(CNN) 韓国で起きた一夜の政変は、米国の重要な民主主義同盟国である同国の安定を覆した。世界が緊迫する中、この出来事は周辺地域と米政府に衝撃を与えている。
韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は3日夜、突如として非常戒厳を宣布。しかし同国の民主主義を侵害する行為と広くみなされ、数時間後には、政治的立場を超えた圧倒的反対を受けて撤回された。
尹氏はこの動きについて「自由民主主義の憲法秩序」を破壊しようとする「反国家勢力から国を守る」ために必要だと主張したが、首都ソウルでは抗議活動が行われ、大統領の辞任を求める声が高まった。
この驚くべき展開は米政府を不意打ちしたようだ。この現実は米軍を不安にさせている。同軍は約3万人の兵力と最大の海外基地を韓国に置き、戦略的に極めて重要な地域で北朝鮮をけん制し、中国との均衡をはかる役割として機能させている。
この混乱は、ウクライナに戦争を仕掛けるロシアと北朝鮮・中国が連携を強め、アジアで地政学的な亀裂が深まっているこの時期に重大な影響を及ぼす可能性がある。
北朝鮮・中国・ロシアの指導者たちは、この地域における米国の重要拠点を弱体化させる可能性を念頭に、韓国の動向を注視している可能性が高い。そして今、各国の目は北朝鮮に向けられている。北朝鮮は政治的混乱に乗じようと躍起になっているかもしれない。
「重大な影響」
米国と韓国は長きにわたり、米韓同盟について、北朝鮮が違法な兵器計画で米韓を脅かし続けているこの地域の平和の礎と考えてきた。
諜報(ちょうほう)当局者は、北朝鮮がロシアとの協力関係を強化し、ロシアのウクライナ戦争を支援するために弾薬やミサイル、兵士を送っていることから、その脅威は深刻化していると話す。
退役米軍大佐のセドリック・レイトン氏はCNNに対し、「韓国のいかなる不安定化も我々のインド太平洋政策に大きな影響を及ぼす」と指摘。同国に駐留する米軍が北朝鮮と「今夜にでも戦う」シナリオに備えていることに言及した。「韓国の安定が失われるほど、我々の政策目標の達成は困難になる」
バイデン米大統領は在任中、韓国とのパートナーシップ強化に熱心に取り組んできた。尹氏と会談を重ね、同氏を「偉大な友人」と呼び、先ごろには「民主主義サミット」を韓国で開催するよう尹氏に委ねた。
ホワイトハウスの晩さん会に尹氏を迎えたバイデン米大統領=2023年4月/Evelyn Hockstein/Reuters
バイデン氏の取り組みには2023年に米キャンプデービッドで開かれた日米韓首脳会合も含まれる。同氏は日韓の歴史的な不信感をうまく乗り越え、3国間の連携強化を仲介した。
米国家安全保障会議の報道官は、「懸念すべき宣布」と評した戒厳令を尹氏が撤回したことに「安堵(あんど)」を表明。「民主主義は米韓同盟の基盤だ」と付け加えた。
観測筋によると、米国は同盟が「堅固」であると保証しているが、尹氏の意外な行動は、米韓関係に疑念を抱かせ、強化されつつある日韓関係を弱める可能性がある。
また、トランプ次期大統領の復帰を控え、不確実性は一段と高まる。同氏は米軍駐留に関する米韓間の財政協定に懐疑的な見方を示してきた。
ワシントンのシンクタンク、スティムソン・センターの上級研究員レイチェル・ミンヨン・リー氏は「尹氏の行動は、米国と日本に同盟国およびパートナーとしての韓国の信頼性と予測可能性に対する疑問を投げかける可能性が高い」と話す。
同氏は「(米韓)同盟に核兵器という要素の存在感がかつてないほど高まった事実を考慮すると、これは深刻だ」とも指摘。独自の核兵器を持たず米国の核兵器に頼る韓国は23年、米国と核抑止力に関する協力を強化することを明らかにしている。
問題を抱える周辺地域
政治的混乱は、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)総書記が混乱に乗じる隙も生み出している。
金氏は重要な兵器実験を行う際に政治的時機を見計らうことで知られている。例えば、先月の米大統領選の数日前には新型大陸間弾道ミサイルを発射した。
朝鮮半島を専門とする英オックスフォード大の政治学講師、エドワード・ハウエル氏は「北朝鮮が韓国で騒乱が起きるたび、好んで韓国の民主主義制度を当てこすることはわかっている」と語る。
同氏はまた、北朝鮮が言葉上やそれ以外で韓国の国内危機を利用しても驚くべきではないと述べた。
韓国の国会議事堂前に集まった人々=4日早朝/Soo-hyeon Kim/Reuters
この展開、そして今や韓国の指導者交代の可能性は、米国のアジアでの軍事プレゼンスに強く反対する中国とロシアからも注視されている可能性が高い。
中国の習近平(シーチンピン)国家主席と政府高官らは米国がこの地域の同盟国との連携を強化している状況を憤りを持って注視してきた。
多くの前任者よりも北朝鮮に対して強硬な姿勢を取ってきた尹氏は、米国の忠実なパートナーであり続けてきた。
北朝鮮がウクライナへ軍を派遣したことを受け、尹政権は韓国のウクライナへの軍事支援のレベルを再評価する可能性があると示唆してもいる。同国は直接的に殺傷兵器の供与は行っていない。
ハウエル氏によると、尹氏にとってどのような結果になるにせよ、こうしたすべてが現在の政治的状況に国際的な利害関係を生じさせることになる。
「北朝鮮が本格的に関与したことでウクライナ戦争に対する韓国の関心に注目が集まる中、国内の分裂によって韓国と同盟国との協調関係を妨げることはできない」(ハウエル氏)
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本稿はCNNのシモン・マッカーシー記者による分析記事です。