なら、xはCall by Valueで、yはCall by Nameとなる。

今、上記のfunに対して、fun(1 + 1, 2)、fun(2, 1 + 1)の2つの呼び出しを考える。最初は、呼び出し前に、1+1が評価され2となり、fun(2, 2)として呼び出される(呼び出し前に1評価)。後者は、fun(2, 1 + 1)のまま呼び出される(呼び出し前に評価なし)。

もし、fun(x : Int, y => Int) = x ならば、後者の呼び出しのほうが高速に実行できる(cbvとcbnの差の1つは評価数=実行速度)。

次の関数loopを考える。

def loop() = loop

この関数は無限に再帰するため評価が終了しない。

fun(1, loop)と、fun(loop, 1)がある場合、前者は終了し、後者は終了しない。

もし、cbnがなく、def fun(x: Int, y: Int)としか定義できなければ、loopをいずれの引数としてもfunの呼び出しは行われない(呼び出し前にloopを評価しようとするが終了しないため)。


2012-09-24

_ RScript19をSubversionからgithubへ移行

RScript19は、ActiveScriptRubyの1.9対応(64ビット対応含む)コンポーネント。良くわからないけど、Win32OLEを置き換えているところの1.9対応をさぼっていたら、Encodingで引っかかった人からパッチが来たので、githubに置いてみようかと思い立ってやってみたら異様に簡単でびっくりした。

というか、移行を考えていない新規のリプレース案件なんてあり得ないわけだから当然のことなのかも。

元のリポジトリは、SubVersion Rep for RScript19

で、これが、github Rscript19になった。

・最初にgithubにレポジトリを作る(この時、最小限のREADMEと.gitignoreを作るか聞かれたので、少なくともおれは作ってしまった。たぶん、失敗)。

・sudo aptitude install git-core git-svn

(たぶん、git-coreは入っていると思うけど、git-svnは入ってないのは知っているのでやった)

・sudo gem install svn2git

・mkdir rscript19

・cd rscript19

・svn2git http://svn.artonx.org/RScript19

(リンクをたどるとわかるが、RScript19のレポジトリはtrunk、branch並列の標準フォーマットなので上記でOK。非標準だといろいろオプション設定が必要っぽい

・git remote add origin git@github.com:arton/RScript19.git

とやったんだから、あらかじめ作っておいて正解か。

・git pull origin master

(ここが問題で、つい、githubにReadmeを作ってしまったのでリビションがアンマッチとなったので、まずそのあたりを取ってきている)

・git push origin master

おしまい。

(この後、テストを作ったり、もらったパッチを当てたり、ビルドできないバグ見つけたり(なんでRuby-1.9.3-*には同梱できてるんだろう?)していくつかコミットして完了)

で、上のあれこれはもちろん、Linuxで実行していて、しかしビルドはVisual Studioを使っているわけで、WindowsのX(Xming)でemacsとgnome-terminalを動かしてLinuxを操作しながら、Linux上のローカルレポジトリをnet useでWindows側に持ってきて、そこのslnをVisual Studio 2010(まだ2010のプロジェクトのままなのだ)で読み込んでビルドしたりしているのだった。

で、これがVS2010は、ソリューションが怪しい出所だからチェックが必要だ、読むのやめとけ、本当に読むのか、いいのかおい? とかしつこく確認してきたりして、面倒なのであった。


2012-09-25

_ 久々に文学で感動した

最近、遥か以前に買ったウィーン世紀末文学選という岩波文庫を読んでいる。短編集で、世紀末ウィーンの香りがするようにという選者(池内紀)の意図から、短編小説あり、散文詩あり、批評ありといろいろでそれぞれ興味深い。

リヒャルトシュトラウスの楽劇で勝手知ったるホフマンスタールは、商店の女との一晩過ごし、翌々日にペストで死んでいるのを見るという幻想的で不可思議な作品、シュニッツラーの作品は亡霊が自分が死ぬ原因となった妄想の恋を語り掛け、バールは二股をかける女性に目が眩んだ若い伊達男とフランス人の太った商店主の奇妙な友情のような感情、シュテファンツヴァイクはギリシャ語の授業に落ちこぼれた学生の唐突な死という具合に、ヨーゼフ2世は死んで、ドイツハンガリー帝国は瓦解して、ナチスが出てきて、貴族は没落し、金持ちは破産して、それでもなんだか陽気なような、陰気なような、てんでんばらばらな作品と、あいまあいまのページには、クリムトやユンクやココシュカの画がはさまる、豪華なような優雅なような力強くもあり儚くもある、そういった作品集で、読めば頭の中ではシュトラウスのコウモリが浮かれていたり、トカイワインがふるまわれたり、エレクトラの不協和音が鳴り響くといった具合だ。

