記事のポイント
- シジュウカラの巣は合理的で聡明さを感じさせる構造に
- その姿から、なぜ地球が生物の舞台になれたのかをテーマに3冊の新書を読了
- 水とCO2を循環させるマントル対流が生態系発展の仕組みだった
■小林光のエコめがね(46)■
年末にシジュウカラの巣箱を清掃した際、その巣の構造が合理的で聡明であることに感銘を受けた。恒例の年始の読書では、なぜ地球が生物の舞台となったのかについて考えた。水とCO2の循環を司るマントル対流が、生態系の発展を支えているようだ。(東大先端科学技術研究センター研究顧問・小林 光)
人はそれぞれ年末年始のリチュアル(儀式)があるが、多くの場合は、大掃除や年賀状出し、初詣かと思う。自分もそうだが、ディテールはある。大掃除のうち、特に、高木の枝剪定、室内では水回り清掃などはプロに任せて、自分は、掃除するにしても違う所を担当している。
初詣では、生地である世田谷区松原の鎮守が菅原神社だったので、「学問の神様」として知られる天神様へお参りをする。そして、天神様にお参りする以上、新年にふさわしく、大局に眼を開かせてくれるような学問の成果にも初参りすべく、何冊か読書をすることを恒例としている。なお、卒年賀状をしてしまったので、年始後の寒中見舞いで対処している。
今年の模様を報告しよう。
■巣箱からシジュウカラのヒナが飛び立つ
大掃除では、世田谷の生家を建て替えた羽根木エコハウスに隣接するエコ賃貸の「羽根木テラスBIO」の草管理と、エノキなどの高所に設置した小鳥の巣箱の掃除を自分の担当とした。木本類の管理は、所詮は枝の剪定なので、植木屋さんで問題なくできるが、草本になると、根から抜くべき雑草なのか、ビオトープの一員として意図的に植えてある野草なのか、区別した対応が求められる。そこで、草対策は、自分が担当することにしている。
とはいえ、冬の草本対策は簡単だ。ドクダミやブタクサ、コミカンソウ、ヘクソカズラやヤブカラシなど明々白々の雑草は根を抜く。そして、常緑のカンアオイなどを除き、他は全部、深く考えず地表部から上を切ってしまうだけの単純作業だ。
そうした中、今シーズンの大掃除で初めて加わった作業は、昨年冬に高所に2つ設置したシジュウカラ用の巣箱の清掃であった。
昨年は、お陰様で、2つの巣箱には、同時ではなくシークエンシャルではあったものの、つがいがそれぞれに入ってくれて、相当数の小鳥の巣立ち、繁殖に成功した。
せっかく実績ある巣箱だが、調べると、一度作った巣の再利用はされないという。元の通り、躯体だけの巣箱へと、冬に戻してやらないと、来春、つまり次の繁殖期での営巣は期待できないようである。新居探しの事前内覧が早々にある由だからだ。そこで誘致に成功するよう、巣箱も大掃除した。
写真は、その巣箱を、掃除のために開けたところである。
何ときれいに整った巣なのであろうか。とにかくびっくりした。糞(ふん)一つなく、清潔だ。幼鳥の糞は、都度、親が運び出す。クッションあるいは構造材部分は、おそらく苔を丁寧に集めて真ん中をくぼませたもの。そして、その上にかぶせてある、保温材かなと思う被覆が獣毛、たぶん犬の抜け毛と思われる素材であった。
このきれいな巣は、もったいないが、そっくり取り除いて、箱だけにして高い所に付け戻した。私担当の大掃除はこれで完了――。
それにしても、人間が用意した穴の開いた箱を信頼して使う、という鳥の大胆な意思決定と、その中で、あんな小さな頭の鳥が、もっともな材料を四方から取捨選択して運んできて、こんなに合理的な構造の巣を作ることの新鮮さである。応用力、適応力がある。
さらに、冬など見ていると、シジュウカラもメジロも一つの群れになって、灌木などの細かい所に潜り込んで、一緒にエサを漁っている。聞くところによると、小鳥のさえずりには文法があって、情報交換しているという。ついでだが、メジロもかわいいので営巣してくれないかと密かに期待している。
あんなに小さな生き物もインテレクチュアル(聡明)なのだ。
■生物はどのように地球に誕生したのか
そんなにインテレクチャルな生物たちが、そもそもどうしてこの地球に誕生できたのか。大掃除の際に強く疑問に思った。
昨年までの年始読書のテーマは、生物が「生態系」といったソフトウエアを、もっと突っ込んで言えば、相互依存、相利的な協力を、いかに発展させて、自分たちの繁栄を築いてきたかについてだった。
しかし、今年は、もっと遡って、なぜ地球が生物のそうした発展の舞台になれたのか、いわば地球と生物のコラボについて、改めて勉強してみようと考えた。
そこで年末に、お馴染みの講談社の新書シリーズ「ブルーバックス」から3冊を買い込んだ。たかが新書と言うなかれ。そもそもの紙面制約を踏まえて中身が凝縮される一方で、読みやすくなる工夫もあり、メッセージが明らかで、面白いのが新書である。
お陰様で、各1日で読んでしまった。ちなみに、大学の時の専門ゼミ「計量地理学研究会」では、師匠の故・高橋潤二郎君(慶應義塾大学名誉教授、慶應では先生は諭吉さんだけに限られていて、前代の一万円札も一諭吉先生と数えていた)が、教科書の輪読以外に、毎週1冊の新書の読み込みをアサイメントにしていた。そのお陰で、森羅万象に、コスパよく関心を注ぐことができた。
さて、それぞれの要旨をここで紹介したのでは、ネタバレで、諸賢の読書の折角の楽しみを奪ってしまう。そこで、本連載では、地球は生物をなぜ生めたか、その地球の仕掛けに関して、印象深かったことを記しておく。
まず地球は、程よい太陽からの距離で、それなりに多量の水を取り入れられた。その上、そこそこの重さに育つことができたので、大きな熱源を核として抱え、これらの結果、地球には、含水率が高い柔らかい岩が流動して、地下と地表との間に、物質(水やCO2)を循環させるシステム(マントル対流)ができた。
このシステムが負のフィードバックを組み込んでいるので、今に至る40億年ほど暴走することなく、安定的に海などを維持させてきたということである。
全球凍結や大隕石の落下、大火山の爆発などのエピソードがあるものの、この循環の仕組みが、生物を生むだけでなく、生態系として発展させた舞台なのである。アミノ酸からRNAへの化学進化の経路は解明されていないものの、原始の生命(原核生物のようなもの)は、海ができてから数億年もかからずに誕生したようである。
そうか、水の環境か――。自分としては、この循環の仕組み、特に水が循環しつつ果たす役割について特に興味を引かれた。
来年の学問初参りは、水の書物にしたい、と思った。また、本欄では、生態系の知恵をビジネスに活かすことで、もっと良い商売ができるのでは、といった問題意識から執筆しているが、水を頭に置くとビジネスがどう変わるかについてフォーカスしながら、事例を掘り下げていきたい。