記事のポイント
- 服飾雑貨ブランド「ecuvo,」は廃棄されるものを再生した素材を使う
- 長く大切に使ってもらえるよう永久修理を保証し、手袋・靴下は片手・片足でも販売する
- 笑顔の象徴をブランド名に込め、組織としても「笑顔循環企業」を目指す
フクシン(香川県東かがわ市)が製造する服飾雑貨ブランド「ecuvo,(エクボ)」は、素材に廃棄される服やペットボトルを再生して作った糸、オーガニックコットンを使用する。長く大切に使ってもらえるよう、ほとんどの商品に永久修理を保証するほか、手袋・靴下は片手・片足でも販売する。笑顔の象徴をブランド名に込め、組織としても「笑顔循環企業」を目指す。同社の福﨑二郎社長に話を聞いた。(オルタナ副編集長=北村佳代子)
※フクシンの「ecuvo,」は、オルタナとサステナ経営協会が共催する「サステナブル★セレクション2024」の三つ星に選ばれました。次回の一つ星エントリーは、2025年1月14日まで受け付け中です。エントリーフォームはこちら
※「サステナブル★セレクション」とは、サステナブル(持続可能)な理念と手法で開発された製品・サービスを選定し推奨する仕組みです。
一つ星(★)は、製品・サービスが、持続可能な社会づくりに貢献していることを表します。
二つ星(★★)は、★に加え、企業・組織がサステナブル経営に取り組んでいることを表します。
三つ星(★★★)は、★★の中から特に大きな社会的インパクトを生み出していることを表します。
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■「永久定番化」で、アパレルの廃棄問題の解決を提案する
――「ecuvo,(エクボ)」はどのような社会課題の解決に貢献していますか。
福﨑:当社のある香川県東かがわ市は、日本一の手袋の産地です。当社をはじめ、手袋メーカーは、日本の四季の中で、手を温め、心を温めることを仕事とすることで生かされています。地球温暖化によって、冬の手袋、マフラー、帽子が必要なくなれば、私たちの仕事もいらなくなってしまいます。そうした思いから、当社は環境問題に真摯に取り組んでいます。
物を大切に長く使うことは、一番環境にやさしいことです。「ecuvo,」は何十年も着用いただけるシンプルなデザインで「永久定番」化を提案し、ほとんどの商品に、永久に修理することをお約束しています。靴下や手袋は、片手片足のみでも販売しています。
素材には、廃棄される服や糸、ペットボトルを再生して作った糸などのリサイクル素材や、オーガニック素材、自然に還りやすいナチュラル素材を使用しています。また廃棄予定の食品を天然の染料とすることでフードロス問題の解決にもアプローチしています。
製造過程では、捨て糸や編み捨てなどのゴミを出さない「ゼロゴミ編み立て法」を独自の研究開発で生み出しました。工場・オフィス・倉庫の発電は再エネ100%で稼働しています。地球環境のために行動できることはすべて取り組んでいく、という方針で進めています。
当社のような小さな企業でも、環境問題の解決に向けて積極的に行動していることを発信することで、一人でも多くの方に環境問題を考えていただくきっかけになればと考えています。
■「笑顔循環企業」が生み出すブランドに
――「ecuvo,」の開発の経緯を聞かせてください。
福﨑:私は社長として、2016年頃から当社の理念やブランド価値を社員に浸透させるインナーブランディングに注力してきました。ちょうど2015年に国連が採択したSDGsにつながる活動もインナーブランディングの活動に取り入れました。
重要なのは、スタッフが笑顔で仕事をし、そこから生まれる商品・サービスを受け取るお客様も笑顔にしていくことです。そのような「笑顔循環企業」を当社の目指す姿とし、売上や利益の指標ではなく、より大きな笑顔を生み出すためにはどうすればよいのかという視点で社員とコミュニケーションを図ってきました。
新たに会社のスローガンに「たくさんの笑顔を紡ぐ」を掲げ、そこから笑顔の象徴であるエクボをブランド名とした「ecuvo,」が生まれました。
笑顔の循環を生み出すスタッフに、笑顔になっていただくために、会社としても健康経営の推進や、人材採用における雇用条件の撤廃など、さまざまな取り組みを行ってきました。
例えば、スタッフとその家族のインフルエンザ予防接種費用や、健康保険に加入していない短時間労働のスタッフも含めた全スタッフの健康診断費用を会社で負担しています。
また当社の求める仕事ができる方であれば、国籍・年齢・障がいの有無に関係なく採用しています。例えば国内の縫製部門には、手袋界の国宝ともいえる技術を持つ80代の職人も働いています。
■「笑顔」がサステナ社内浸透の潤滑油となる
――開発・商品化の過程ではどのような苦労がありましたか。
福﨑:「ecuvo,」の苦労話として思い出すのは、「永久修理保証」サービスです。修理する際には、事前にお客様から写真を送っていただき、その写真をもとに修理が可能かどうかを判断した上で、修理が可能な場合はお客様に送料をご負担いただき、当社が無償で修理の作業を行います。
お客様にとっては、送料を支払ってでも修理して使い続けたいと愛着を持ってくださっているお品です。しかし当社の職人にとってみれば、修理には相応の時間と手間がかかり、面倒な側面もあります。新しいものへの買い替えを勧めるのではなく、どうして無償で修理までするのか、この方針に十分納得していない人も最初はいました。
「ecuvo,」の意義について伝えても、社員の間に理解の差があるのは仕方のないことです。それでもしっかり理解してもらえるよう伝えながら、仕事をしていただかなければなりません。
しかし、修理したお品をお返ししていくうちに、お客様からお礼の手紙やコメントが届くようになりました。それを目にした職人たちは、自然と笑顔になるんですよね。そうして職人たちの意識にも変化が見られるようになりました。
■サステナブルな地球を次世代に遺していく
――今後の展望を聞かせてください。
福﨑:一番大事なことは、サステナブルな地球を、子どもたちの世代にバトンタッチできるようにしていくことです。これは「ecuvo,」に限らず、私たちの世代の責任だと考えています。私自身も、ビーチクリーンやプロギング(ジョギングをしながらゴミ拾いをするフィットネス)などの社会活動をしています。
企業としても、そういう活動を続けることで、結果として、「ecuvo,」やフクシン、そして当社を支えてくださっているお取引先様が生き残り、最後に大きな笑顔が還ってくればよいなと思っています。
「ecuvo,」の展開を開始したのは2020年3月ですから、現状ではまだ当社売上の根幹をなす事業にまでは育っていません。それでも、「ecuvo,」を知り、当社の取り組みをご理解くださり新規にお取り扱いを始めてくださるが増えています。当社側から売り込まなくてもポップアップをしたいとお声がけをいただくこともあり、一定のご評価をいただきつつあります。
北米など、海外からも複数のセレクトショップからオーダーをいただいています。海外展開は送料や関税の問題もあり、一定の量がないとビジネスとして採算を取るのが難しい現状もあります。この問題は「ecuvo,」に限りませんが、JETROさんの協力も得ながら、展示会の活用や海外向け輸出の進め方を検討していきます。
私としては、インナーブランディングから生まれたこの事業を通じて、株式会社ecuvo,に名称を変更してもよいくらいの勢いで、育てていきたいと思っています。
※フクシンの「ecuvo,」は、オルタナとサステナ経営協会が共催する「サステナブル★セレクション2024」の三つ星に選ばれました。次回の一つ星エントリーは、2025年1月14日まで受け付け中です。エントリーフォームはこちら