で、そうやって楽しく読んでいたら、突然、実に奇妙な作品に出合った。

題は『すみれの君』で、作者はポルガー。題はぱっとしないし作者はまったく知らんうえに名前を聞いたこともない。

読み始めるといきなり伯爵と男爵のトランプ勝負から始まる。伯爵は軍人をやっていておどろくべき伊達男で皆に好かれる軽妙洒脱な男で『すみれの君』とご婦人がたには呼ばれているのだが、いざ自分が話はじめるとえらくつまらないことしかしゃべれないという紹介がされて、つまらない男なのかな? と読み始める。

徹底的に男爵に負けて、信じがたい借財を負う。ギャンブル好きなのだが弱いのだ。すでに借金をしまくっていて、借りるあてすらない。

それでも24時間以内に返すと約束して金貸しのところへ行くと、大尉(伯爵は中尉なのだった)が保証人になれば貸してもいいと言われる。

でも大尉は旅行中で週末にならないと帰らない。

そこで伯爵はいきなり偽造の保証書を作って金を借りて男爵へ返す。

なんだこの話は?

と思うと大尉が帰ってきて、驚きあきれ借金のでかさに目を回すが、どうにもしょうがないので立て替えてやる。金持ちで良かったね。

という調子で世を渡っているので、ついに伯爵は軍人でいることすらできなくなり、ヨーゼフの服をヨーゼフへ返すことになる。

その後は、競馬の予想屋をやったり、給仕をやったり、社交界の裏方として社交界の中で生きる。

どんなに落剝しても、モノクルと白いカフスは常につけている。

これはいったいどういう話なんだ? と不思議に思いながら読み進める。

作者が登場し、伯爵は、美醜に厳格、卑しさと貴さに厳格、しかし、正不正には曖昧な2重思考の持ち主と説明する。なるほど男爵へきっちり金を返す律儀っぷりだが、それは大尉の署名を偽造し肩代わりさせるという不正のたまものであった。

ついにオーストリアハンガリー帝国は瓦解し民主化され、伯爵は伯爵ではなくなり、しかも年も取ったし、貧乏はどん底で、それでも馴染みの女性たちの誕生日には伯爵家の紋章を手で描き込んだカードを渡す(でも貧乏が恥ずかしくて会わない)とかしながら暮らしている。

ますますどうなるんだ、この話? と疑問に思うのだが、訳がおそらく元の文章を反映しているのだろう、優雅な語り口で先を読むのは楽しみである。

そこに大物女優が訪れる。伯爵は家に入れたくないが入ってきたものはしょうがない。

女優いわく、私と結婚してください。はてなんのことですか?

良くわからないが当時の法律の問題があるらしい。女優は私生児を孕み産むことになる。それはあり得ないことなので、結婚してほしい。した瞬間に離婚してくれ。お願いだ。

もちろん喜んで、と女性には優雅に振る舞う伯爵は二つ返事で引き受ける。

そして結婚式を目前にしたある日、伯爵が女優を訪ねる。「指輪が……」(伯爵はお金がないので、当然、指輪を買えない)

「どうせすぐに離婚するのだから、そんなものは不要よ。気にしないで」と女優は答える。だが、結婚に指輪を渡さない花婿があるだろうか、と伯爵はしばしこだわる。

女優はそれを軽く流し(しかし、これだけ落魄していても、紳士の務めに忠実であろうとする伯爵の思いに感銘を受ける)、今晩身に着けるアクセサリーについて相談する。落魄しきっているとはいえ、伯爵の審美眼は常に信頼に値するのだ。

伯爵は、最初に見せられた宝石がてんこ盛りのブローチを否定する。女優はそれを受けてシンプルな腕輪を手に取り、ブローチを伯爵にしまうようにと渡す。

そして結婚式が行われ、お互いに署名した次の瞬間に弁護士があらわれ離婚調停の準備をする。もう帰っても大丈夫よ、と女優は伯爵に告げる。

そのとき、伯爵はさっと小箱を取り出し女優に渡す。これをどうぞ。そして立ち去る。

女優は箱を開けると驚く。すばらしく優雅にして精細な細工がなされた指輪が入っているのだ。

それから数日して女優はブローチがなくなっていることに気付く。警察がブローチを探すと、ある宝石商がそれを扱ったと名乗りをあげる。ある紳士がそのブローチを渡して、加工賃として宝石を取り、台座を加工し直して指輪にしてくれ。そのデザインはかようにし、このような意匠にと、こまごま指示を出したのだ。

