【4月29日 AFP】オーストラリア南部タスマニア(Tasmania)州に生息する肉食性有袋類のタスマニアデビルは、伝染性がんのまん延により個体数が激減したが、猛烈な速さで適応進化しており、絶滅の危機を脱する可能性もみえてきた。

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 進化的変化は通常、数千年単位で起こるが、タスマニア北部の岩の多い山地では、この変化がリアルタイムで起きている。

 30年前に初めて確認された致死性伝染性がんのまん延により、タスマニアデビルの個体数は激減した。伝染性がんは通常、交尾やあごをつき合わせて戦う時に感染した個体が他の個体をかむことで拡散する。だが、専門家らは現在、約15%の個体に起きている劇的変化に注目している。

 気性の荒いことで知られるタスマニアデビルは現在1万5000匹から1万8000匹いるとされるが、最初の免疫反応の兆候が見られる個体がいるとの報告が出てきている。

 伝染性がんは今もなお感染するとほぼ死に至る病気だが、伝染性がんに感染した個体を調べたところ初めて抗体が検出され、がんにかかっても生き延びている個体が20匹以上いることが分かった。

 タスマニア大学(University of Tasmania)のロドリゴ・ハメデ(Rodrigo Hamede)氏は「この病気にかからない個体がいる。またがんになっても他よりも長く生きる個体もいる」と説明した。「少数ではあるが、がんから回復した個体、つまり、がんを自らの力で治した個体もいた」

 タスマニアデビルに毎日接している専門家らは、個体数を安定させるための重大な行動変化についても報告している。

 動物保護施設「デビルズ・アット・クレイドル(Devils @ Cradle)」の飼育員クリス・クープランド(Chris Coupland)氏は、交尾を始める年齢が早まっている他、雌の発情期が年に一度から増えており、個体数増加に期待が持てると指摘する。

「1年の間に複数回発情していることを初めて確認した。それが普通になってきている」とクープランド氏は話す。おそらく、個体群密度が低下していることが理由だと付け加えた。

 また、性的に活発になる年齢が早まっていることも確認されている。個体数が減少したため餌が豊富になり、競争が少なくなったため、以前よりも早く交尾が可能な体重に達するという。かつては2歳で交尾を開始していたが、今ではその年齢が1歳に早まっているとクープランド氏は指摘する。

 タスマニアデビルは今でも国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧種に指定されている。

 だが、ハメデ氏は、タスマニアデビルは驚くべき速さで伝染性がんに適応していることから楽観している。また、人間のがん治療のヒントとなる可能性もあると語る。

 病気への適応はいつの時代でも起きていることだとハメデ氏。だが、通常の進化の速度とは異なり、タスマニアデビルでは適応が6世代から8世代(12年から16年)で起こっていると言う。「これは驚くべき速さの進化だ」 (c)AFP/Andrew BEATTY