はい、それは私です、と伯爵はあっさりと認める。

女優は保証人となり、伯爵は養老院に入る。そこで女性たちの人気者になる。ゲームをすると必ず相手に花をもたせ、フランス語で優雅にゲームの相手をしてくれたことに礼を言うからだ。

女優は生まれた女の子に、『すみれ』と名付ける。

……

なんじゃこりゃ、と短編小説の名手たるオーヘンリーやサキやモーパッサンなどの諸作品と高速に比較しながら(そしてそれほど大したことないやと考えながら)、おれはすさまじく感動している自分に気付く。

何におれは感動したのだろうか? まったくわからない。伯爵の優雅な(しかし不遇な、でもまったくもって自業自得な)生き方だろうか、女優の伯爵に対する思いやりと敬意だろうか(だがずいぶんと図々しくもある願いはどうだろうか)、はて不思議だ。不思議だが、伯爵とそれに振り回された大尉や女優や宝石商や、あるいは養老院の老女たちが、いきいきと暮らしている様子がわかる。驚くほど悪意がどこにもない作品だから、気持ちが良いのかもしれない。だが、それだけなら感動はしない。単に気分が良いだけだ。なので、そういうわけでもない。

どこか、おれの琴線に触れるところがあったのだろう。

ウィーン世紀末文学選 (岩波文庫)(池内 紀)

本日のツッコミ(全3件) [ツッコミを入れる]

_ はら [うーん、すっかり読んだ気になったよ。ありがとうございます。]

_ arton [いや、それはもったいない。これはあくまでも粗筋(というのとはちょっと違うかなぁ。換骨奪胎したもの)で、オリジナルの翻..]

_ はら [とりあえず買いました。例によって30円かあ。]


2012-09-29

_ 草稿

アップルからのサプライズはお楽しみいただけたかな?

普段見慣れた光景に、ほんのささやかなスパイスをふりかけるだけでマジックの世界が見えてくることを、アップルの新しいマップで一足早く体験できたはずだ。

このちっぽけなデバイスが、現実を真にリッチなエクスペリエンスにチェンジする、この至高の瞬間に立ち会えた諸君は、真にラッキーだ。

おや、おやおや、どうやらお気に召さなかったようだね。

もしかするとアップルは一足どころか三歩先の未来を見せてしまったかもしれない。

オーケー、大丈夫だ。

われわれは、後戻りすることも、それがお客様のご要望とあれば、辞さない覚悟がある。

すぐに君たちに、2012年にふさわしい最高のエクスペリエンスをお届けすることを約束しよう。

さらなるサプライズだ。

新しいマップは、本日10:00、つまり今この瞬間iTunes Storeからダウンロード可能だ。もちろん、フリーで提供してあげよう。

これからもアップルをよろしく!

……

おい、おれにこれを言わせようというのか? とクックはジョブズボットが口述した草稿を投げ捨てると、真摯な謝罪文を自ら書くのであった。

Apple iPod touch 32GB 第5世代 ホワイト&シルバー MD720J/A(-)


2012-09-30

_ キアロスタミのライクサムワンインラブ

ユーロスペースで久々のキアロスタミ。

日本資本とか聞いて、いよいよイランで制作できなくなったのか、とやはり国防方面が強くなると自由は減るのだなとかうんざりする。

が、映画が始まるやいなや驚く。

いきなり電話による女性の一人語りが延々と続くからだ。しかも(最初はそれとは気づかないのだが)話者目線なので、誰が電話しているのかとかさっぱりわからない。

で、中卒社会人(ということはこの時点ではわからない)の知恵として、疑惑の人物が「~に居る」と既知の場所を口にした場合、そこのトイレへ行かせてタイルの数を数えさせる(もちろん、後から検証すれば良い)という小技を披露してタクシーで外へ出る。

新婚のむかでのジョーク(少しもおもしろくなく、主人公の女子大生はそれが何か本気でわからない)。

留守電が山ほど入っている。タクシーの中。移動中に声だけが流れる。サラ金の取立てが1件、祖母からの電話がたくさん。お仕着せがましい都会へ出た孫を心配する言葉。電話ボックスの張り紙を見た。途方に暮れている。銅像の前で待つ。

運転手へ駅のロータリーを経由するように頼む。

しずおか駅(たぶん、ちょうど良い銅像があったので利用したのだろう。本来は新宿駅だ)の銅像の下に黒っぽい田舎のおばあさんらしく見える服で立っている姿を映す。

もう一周。涙をぬぐう。

女子大生は後部座席に横になって寝ている。

場所がわからず、運転手がラーメン屋に入る。ひげのちょっとだけペロンパーを思わせる爺さんが荷物をいっぱい持ってついてくる。2階へ呼ぶ。

時間がかかる。(時間の経過の表現がうまいというよりも、実際に時間を経過させているのだ)

電話を何度も無視して留守番電話になったりする。弟らしき人物からの翻訳依頼。5行。息子への手紙で画商の話。

やっと相手をできる。最初は鸚鵡に言葉を教えている娘の複製画(日本画のモティーフで西洋画を描いた初期の例として説明されるが??)に似ている、次に娘の写真に似ている。最後に妻の写真に似ている。

食事は桜エビでだしをとっていて、それは女子大生が袋井の出身だからということになっている。

シャンパンを開けるが、女子大生は先に寝てしまう。

翌日、車で大学の正門近くへ来る。お話としてはしずおかから東京へ高速に乗って来たことになっている。

いきなり、正門前で男と言い争いになる。結局、振り切って校舎へ消える。テストだからだ。

男、たばこを吸おうとして火がないことに気付き、車へ来る。この間、ずっと目線の追い会い。

男、中卒で自動車整備工場の社長だと名乗る。あんたは祖父か? 疑問に対して答えることについての問答。答えない質問はしないことだ、と老人。

モーターベルトの異音に気付き、工場へ行く。ここで動きが出て、電話ボックスの張り紙を見せる。社長、部下へ一声ふた声かけて2階へ消える。殴った相手が大男だということを示し、空手3段だと女子大生に語らせる。

女子大生を本屋でおろし、一人になる。信号待ちの途中で寝息をかきながら寝てしまう。クラクション。

老人、車を止めると、おばさんの声で車の停止位置について言い合いになる。老人、無視して2階へ上る。

留守電。出版社からの校正依頼。電話が鳴り、出版社からの校正依頼が入る。途中で切れる。また電話が鳴り、それは女子大生からだ(老人の家はしずおかで、住んでいるところ、大学、自動車整備工場は東京のはずだから、時間と距離はこの時点でつじつまが合わなくなる)。電話が鳴るが無視して下へ降りる。

路地で座り込んでいる女子大生を見つける。クラクション。警官がうろうろ。後ろからクラクションが鳴らされるので発進し、裏へ回る。

すべてにおいて夢うつつで生きている人たちの話なのかというくらいに、電話とクラクションがひんぱんに入る。

二人で家へ着く。口の中が切れているので薬を買いに行く。先に家へ入っていろ。しかし女子大生は玄関で座り込んでいる。

という光景を薄いカーテン越しにとっていて、いよいよそれが取り除かれる。

塀の切れ込みに隣家の壁があり、その中央に正方形の小さな窓があり、それが開き、おばさんの顔だけがのぞく。

娘か?

あんたのお母さんが現れなければ、わたしが一緒になっていた。そうすれば家も近いし、弟が障害を負っているけど面倒も見られる。そうじゃないので、わたしはこの窓から外を見るだけだ。

とても怖い。

さらに追い打ちをかけるように、確かに障害を抱えていそうな人間が食事の片づけについて大声を出すのが聞こえてくる。おばさん、名残惜しげに窓から消える。

老人、帰ってくる。

二人で二階へ行く。昨日とかわらない食卓が映る(さっき、1人で帰ったときは、書斎の机側を映していて、食卓側は映っていなかったように思う)。1人分のグラスにはそのままワインが残っている(そういえば、蓋をしなかったようだが大丈夫なんだろうか)。

冷蔵庫からスープを出し、それから桜エビが嫌いだということを思い出す。(冷蔵庫から出したのは一人で帰ってきたときかも)

突然、社長の声。ドンドン叩く音。ドアが開く音、階段を上る音。ドアを蹴る音、怒鳴り声。

階段を降りる音。ガラスが砕ける音。おばさんの金切声など、たくさん。

老人、窓から下をのぞこうとする。最初は机の後ろの窓。次に左手へ消えて、そちらの窓(通りに面しているはず)。また机の後ろの窓。

バン。

おしまい。クレジットは短め。静岡と横浜が撮影に協力。

すごく、おっかなかった。特に、おばさんが怖い(もちろん、社長も怖い)。ラストもおっかない。

おそらく、脚本はテヘランを舞台に考えていたのではなかろうか。内容は普遍的で、銅像の下のおばあさんが、黒いチャドルでもまったく違和感がない。

日本で制作することになっていじくったのはおそらく画の説明の部分くらいで、それ以外はどこの国でも通用しそうだ。

映画作家としてはこれより先はないだろうというくらい、すさまじい表現力で、まったく息もつかせない。

実におもしろかった。


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